表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
134/463

出発

「なぜ、ここにいるのかな?」


 アルテアにデス・スパイダーの幼生を預けて退室させた後、リュウヤがサクヤに問いかける。


 そこで返ってきた答えにリュウヤは一瞬、思考停止に陥る。


「リュウヤ様の、王宮の外での仕事姿を見たくてきてしまいました。」


 あれ?


 気分転換をさせるために、こちらに来させるための協力を求めたんだよな、アイニッキには・・・。


 それがなんで、俺の仕事姿を見ることになったんだ?


 ?マークが頭の中を乱舞する。


 思考停止しているリュウヤを見て、サクヤは


「アイニッキが言っていました。仕事姿というものは、とても格好良く見えて、良い刺激になると。」


 それは聞いたことがある。あちらの世界での話だが、"働いている姿"は魅力的に見えるとかなんとか。


 数少ない交際相手も、同じことを言っていたものだ。


 ただ、これが略奪になると、仕事姿しか見ていないために、普段の姿とのギャップについていけずに、長続きしないのだとか。


「そんなことのために来たのか・・・。」


 その呟きにサクヤが強く反応する。


「"そんなこと"ではありません!私は、リュウヤ様のことをもっともっと知りたいのです!他の誰よりも!!」


 リュウヤに詰め寄るように近づいており、これではどちらが問い詰めようとしているのかわからない。


「わかった。同行を認める。」


 もともと、同行させるつもりだったのだからこれはいい。


「ただし、特別扱いはしない。それが嫌なら・・・」


「それでかまいません!」


 サクヤが即答する。


 そこでリュウヤはアルテアを呼ぶ。


 入室したアルテアの頭の上にデス・スパイダーが乗っており、アルテアは涙目になっている。


「陛下〜。この子、言うことを聞いてくれないんです。」


 こういう言葉が出てくるということは、彼女は随分と図太い神経をしているのかもしれない。それとも、リュウヤに慣らされたというべきか。


 アルテアの栗色の髪の上にいるデス・スパイダーを左手に乗せると、


「タカオを呼んできてくれないか。」


「かしこまりました。」


 アルテアはタカオを呼びに退室する。




 部屋に入ったタカオは、サクヤを見ると絶句する。


「サクヤ様、なぜここに?」


「王宮を抜け出したそうだ。お前たちは俺の警護よりも、サクヤの警護を中心に考えよ。」


「わかりました。そのように計画を見直します。」


 部下と協議するため、タカオは退室した。



 翌日の出発に備え、会議と夕食は並行して行われる。


 その際に、サクヤが同行することをリュウヤの口から告げられる。


 そしてもうひとつ、リュウヤにやたらと懐いているデス・スパイダーの幼生に、"サスケ"という名前が付けられたことも、リュウヤから告げられた。




 早朝、リュウヤ指揮下の探索隊は出発する。


 森は原生林と言っていい状態であり、馬車はもちろん、馬も使えない。


 小型のリヤカーを作成して、人力により運んでいる。


 それも、大きな木の根などが邪魔をしており、思うような速度では進めない。それでも、ひとりひとりが担ぐよりはマシだと、皆割り切っている。


 もともと、地図の作成も並行して行われているため、進行速度が遅くなることは織り込み済みということもある。


「この方角で大丈夫なのでしょうか?」


 ミーティアが不安そうな言葉。


「大丈夫だろう。サスケの仲間が、先行している方角と同じだからな。」


 サスケとは、もちろん"真田十勇士"のひとり、猿飛佐助から取ったものだ。


「信用、できるのでしょうか?」


 ギュルヴィが疑問を呈する。


「できるだろう。罠に嵌るなら、とっくにやってるだろうからな。」


 ギュルヴィの疑問に答えつつ、空を見上げる。


 日は中空から西にやや傾いている。


「早いが、今日はここで野営するとしよう。」


 地図作成のための測量もあるし、補給隊のための道の整備(と言っても、草の刈り取りや低木の伐採くらいしかできないが)もしなければならない。


 足が遅くなるのも想定内だ。


「陛下。」


 フェミリンスがリュウヤのそばまで来る。


 フェミリンスは移動中はリヤカーに乗っているが、停車した状態では降りており、従者に手を引かれてリュウヤのところまで来たのだ。


「気づいているか?」


「はい。監視しているのは、蜘蛛だけではないようですね。」


「蜂がいるな。」


 蜂の行動距離と自分たちの移動速度を考慮すると、相手と遭遇するのは、


「明後日あたりに出会えそうだな。」


 リュウヤが呟く。


「フェミリンス、警戒を頼む。」


「陛下はどちらへ?」


「設営を手伝わねば、な。」


 人手は最低限しかいない。リュウヤも手伝わないといけないのだ。


 ただ、そうなると索敵・警戒能力が落ちてしまうため、それを補うべくフェミリンスが同行しているのだ。


「わかりました。警戒は私にお任せください。」


 フェミリンスはゆっくりと魔力探知を、半径数百メートルの範囲に広げていく。


「リュウヤ陛下並の精緻さを求めようとすると、私にはここまでが限界ですね。」


 半径数百メートルの精緻な魔力探知、それだけで隔絶した能力なのだが、リュウヤはそのフェミリンスの能力を遥かに上回る。


 現在、フェミリンスが展開している精度ならば、リュウヤは半径2〜3キロで展開できる。


 だからこそ、フェミリンスにはリュウヤの能力の凄まじさを理解し、そしてなによりもリュウヤが暴走することを恐れる。


「今のところは、怪しい存在はいないようですね。」


 フェミリンスはそう呟き、彼女付きの従者は主人を守るように側に立っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ