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龍帝記  作者: 久万聖
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ウリエの真意はどこに?

 リュウヤはソファから立ち上がると、執務卓上のベルを鳴らし、アルテアを呼ぶ。


 すぐ隣の待機室にいるアルテアは、すぐに執務室にやって来た。


「おまたせいたしました。何か御用でしょうか?」


 たいして待たせているわけではないが、これも侍女として必要なマナーである。


 ただ、侍女としてのマナーが通用しないのが、彼女の主人だったりもする。


 同室しているのがミーティアだけだった時、リュウヤは非常にざっくばらんな態度で接するのだが、他に人がいる時は王としての立ち居振る舞いで接するため、そのギャップの激しさに悩んだこともある。


 それを救ったのが、秘書官のミーティアであり、彼女の上司である女官長ウィラである。


 ミーティアからは、


「他者が居ると、王として振る舞わなくてはならないのですけれど、居ない時の振る舞いこそが、陛下の素なのですよ。」


 と言われ、それ以降は他者が居る時はミーティアが軽く合図をするようになっている。そのおかげで、入室時の気持ちの切り替えができるようになった。


 一方のウィラの方は、アルテアに何かを言うのではなく、リュウヤにクレームをつけたのだ。


「侍女が困惑してしまうような態度を取らないでください!」


 と。


 ウィラとしては、"素"の姿を見せてしまうことで、侍女を甘えさせていると、そう判断してのクレームだったようではあるが。


 かくして、ウィラのクレーム以降は、困惑するほどのギャップはあまり見られなくなったのである。


「フェミリンスを呼んできてくれないか?」


「はい、承りました。」


 そう言ってフェミリンスを連れてくるため、退室する。


 フェミリンスを連れてくる、そう言っても、相談役であるフェミリンスは、リュウヤが執務室に居る時はすぐ隣の部屋に従者とともに待機している。


 盲目である彼女は、待機室に控えている時は、種族を問わず子供たちを部屋に入れていることが多い。


 彼女が住んでいたトライア山脈の北側に伝わる伝承などを、語って聞かせていたりしている。


 子供たちがいなければ、窓を開けて春の陽気とそよ風を受けて過ごしている。より正確に言うならば、そうすることで精霊と語り合っているのだと言う。


 アルテアが退室して、さほどの時間をかけずに執務室にフェミリンスが姿を現したのは、子供たちが居なかったためであろう。


 子供たちはよほどフェミリンスが好きなのか、なかなか解放してくれないのだ。


「ソファにかけてくれ。」


 入室したフェミリンスに、リュウヤが言う。


 その言葉に従い、フェミリンスはソファに腰掛ける。


 アルテアにお湯を持ってきてもらうと、ポットにヤマモモの樹皮を入れる。


 ヤマモモの樹皮は、漢方薬の生薬として使われるだけでなく、九州の一部地域では樹皮にお湯を注ぎ、お茶代わりに飲用している。


 そのことを知っているリュウヤは、お茶の代用としてヤマモモの樹皮を使っている。


 それをフェミリンスのカップに注ぐと、先程までいたアデライードについて話をする。


 そして、彼女についての意見を求める。


「人質、厄介払い、共にあるとは思います。ですが、もうひとつの可能性を考えるべきでしょう。」


「やはり、それもか・・・」


 リュウヤはため息をつく。


「もうひとつの可能性、ですか?」


 ミーティアが不思議そうにしている。


「わからないか?」


「はい。御教授いただければ幸いです。」


 そこでリュウヤは、ミーティアが答えを導き出し易いように話をする。


「そう遠くないうちに、イストール王国ではウリエ王子が国王に即位するだろう。その式典に出席する時、誰を連れて行くのがいいと思う?」


 ミーティアは考える。


 普通に考えればサクヤなのだろうが、彼女は宰相的役割を担っているため、国を空けるのは難しい。すると、誰がいいのだろうか?


 イストール王国について最も詳しく、尚且つその場にいて不自然ではない存在・・・


「あっ!」


 それに適合する存在は、アデライードしかいない。というよりも、アデライードを連れて行かないという選択肢は存在しない。新王の姉なのだから。


 だからといって、リュウヤとアデライードが一緒に現れたらどうなるか?


 アデライードはリュウヤの側室として認識されることになるだろう。


 それが狙いだとしたら?


「気づいたかな?」


「側室入りが狙い、ですか?」


「あくまでも、可能性の話だがな。」


 それが狙いだとした場合、アデライードを送ってきたのは龍王国シヴァへ影響力を持つこと。


「その可能性は低いだろうと思うけどね。」


 それは、アデライードのイストール王国への感情。


 どうも、アデライードはイストール王国、そして王家への愛着、忠誠心というものが欠落している。


 この国に来たのも、自身の能力を振るうためであり、イストールに利益をもたらすためではない。結果的に、イストールに利益をもたらすことがあるかもしれないが。


「アデライードの能力は、相当なものがあるのは間違いなさそうだ。その能力をこの国の利益の最大化に必要なら、その程度のことは受け入れるさ。」


 そういう認識を持たれるのは仕方ない。


 ただし、実際に側室とするかは別の話。


「さて、そろそろ夕食会の時間になるな。」


 その言葉に皆、立ち上がる。

 アルテアに片付けを任せ、夕食会会場へと向かう。

 その際、ミーティアはアルテアに小さく合図(サイン)を送っていた。







 リュウヤたちが去り、アルテアは片付けをせっせと終わらせる。

 そして・・・。


 ミーティアの合図。


 それは、ミーティアの机の引き出しにお菓子が入っているから、持って行っていいというもの。


 そしてそのお菓子の出所は、リュウヤ。


 リュウヤが試作し、ミーティアに渡したものだ。


 リュウヤが直接渡したり、またリュウヤの机の引き出しを開けさせるのは問題があるため、ミーティアを間に挟んでいる。


 今日のお菓子は、一口大の焼き菓子のようだ。


 それが入った袋には、"お疲れ様"と書かれている。


 それを有り難く取り上げ、他の者にバレないようにして、退室して行った。





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