探索準備
研究施設という名目の隠れ家が公開され、管理がエルフたちの手に委ねられることなったが、リュウヤはめげない。
「研究がダメなら、探索を」というわけで、湖の対岸以西の探索をすることにする。
アデライードが来たおかげで、リュウヤの仕事が大幅に減少したため、時間ができたこともある。
「森の全域の領有を宣言している以上、把握しなければならない。」
そう言って、自ら探索隊を率いて行くことにしたのだ。
サクヤらの冷たい視線の中、自ら探索隊を選抜しようとしたのだが、それは反対され、サクヤとエストレイシア、フェミリンス、ウィラによって選抜されることになった。
四人によって選抜されるとはいっても、実際にはエストレイシアとウィラのふたりで決定される。探索の実働隊と後方支援をエストレイシアが、王であるリュウヤの身の回りの世話をする者をウィラが、といった具合である。
ウィラが侍女の選抜を終えて退室すると、ミーティアがフェミリンスへ疑問を呈する。
「いつもなら、フェミリンス様は慎重な行動を求められるのに、今回はなぜ、積極的な賛成にまわられたのですか?」
その返答に、リュウヤは苦笑することになる。
「ここで止めたところで、行かれることはわかっていますから。それならば、ここで認めてしまった方が監視がしやすくなるというものです。」
「ああ、たしかに。」
ミーティアが同調する。
「お前たちは、俺をそういう目で見ていたのか?」
リュウヤのぼやきに、
「そうですが、なにか?」
フェミリンスがあっさりと肯定する。
「お前だけだよ、俺の気持ちをわかってくれるのは。」
そう言いながら、デス・スパイダーの幼生を撫でる。
その様子をミーティアはとても微妙な表情で見ている。
「あれだよ、フェミリンスが気にしているのは。」
エストレイシアの言葉に、ミーティアが驚く。
「人に慣れすぎているのですよ。」
ミーティアの驚きに、フェミリンスが答える。
「誰かに飼われていたか、使役されていたのか。」
"使役"という言葉に、ある存在が思い浮かぶ。
「"蟲使い"、ですか?」
「その可能性が高い、そういうことです。」
蟲使い。
文字通り蟲を使役する異形の一族。嫌悪種とされる蜘蛛やムカデを使役したり、農業にとって天敵とされる蝗を使役する者がいるため、迫害の対象となっている。
「迫害されている蟲使いが、この地に来ているということでしょうか?」
「もしくは、来ていたということだ。」
すでにこの地を去ったかもしれないし、死んでいるかもしれない。
その確認をしなければならない。
「留まっていたとしたら、どうなされますか?」
フェミリンスの問いは、当然のものだろう。
「相手の目的次第だな。敵対するのか、それとも・・・」
迫害されている一族というのなら、庇護を求めて来たか。
「だからこそ、リュウヤ陛下に行ってもらわなければならないのです。」
「なぜ、陛下でなければならないのですか?」
今まで口を閉ざしていたサクヤが、フェミリンスに問いかける。
フェミリンスが説明する。
蟲そのものへの見識と、なによりも蟲使いに対しての偏見の無さ。その双方を共に持っているのが、リュウヤしかいない。
また、敵対するのであれば殲滅するだけだが、庇護を求めてきた場合、リュウヤの見識と偏見の無さが無ければ、公正な判断ができない恐れがある。それは、リュウヤがかつて出した「パドヴァでの宣言」に反することになる。
「わかりました。」
サクヤはここで引き下がる。
「では、準備を進めてくれ。」
リュウヤの言葉で、会議は閉会される。