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龍帝記  作者: 久万聖
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参戦

体調不良が続き、更新時間が不規則かつ、頻度が落ちてしまっています。


楽しみにされている方々には、たいへん迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。

 リュウヤは一気に蜘蛛使いとの距離を詰める。


 だが、ふたりの間に黒い壁が現れたため急停止する。


「簡単に釣れたな。」


 黒い壁の正体、それは蟻の大群だった。


 リュウヤはその黒い壁に触れ、2〜3匹の蟻を捕まえる。


「サシハリアリに似ているな。」


 サシハリアリ。学名をパラポネラ。それ以上に有名なのは通称である"弾丸(バレット)アント"という名だろう。その針に刺されると、激痛が24時間以上続くという。


 だが、サシハリアリの生息域は、中南米の湿潤な低地多雨林。こことは気候が違う。


「いや、この顎は軍隊アリに似ているな。」


 ということは、この世界の固有種か。


 そんな風に観察していると、


「ナージ、勝手なことをするな。」


 蜘蛛使いが蟻使いを咎めるように言い、蟻使いは、


「申し訳ございません。」


 と反応する。


「そう責めてやるな。俺が炙り出してやっただけなんだから。」


 リュウヤが蜘蛛使いを宥めるように言い、蟻使いに


「なあ?」


 と声をかける。


 その言葉に蜘蛛使いは蟻使いを振り返る。その蟻使いは、全身を蟻に覆われているため表情はわからないが、大きく息を飲む音を立てている。


「そんなことが・・・、できるのか・・・?」


 蟻使いナージは驚愕している。あの男が突っ込んで来た時、あまりの殺気を感じたために、咄嗟に蟻の壁を出現させたのだ。歴戦の勇士たる自分が怖気立つ殺気。


 だがその様子を見るに、蜘蛛使いはそれを感じていなかったように見える。そうなると、答えはひとつ。


 あれほどの殺気を、間にいる蜘蛛使いに感じさせずに自分だけに放った。あの男は、そんなことができる戦士だということだ。


 "勝てるのか、あの化け物じみた戦士に?"


 ナージの心が巨大な不安に呑み込まれていく。


 一方のリュウヤは、予想以上の収穫を得ていた。


 ひとつはもともと狙いだった、3人目の使役する蟲の情報。


 副産物は、蜘蛛使いの立場の確認。


 ナージと呼ばれた蟻使いの言動からすると、蟲使いの一族の中でも、それなりに上位の立場にあることが推測される。


「サクヤ!」


 突然名を呼ばれて、サクヤは驚く。


「蟻使いはお前に任せる。やれるな?」


「はい。お任せを。」


 リュウヤの指示に、サクヤが答える。


 サクヤは優雅な歩みでリュウヤのやや後方に進む。


 サクヤを戦いに参加させるのは、彼女の戦闘能力を知らないため、それを把握するのが目的である。


「いいのかい?その綺麗な顔が、蟻の毒で見れたものじゃなくなるんだよ?」


 蜘蛛使いが声を掛けてくる。


「あら、心配してくださるのですか?ですが私たちの主は、できないことを命じられることはございません。貴方と違って、ね。」


 サクヤが蜘蛛使いを煽る。


 そして、その脇を悠然と通り過ぎて蟻使いに対峙する。




 蜘蛛使いは怒りに震えている。


 あのサクヤと呼ばれた女が脇を通ったとき、(しもべ)たる10匹の蜘蛛たちに攻撃を命じていたのだが、ただの一匹も動かなかったのだ。


 それは、リュウヤが蜘蛛たちを威圧して動かなくしていたのだが、その威圧の対象外となっている蜘蛛使いには、それが理解できない。


「フェミリンス!」


 突如、リュウヤが鋭い声を発する。


「フェミリンス様!!」


 アルテアが何かからフェミリンスを守るように手を広げて立つ。次の瞬間、小さな悲鳴をあげて倒れる。


「アルテア!!」


 フェミリンスがアルテアを抱き抱え、タカオがその原因を叩き落とす。


 10センチオーバーの蜂。


 フェミリンスの張った結界を潜り抜けたのか?そう思ったが、すぐにその考えを否定する。


 それよりも、野営をたたむ時か、昼食の準備をしていた時、こちらの警戒がどうしても緩んでしまう時にあらかじめ潜ませたと考えた方が合理的だろう。


「降伏するなら、解毒薬をあげるよ?」


 蜘蛛使いの言葉に一瞬色めき立つが、


「そんなものは存在しない!」


 リュウヤの言葉に鎮静化する。


 蜂毒の解毒薬は存在しない。なぜかといえば、蜂毒は採取できる量があまりにも少ないため、血清を作れるだけの量を得られないのだ。


「ヒサメ!刺された場所の確認をしろ!針が残っているようなら、ピンセットを使って針を抜き、患部を水で洗い流せ!」


 これは、蜂に刺された時の応急処置の方法である。問題は、過去にアルテアが同種の蜂に刺されたことがあるかどうか。刺されたことがあるならば、アナフィラキシー・ショックが起こる可能性がある。起きてしまえば、この世界で対処する方法はない。


「へえ、蟲のことを良く知ってるんだね?」


 蜘蛛使いが感心したように言う。


「それなりには、な。」


 虫を飼う習慣があるのは、"ギリシア人と日本人だけ"だというが、虫の習性をよく知っているのは、おそらくは日本人だろう。"飼う"だけでなく、日本人の生活の中に、どれだけの虫がいるだろう。


 虫が付く慣用句に(ことわざ)。その多さこそが、日本人が数多くの虫と共生してきた証拠である。


「私に、あの蜂使いの相手を任せていただけませんか?」


 唐突なフェミリンスの言葉にリュウヤは驚く。


「良いのか?」


 この言葉には、リュウヤとフェミリンスのふたりにしかわからない問いかけがある。


 フェミリンスにとってリュウヤは仮想敵であり、その目の前で戦うということは、手の内を明かすことでもある。


「かまいません。私の油断により、アルテアが負傷しました。その汚名を(そそ)ぐ機会をいただきたいのです。」


「わかった。蜂使いは任せよう。」


 リュウヤが返答した次の瞬間、蜂使いが隠れていた巨木が音もなく崩れ落ちていった。



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