滞在7日目
最終日は、かなり簡単になってしまいました
帰国当日。
イストール王国の馬車には、活版印刷と輪転機が積み込まれる。
完成品を運ぶのはさすがに場所を取り、また重いためにばらして運ぶ。
技術官レイモン・フォンテーヌが、細心の注意を払いながら詰め込みを指揮する。
さらに最終日の今日になってリュウヤから渡されたものもある。"紙"である。
輪転機を使うにあたり、もっとも適したものは紙しか無い。
そう考えていたリュウヤは、冬の間に試行錯誤を繰り返し、ようやくそれなりに満足できるものが完成したのだ。
それを見て驚いたのはアンベールである。
羊皮紙に比べて薄く、軽く、丈夫なもの。
「まだまだ改良の余地はあるが、とりあえずは渡しておこう。我が国の特産品になるのだからな、しっかりと吟味してくれ。」
イストール王国には、安く卸すぞ。という言葉を添える。
現時点で、リュウヤは紙の製法を外にだすつもりはない。
類似商品を作らせないだけの品質を確保したうえで、製法の公開をする予定である。
「ありがたく受け取らせていただきます。」
ウリエはそう答えると同時に、"リュウヤは商売人だな"と感じる。それならば、ますますアデライードと上手くやれるのではないか、そう思う。
「ウリエ王子。貴方からの贈り物にも感謝する。」
ウリエが持ってきたもの。羊毛の織物に鏡。姿見の鏡と、鏡台である。
リュウヤとサクヤの婚約祝いとして贈られたものであり、サクヤはとても喜んでいた。ついでに言うなら、リュウヤは初めてこの世界の自分の姿を確認した。
「あちらの世界の面影がカケラもない。」
それがリュウヤの、第一の感想であり、イケメンになっていると、内心で喜んでもいた。
それだけでなく、リュウヤはこの世界の技術水準を上方修正する。鏡があっても、銅鏡のようなものだろう、そう思っていたのだが、贈られた物はガラスを使用した物だったのだ。
パドヴァの王宮では、破壊され尽くした後に検分したため、鏡があることに気づかなかったこともある。
ただ、製鉄技術があるのだから、ガラス製造の技術があってもおかしくはない、そう考え直す。
リュウヤはウリエをはじめ、イストール王国の人間達と握手を交わす。
技術官のレイモン・フォンテーヌなどは、かなり名残惜しそうにしている。
新しい技術の開発、それに未練があるようだ。
「行くぞ、フォンテーヌ。」
カペーの言葉に馬車に乗り込む。
リュウヤはイストール王国の一行が見えなくなるまで、その場にいた。
ジュス・コパとレイモン・フォンテーヌ。
気づいた人、いるかな?
レイモン・コパとジュスト・フォンテーヌといえばわかるかも。
1958年W杯スウェーデン大会で活躍したフランスの名コンビなんですね。
この時のジュスト・フォンテーヌの大会13得点は、未だに破られていない記録です。