巫女姫の後悔
「俺に選択肢なんてないんだよ、初めから。」
突然聞こえた声。正確には声ではなく、念話であることに気づくのに数瞬の時を要した。それが、始源の龍とリュウヤとの気づくには、さらに数瞬と時が必要だった。
"大型トラック"とか、"荼毘に付される"とか、聞きなれぬ言葉もある。
リュウヤと始源の龍の会話が進むにつれ、自分の顔から血の気が引いていくのがわかる。
昨日、始源の龍から話を聞き、名付けの危険性を知ったうえで、自分たちの願いを受け入れた。自身の存在の消滅と引き換えに。
なぜ?
リュウヤと始源の龍の会話は続いている。
そして、知ることができたのがリュウヤの孤独。さすがに詳しい経緯までは話していないが、その孤独の深さは理解できる。
「自分一人の命で、龍人族とドヴェルグたち1800名あまりを救えるなら上出来だよ。」
自分たちを救うために死ぬこと、それを受け入れている。
「リュウヤさま!!」
思わず叫び、駆け出そうとしていた。
「来るな!!」
初めて聞くリュウヤの大声に足が止まる。
そして、リュウヤは始源の龍に名を与えた。
巫女姫の眼前で始源の龍は、その姿を崩壊させていく。それと同時に広がる黒い光の奔流。その黒い光の奔流にリュウヤは包まれ、姿が見えなくなっていった。
巫女姫はその場に崩れ落ちていた。
知らなかった。始源の龍の復活に、召喚された異世界人の魂が必要になるなどとは。
ああ、そうか。だから先代の巫女姫は、始源の龍を復活させようとしなかったのだ。異世界の人間を理不尽に呼び出し、あまつさえ、生贄に供するなどという行為を。
その理不尽さ、傲慢さを理解していた先代は、龍人族が始源の龍とともに枯死することを選んだ。
だが自分は・・・。
龍人族の苦難を取り除きたかった。
他の種族の干渉を受けることなく、平和に、豊かに、そしてなによりも笑いあえた時を取り戻したかった。
先代から巫女姫としての務めを受け継いだとき、始源の龍に尋ねた。それらを取り戻す方法があるのかと。
始源の龍は詳しくは教えてくれなかったが、方法はあると言った。その方法に、巫女姫は縋り、召喚の呪法を使った。自分だけの力だけでは足りず、始源の龍の力を借り、依代に可愛がっていた少女を使って。
縋った先に何があるのかも知らずに。