作戦会議
次回より、主人公の呼称はリュウヤに統一されます
一旦、一夜を過ごした部屋に戻り、少女をベッドに寝かせる。
その間に巫女姫は男性用の服を持って来ていた。
巫女姫に手伝ってもらいながら、衣服を着る。
敵がどこまで来ているか確認をするため、ふたりでギイの下を訪れる。
ギイは巫女姫の姿を認めるとすぐにやってきた。
「おう、巫女姫さんか。」
始源の龍は復活したのか、そう聞こうとして気づいた。巫女姫の隣に居る長身の男と、その肩に乗っている小さな龍に。
「状況はどうなってる?」
龍弥が尋ねるが、その答えより先に
「お前、リュウヤか!?」
さきに名乗っておくべきだったかと苦笑する。
「ああ、龍弥だ。そしてー」
肩に乗っている小さな龍を指して
「始源の龍、名前は"シヴァ"だ。」
身体の大きさを自在に変えられるらしい、と続ける。
それを聞いたギイは後ろに向き直る。
「始源の龍が復活したぞ!!」
よく通る大きな声で言う。
それを聞いた者たちの歓声が湧き上がる。
その歓声は、周囲へと広がっていく。
「もう勝ちは決まったようなものぞ!!」
ギイはさらに皆を煽り、戦意高揚させる。
正直、あまり煽ってほしくはないのだが、戦意高揚は必要なことでもある。
「ところでギイ、敵はどこまで来ているんだ?」
ギイに連れられ、簡易的に司令部に仕立て上げられた大部屋に入る。
中央にあるテーブルには、この周囲を描いた地図が広げられている。テーブルはドヴェルグに合わせられているため、龍弥たちには低い。そのため、上から覗き込むかたちになる。
「やつらは、オアシスをひとつひとつ潰しておる。」
戦術的に考えれば、それは間違ったやり方ではない。常に多数を形成しながら戦う、いわば各個撃破は王道ともいえる。
「じっくりと時間をかけられるだけの余裕が、相手にはあるということか。」
「忌々しいことじゃがな。」
ひとつ嬉しい誤算があるとすれば、昨夜の宴のおかげで龍人族全員がすでにここにいることだ。
これまでのギイの基本戦略は、この岩山の洞窟に引き込んで叩く、ということのようだった。洞窟の中ならば、敵も一気に兵を送ることはできない。敵の数的優位を潰すには最適な戦い方だ。
そこまで考えたとき、ギイが自分を見ていることに気づく。その顔はニヤリと笑っている。"さあどうする?"といったところだろう。
「打って出る。」
あっさりと答える。
「敵の方が圧倒的に多いのですから、打って出るのは危険ではありませんか?」
巫女姫が疑問を呈する。
「通常ならその通りだね。」
ただ、ここに籠るとなれば一種の籠城戦となる。籠城戦というのは援軍のアテがあって初めて成立するものだ。援軍がいない、期待できない籠城戦が成立するのは時間稼ぎ以外にはない。ギイが籠城戦を選択したのは、時間を稼いでいる間に非戦闘員を逃がすためだ。
そして今回の場合、自分たちにとっての最大戦力を活かすためには打って出るのが最適なのだ。
「最大戦力?」
巫女姫が首をかしげる。
「シヴァだよ。」
シヴァが力を奮うには外の方がいい。籠城戦でやられたら・・・
「みんな生き埋めだからな。」
龍弥がそう言って笑うと、釣られてみんな笑い出す。
笑いが治るのを待って龍弥が作戦を説明しはじめた。
外見としては、龍弥はとても自信たっぷりにしているように見えただろうが、内心は全く違う。おおいに戸惑っている。
"打って出るって、そんなに好戦的だったっけ?"
"戦略・戦術を語れるような人間か?"
"実戦経験ゼロなんですけど?"
"平和ボケ国育ちなんだけどなあ"
ボヤキが止まらぬ内心を無視して、龍弥の作戦案を軸にしてまとまっていく。
「では、一時間後に作戦を開始する。各自、それまでに準備を整えるように!」
内心、おおいに戸惑っているはずの龍弥の言葉で、作戦会議は締められた。