滞在5日目
本格的な、リュウヤとウリエの間の交渉は、今日と明日の二日間。
本格的な交渉が始まる。
大枠ではすでに下交渉の段階で合意している。
これはリュウヤ側の譲歩によるもの。
だが、ここからは譲歩は望めない。そういう案件だということだ。
まずは国境の確定作業。
この世界、領土の広さ=(イコール)農業生産力であり、人口といってもいい。退けないのではなく、退いてはならないのである。また、曖昧にしておくのも禍根を残すことになる。
国境線が曖昧であったために紛争になったケースは多い。日本が絡んだものならば、1939年五月に起きたノモンハン事件がそれにあたる。
国境としてわかりやすい目印があればなお良いが、そんな都合よくいくものでもない。
互いの中間点を国境とするにも、どこを起点とするかで紛糾する。
「互いの王宮を起点にしてはどうか?」
リュウヤが提案する。
良案に思える提案だ。
「そうなりますと、このあたりでしょうか?」
地図をアンベールが指し示す。が、リュウヤはさらにイストール側を指し、
「いや、皆さん方が4日目に宿泊されたのは、このあたりだと伺っておりますが。」
「!?」
嵌められた?
だが、直近で来た自分たちを基準にするのは、理に適っているようにもみえる。
リュウヤの言葉を覆すレトリックを思いつかず、押しきられる。
その地に関所を設置することで、国境とする。
さらに議題は続く。
関税の問題。
基本的に、関税自主権はそれぞれの国が持っている。そこへリュウヤは、友好関係にある両国の間の関税を、同率にしようと提案してきていたのだ。
現状では、明らかにイストール側に有利なものだ。
そんなことは、リュウヤ側も理解しているはず。にもかかわらず、それを提案してくるとはどういうことだろうか?
リュウヤの発想は違う。リュウヤは自分たちが今の不利を挽回できると踏んでいる。ドヴェルグやアールヴ、ドワーフ、エルフたちがいる。
そこに異世界人としての自分の知恵や知識を織り交ぜれば、間違いなく技術優位は作り出せる。問題になるのは、それをいかにして各国へ売り込むか、だ。
目先を取るか、未来を取るか・・・。
これも長い協議の果てに、5年ごとの見直しに収まる。
休憩を挟み、ふたつの大きな懸案を終了させる。
協議後、ウリエはジュス・コパに労いの言葉をかける。
特に、関税問題はよくぞ先にまとめなかったと思うほど。目先の利益しか見ない者ならば、締結していてもおかしくない案件だ。
それにしても、リュウヤとの交渉は疲労感が強い。
何を狙っているのかがわかりにくく、それを探りながら交渉しなければならない。その一方で、リュウヤはこちらの考えていることがわかっているに違いない。
明日は、おそらくは最大の懸案である奴隷に関する協議になる。
リュウヤ側が"最大の懸案"と位置づけていることは、ジュス・コパからの報告で理解している。
「明日も疲れる交渉になりそうだ。」
ウリエはそう呟くと、大きなため息をついた。