アデライードの報告書
アデライードの報告書。
その内容は龍王国の現在の農業の状況から、水産、林業、鉱工業から商業に至る、様々な産業への提言と、財政に関するものとなっていた。
出席者へは、アデライードの報告書を輪転機を回すことで刷ったものを配布している。
活版印刷の便利さを、ここでもしっかり認識させる。
アデライードは、この10日ほどの視察で見たことを説明し、報告書の内容に言及していく。
アデライードが説明を終えると、リュウヤは拍手を送る。
「10日でここまでの報告書を出せるとは、予想以上の優秀さだよ。」
「ありがとうございます、陛下。」
「そこで、だ。私は彼女に財務と商務を任せたいと考えている。異論のある者はいるか?」
異論は誰もいない。皆がアデライードの能力を認めていた。
「アデライード。今後の方針への提言も、すでにまとめているのだろう?」
アデライードは笑みを浮かべる。
それなりのものはすでに作成しているということか。
「説明せよ。」
☆ ☆ ☆
「異論はあるか?」
アデライードの提言に、誰も異論を挟まない。
そのため、リュウヤがアデライードにぶつけることになる。
「街道の整備は、どこまでを想定しているのか?」
「国境となる地点に街を整備して、そこまで繋げれば良いかと。そこから先は、相手国が考えるべきでしょう。」
「水運を盛んにするということだが、その拠点をどこに置くのか?また、下流域との水運による交易は、どの辺りまでを想定しているのか?」
「西の湖に港を作り、そこを拠点とします。下流域との交易は、イストールを含め、さらに南方の都市国家群までが、今のところ現実的ではないかと考えております。」
「湖に港を作るということだが、この王宮の周囲まで水路を引くと理解してよいのか?」
「その通りでございます。」
こういった具合に、リュウヤとアデライードの問答で、周囲の者たちも具体的にその構想に触れることになる。
「お前の構想は理解した。だが、その構想を成すための重要な存在が、我が国にはいない。」
「それにつきましては、すでに手を打ってございます。」
リュウヤは無言でその先を促す。
「私の家の伝手を使い、幾人かの者たちに声をかけております。」
「それぞれの出身国はどうなっている?」
「ひとつはイストールより。都市国家群の者もおりますれば、この近辺の国々の者たちもおります。」
「その者たちは、来るかな?」
「はい。陛下はご存知だと思いますが、商売人とは"利"があるならば、未知の土地でも向かうものでございます。」
リュウヤはこの地に、商売人にとって旨味のある商品がたくさんあることを知っている。リュウヤになかったのは商人たちとのコネ。
だが、アデライードにはそれがある。
「では、アデライードに任せよう。」
「ありがとうございます。つきましては、私の手足となる者を幾人か呼び寄せたいのですが、よろしいでしょうか?」
「かまわぬ。必要なこと、物があれば、可能な限り手配させよう。」
この日の会議は、これで終了した。