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龍帝記  作者: 久万聖
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ある日の侍女たち

 龍王国(シヴァ)の岩山の王宮で働く侍女の中で、最年少なのがリュウヤ付きの侍女アルテアである。現在14歳。


 両親は大規模農場の経営者であり、それなりに裕福であった。そのため、家名に箔をつける名目で、10歳の時、知り合いの貴族の推薦を得て、パドヴァ王宮の侍女見習いとして働くことになる。


 その運命が激変したのが昨年。


 詳しいことは知らないが、パドヴァの魔術師が龍人族を攻撃し、徹底的な反撃を受けて国が崩壊してしまった。


 働き場を失ったアルテアは一旦実家に帰ったのだが、パドヴァの魔術師たちが行なっていた非道行為が知れるにしたがい、王宮勤めだったアルテアも関わっていたのではないかと疑われ、追い出されてしまった。


 極々、普通に考えればたかだか13歳の侍女見習いが関わっているはずがないのだが、噂というものはそんな常識を飛び越してしまう。


 実家を追い出された彼女は途方に暮れたが、なんとか龍王国(シヴァ)への移住団に加わることができた。


 移住手続きをしている時に偶然出会った女官長ウィラに誘われ、そして今に至る。



 この日、アルテアはミーティアがくれた小さな焼き菓子を、侍女控え室で広げている。


 自分一人で食べるのではなく、自分と近い年頃の侍女数人と一緒に食べる。


 表向きはミーティアから貰ったことになっているが、彼女たちはその出どころを知っている。


 その出どころはリュウヤ。


 時折、リュウヤは厨房に入って色々と試作している。それは料理だったり、お菓子だったり。


 お菓子だった時、それが日持ちがするものであれば、今回のように"お裾分け"が貰えることもある。


「アルテア!今日は何をいただいてきたの?」


 声の主はふたつ年上のステッラ。


 そして、さらにひとつ年上のサビーナが飲み物を淹れてくれる。温めた山羊の乳だ。


 どのようなものかは、袋に一緒に入っている小さなメモに書かれている。


「えーっと、蜂蜜をたっぷりいれたクッキーと、砂糖と鶏卵、牛乳、バターを使ったクッキー。」


 ここまで読んで、その贅沢さに頭がクラクラする。


 蜂蜜は、一部のエルフが養蜂をしているというから、そこから入手したのだろうが、庶民が手を出せる値段では売っていない。しかも、それがエルフが採取したものとなると、ますます手に入れられなくなる。


 そしてバター。そんなものは王宮の晩餐でもない限り、お目にかかれない。


 トドメは砂糖だ。南方の暖かいところではたくさんとれるそうだが、こちらに回ってくる流通量は少ない。「砂糖は同じ重さの金で取引される」などと言われることもあるのだ。


 星型のものをひとつ頬張ると、そのクッキーの甘みが口に広がる。


「これは蜂蜜ね。」


 ステッラの顔が綻ぶ。


 四角いクッキーを口にしたサビーナは、


「バターがたくさん入ってる!」


 濃厚なバターの風味に驚く。


 丸いクッキーはアルテア。木ノ実を砕いたものが入っており、その食感がいい。


 そこにさらにふたりの侍女がやってくる。


「先に食べてるわよ、シモネッタ。」


 シモネッタは今いる五人の中で、一番背が高い。


「私たちの分は、まだあるんでしょうね?」


「食いしん坊のラーラの分も、ちゃんとあるわよ。」


 他の者に比べてラーラは愛嬌のある丸顔である。


「食べ盛りと言って欲しいなあ。」


 そう言いながら、ラーラは早速つまんでいる。


「やっぱり、パドヴァで食べたものより美味しい。」


 ラーラの感想に、アルテア以外が頷く。アルテアは、パドヴァで食べたことがないため、批評ができない。


「前に食べたのは、甘いばっかりだったものね。」


 とにかく、"砂糖を沢山使えばいい"と言わんばかりの代物で、少し食べただけで胸焼けしそうだった。


 それに引き換え、リュウヤ陛下が作ったものは・・・。


 適度な甘さで、形だけでなく、内容もバリエーションに富んでいる。


「どこでお菓子作りなんて学んだのかしら?」


 五人に共通する疑問。


「やっぱり、異世界かしらね。」


 リュウヤが異世界から来たことを知った時は驚いたが、今では"やっぱり"としか思えない。


 発想が違いすぎるから。


「陛下付きって大変じゃないの?」


 みんなの視線がアルテアに向かう。


「大変だと思ったことはないけど・・・。」


 ただ、オンとオフのギャップの激しさに、ついていけないことがある。


「ステッラは、サクヤ様付きよね?」


「サクヤ様はいいんだけど・・・。」


 問題はシズカ。トモエはおおらかで細かいことは気にしないのだが、シズカが・・・。


「なにかを言われることはないのだけど、あの沈黙が・・・」


「ああ。」っと、みんな納得する。


 極端に口数が少ないため、凄まじいプレッシャーを感じてしまう。


「シモネッタはどうなのよ、エストレイシア様付きでしょ?」


 その美貌と、女だてらに軍のトップに立つことから、女子人気が凄まじく高い。


「エストレイシア様は、細かいことは気になさらないのだけど、周りがね。」


 女子人気が凄まじく高いため、エストレイシア付きのシモネッタへのやっかみが凄いことになっているらしい。


 それだけではない。


「リュウヤ陛下が、なかなか閨に呼んでくれぬのだが、どうすればいいと思う?」


 などと質問されるのだと言う。


「私にどう答えろって言うのよ〜!」


 シモネッタの嘆き。


 そんなこんなで、侍女たちの時間は過ぎていく。



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