滞在4日目
龍の王国の王リュウヤと、イストール王国の次期国王ウリエの会談が、この日の午後に行われた。
会談といっても、五人の随行者も同席しており、リュウヤ側もそれに合わせて五人が同席している。
リュウヤ側は宰相格でもあるサクヤと宮廷魔術師ヴィティージェ。技術開発担当でもあるギイ。軍のトップとしてエストレイシアに、秘書官とミーティア。
イストール側は、宮廷魔術師ルイ・アンベールと護衛隊隊長ロベルト・カペー。アンベールとともに交渉にあたっている外交官ジュス・コパ。技術官レイモン・フォンテーヌ。そしてジゼルである。
会談は和やかな雰囲気ですすめられ、互いに感謝の辞を述べる。
「貴国よりの食料支援、心より感謝する。おかげでこの冬、餓死者が出ることなく済んだ。国民を代表して、改めて感謝する。」
ラムジー四世のやらかしたことの賠償の一環なのだが、それをあえて"支援"とするのは、今後の両国関係を睨んでのことである。
龍の王国の建国の支援をイストール王国が行った、そう強調することで領民の意識を友好へと向かわせる。それだけでなく、リュウヤが行おうとする"多種族共存国家"に、地域大国であるイストール王国が理解を示しているという形式を残すのだ。
そうすることで、異論のある国への牽制をする。
無論、ウリエもそのことを理解しており、イストール王国の利益に反しない限りは、干渉をしない。
たったひとつの言動も、外交には巨大な意味があることが多いのだ。
それを理解しない政治家は、日本国内はもとより、各国に多数存在するが。
「いえ、我がイストール王国も、リュウヤ陛下の寛大な御心に感謝しております。」
これもまた、ウリエにとっては本心であり、イストール王国という国にとっても、リュウヤの対応のおかげで"ラムジー四世個人のしでかしたこと"として、処理ができるのである。
それに、そのことで思わぬ副産物も生まれている。
当初はラムジー四世の個人資産を没収し、食料を国庫から出そうとしたのだが、アデライードの進言でそれを取りやめ、食料を直接農家から買い入れたのだ。
その結果、思わぬ現金収入を得た農家は、人を雇ってその規模拡大を行い、食料増産へと邁進したのだ。
それだけではない。その食料の運搬に民間業者を使うことで街道の整備が進められることにもなった。これによりイストール王国は、地域の食料庫として、また物資の集積地として重要度が増したのだ。
そんな話をしつつ、ウリエはここで切り出す。
「そういえば陛下。陛下は有用は人材を集めておられると伺っております。」
「たしかに有用な人材を集めている。だが、それは我が国だけのことではあるまい。」
そう、有用な人材はどこの国でも欲しいものだ。
「ええ、どこの国でも欲しいものです。ですが、その国の状況によって、必要とされる人材も変わりましょう。」
その通りだ。建国初期の龍の王国とイストール王国では、求められる人材の内容が違う。
「そうだな。私が今一番欲している人材は、内政、特に財務や産業の殖産に明るい者だな。」
建国初期の国にありがちなことだが、人材が武に偏りすぎており、内政となるとサクヤへの負担が大きくなっているのだ。さらに財務となると、非常に心許ない。
算盤を教えるなどして、数字に強い人材の育成にかかってはいるが、それが結実するまでに10年は見なければならないだろう。
その間、リュウヤが見なければならなくなってしまっているのだ。
ウリエはリュウヤの言葉に、内心でガッツポーズをしていた。これであの姉を売り込める、と。
「我が国に、特にそちらの方面に明るい者がおります。ただ、性格に難がありまして、我が国では使いきれぬのですが、陛下であれば上手く使いこなせるのではないか、と。」
性格に難がある。これをどう捉えるか?
協調性に欠けると捉えるか、能力がずば抜けた天才肌と捉えるか。
さらにウリエは、"自分には使いこなせませんが、リュウヤ陛下なら使いこなせますよ"と持ち上げてみせているのだ。
トドメとばかりにウリエは、ガロア騒乱の話を持ち出し、
「騒乱を極めて短期に終結させたのは、その者なのです。」
ここでリュウヤの目の色が変わる。
国庫を痛めることをせずに、ラムジー四世の個人資産を活用することで、それほどのことをする。
「会ってみたいな。」
他人の目が無ければウリエは踊り出したかもしれない。
その処遇に頭を悩ませる姉、アデライードを上手くリュウヤの元に送れるのだ。
送ってしまえばあの姉のことだ。
それこそ上手く入り込むに違いない。
「それでは私の帰国後に、紹介状を添えて陛下のもとに送りましょう。」
リュウヤは後に、性別を確認しなかったことを後悔することになる。
アデライード、私自身も想定外の送られ方になってしまいました。
それにしても、ウリエってこんなに腹黒かったっけ?