圧倒
蜂使いは、巨木がいきなり崩壊したことに驚く。
かろうじて地面に降りたものの、何が起きたのか理解できていない。
「あれは、リュウヤ陛下の・・・」
タカオは思い出す。エルフの使役する石人形を崩壊させたリュウヤの魔法を。
フェミリンスはあの現場にいなかった。おそらくは、同族にその様子を聞き、自ら編み出したのだろう。
「俺が暴走しないようにするために来たんじゃないのか、フェミリンスは。」
リュウヤは呆れている。
呆れているが、それと同時にフェミリンスの圧勝を確信している。
あの音の壁を、いかに大型の蜂といえど突破するのは困難だろう。一方で、フェミリンスは巨木を崩壊させた音波をいつでも発する事ができる。
リュウヤにとって不安なのは、フェミリンスが明らかに怒っていることだ。何に対しての怒りなのかは、リュウヤにはある程度しかわからないが。
リュウヤが見て取ったように、フェミリンスは怒っていた。リュウヤが見て取った怒りは、自分が任された"結界を張って非戦闘員を守る"ことに、自らの油断で失敗したと感じたこと。ただ、フェミリンス自身はそれだけでない、複雑な感情に支配されている。
今まで、盲目であることを理由として、ろくに役割を与えられてこなかった自分に、色々と役割を与えてくれて、達成感や充実感を与えてくれたリュウヤの信頼に応えられなかったことへの怒り。また、潜在的な敵と見做しているにもかかわらず、そう感じてしまうことへの怒り。
そういった感情が綯交ぜになっており、フェミリンス自身、自分の今の感情を理解することができていない。
理解できないイライラが、蜂使いにぶつけられることになる。
もっとも、そのイライラをぶつけられる立場になってしまった蜂使いはたまったものではないだろうが。
フェミリンスが見せた魔法の持つ意味を知らぬ蜂使いは、自らの支配下にある蜂たちをフェミリンスに向かわせる。その数、数百匹にもなるだろうか。
一斉に襲いかかる蜂たち。
だが、その蜂たちがフェミリンスに辿り着くことはなかった。フェミリンスが発した衝撃波によって、全てが落とされたのだ。
蜂使いは、ただただ唖然とする。
「もう、終わりですか?」
フェミリンスの声はとてつもなく冷たい。
そして、蜂使いは気づく。自分たちが、決っして敵にしてはならない者たちを相手にしていることを。
「降伏するのなら、殺しはしません。どうされますか?」
蜂使いは二者択一を迫られた。
サクヤもまた、蟻使いを圧倒していた。
ナージと呼ばれた蟻使いの使役する蟻たち。
その蟻たちもサクヤの元に辿り着けずにいた。
そのためにサクヤが使用したものは水。
サクヤは自分の名前の由来である、"木花佐久夜毘売"のことをリュウヤから教えられると、水の女神である木花佐久夜毘売に倣い、水を扱う術を磨いてきた。
その成果を発揮する機会が得られたことに喜びを感じている。
自身の周囲を水の壁で覆うだけでなく、それを高速回転させることで、群がる蟻たちを弾き飛ばしている。
蟻使いは、鏃に蟻を纏わせた矢を放つが、高速回転させた水の壁に弾かれる。
ことごとく打つ手を封じられたナージの首に、水の鞭が巻きつく。
「まだ戦いますか、ナージとやら。」
戦う意思を見せた途端、窒息させられるか、首をへし折られるか。
ナージも完全に追い込まれていた。