滞在3日目
滞在3日目。
この日はドヴェルグとドワーフの工房の視察である。
視察の案内役は、ドヴェルグのギイとドワーフのトルイ、そして、ドヴェルグとドワーフから絵画を含めた美術を学んでいるパドヴァの元公女アデリーナ・グエッラ。
グエッラの姓を聞いてカペーが驚く。
「もしかして、パドヴァのグエッラ公爵の御息女か?」
驚きのあまり、"御息女か?"などとぞんざいな言葉遣いになっている。
パドヴァで公爵といえば三家しかおらず、三公家ともいわれる。王家と特に結びつきが強い名門中の名門。
カペーはかつてパドヴァへの使節団の一員として派遣されており、そのことを知っていた。
「はい。そのグエッラ公爵家のアデリーナです。ですが、ここではただのアデリーナ・グエッラ。そう扱っていただけると、とてもありがたく思います。」
その優雅な挨拶は、幼い頃から身につけられたものであることを認識させ、その言葉に偽りがないことを教えてくれる。
「わかりました。では、我々もそのようにさせていただきます。」
ウリエはアデリーナの申し出を受けいれる。
その一方で、
「ドワーフのものなんぞ、見るところがあるかは知らんが、歓迎するぞ。」
「ドヴェルグのちんまい作業なんぞ、見ていてもつまらんだろうが、勘弁してやってくれ。」
ギイとトルイ、両者の舌戦が始まりかけるが、
「ギイ様、トルイ様。今日は大切なお役目の日です。そんな日に、私が敬愛するおふたりが口論なさるお姿など見たくはありません。」
アデリーナの言葉に収まる。
「弟子に恥ずかしい思いをさせてはならんな。」
「まったくじゃな。ここは休戦じゃ。」
そのふたりの後ろで軽く舌を出しているアデリーナを見て、ウリエは思う。
「女は怖い。」
と。
ドヴェルグとドワーフの工房。
予想通りの物が多いが、目を引くものもある。
木材加工用の道具の多様さ。
ドヴェルグやドワーフは木材よりも石材を多用するため、この道具は木材を多用するエルフたちが発案したのだろうか?
「これらの道具は、リュウヤ陛下が発案されたものです。」
鉋や大きさが異なる鋸に鑿等々、見たことがない道具が揃う。
さらにその使い方の実演をみる。
「初めて見る道具ばかりだが、理にかなったものなのだな。」
さらに見ていくと、木工用の多種多様な彫刻刀。
この実演は、アデリーナが行う。
芸術面でも、疎かにするものではないということか。
最後に見せられた活版印刷と、それを利用した輪転機に一行は度肝を抜かれる。
いちいち手書きで書写する必要がなく、大量に作成できる。
それは、知識の継承という点でどれほど有効だろうか?
「これをどうぞ。」
一枚の羊皮紙を渡される。
紙の作成も始めているのだが、思うようにいかず、現在は羊皮紙をつかっている。
「昨日の、リュウヤ陛下の動静だな。」
羊皮紙に目を通したウリエが呟く。
「はい。それと同じものが、各集落に配布されております。」
アデリーナの言葉に驚く。
確か、昨日の説明によれば、数十から100くらいの集落があったはず。
その全てに配布。しかも、昨日の動静を今日には皆に伝えることができるのだ。
「法令の公布もやりやすくなる、ということか。」
ウリエは呟いていた。