表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
116/463

滞在2日目

しばらくは、ウリエ視点の龍の王国(シヴァ)観察記です。

 この日は岩山の王宮の周囲に建設されている、街の視察である。


 チェスの盤面のように整備・区分けされた都市。


 王宮へと続く道は広く、大型の馬車四台分くらいはあるだろうか?


 それだけではない。


 水路も張り巡らされている。


 だが、王都というには、都市の規模が小さい。多く見積もって1万人が暮らせればいい方だ。


「王都というには規模が小さい、そう思われたかな?」


 リュウヤがウリエの様子を見て声をかける。


「一国の王都というには、物足りないように感じられます。」


 リュウヤの言葉を肯定する。


「ここは政治都市、だからな。」


 政治都市?聞き慣れない言葉だ。


「ここには、基本的に政治に関わる者が住む。」


 政治のための施設と、それに関わる者達のための都市。


 その外側に、商業や工業を中心とした街を作っていく。


 この地を鳥瞰したら、森の中に街が点在しているように見えるだろう。


「森を切り拓くのは、最小限にとどめたかったからな。」


 リュウヤはそう言う。


 リュウヤ自身は、森を切り拓くことで起きる影響を抑えようとしているのだが、ウリエ、と言うよりもこの世界の住人にその意識はない。それ以前にこの地はウリエが知る限り、何百年も荒涼とした大地だったのだ。そちらの影響の方が遥かに大きいのではないか、そう思う。


 農村部とされる地域にまで足を運ぶと、その建物に大きな特徴が見られる。


 屋根が鋭角になっているのだ。


「あの屋根の形状はいったい?」


「この辺りは、雪が凄くてね。その雪への対処として、ああいう形になったのさ。」


 なるほどと思う。屋根を鋭角にする事でつもり難くするのか。


 だけど、雪?


 この辺りは寒風は吹いても、雪はなかったはず。


 そんなウリエの疑問に答えるように、


「この辺りが森になったからな。それが原因で変わったようだ。」


 そういうことか。

 森ができた影響は、相当なものなのだな。


「そのことに気づくのが遅れて、領民に苦労をかけた。死者こそ出なかったが、私の失敗だな。」


 そう言ってリュウヤは笑う。


 失敗?それをそんな簡単に認めるのか?


 リュウヤの秘書官だというエルフ、ミーティアに小声で問う。


「リュウヤ陛下は、そんなに簡単に自身の失敗を認められるのか?」


「はい。失敗や過ちがあれば、すぐに認められて謝罪なされます。それがたとえ幼子(おさなご)相手であったとしても。」


 そう言ってミーティアは微笑む。


 王たるものが、そんなに簡単に謝罪をするものなのか?


 ウリエには信じられない。


 王とは、無謬の存在でなければならない。過ちなど、よほどなものでない限り、謝罪などするものではないと教えられてきた。


 その、自分にとっての常識がリュウヤには通じない。


 考えさせられることばかりだ。



 今日の視察が終わり、宿泊している部屋に戻る。


「知れば知るほど、不思議な人物だな、リュウヤという人は。」


「まったくですな。」


 ウリエに同意するアンベール。


 アンベールは、龍の王国(シヴァ)との下交渉を担当していたのだが、なにやら思うところがあったらしい。


「大枠は、あっさりと合意できております。」


 今回の交渉は、ラムジー四世の仕出かしたことの後始末であり、アンベールは相当厳しい交渉を覚悟していた。


 ところが、こちら(イストール)が出したものほぼ全てを、受け入れたのだ。


 それも全て、リュウヤの指示だという。


「もっとふっかけてもよい立場だというのに、欲がなさすぎて、かえって怖いくらいだ。」


 その言葉にカペーやヴァロアは同意する。


 ただ、ウリエだけが、


「あの時から変わらぬのだな。」


 そう言う。


 初めて会った時も、イストールの負担にならぬように配慮していた。


 それはなぜか?


「我が国との友好を保つことが第一、なのだろう。」


 それは同時に、若き王となるウリエへの餞別でもあり、貸しでもある。


「餞別であり貸しである、ですか?」


 ヴァロアは理解しかねる表情だ。


 外交としては、もっとも難しい事案のひとつである敗戦後の処理。それをこちらの条件を全て飲ませて解決したとなれば、それをまとめたウリエの功績は大きなものとなる。それが餞別であり、相手はウリエの立場を強化するのに手伝ってやったというのが"貸し"だ。


「意外と腹黒いものですな、あの王様も。」


 ヴァロアの言葉は貶したように見えるが、その響きは好意的である。


「敬意を表すべき相手、ではあるな。」


 カペーは笑う。


「この国がどんな国になるのか、見てみたい気にさせられますな。」


 アンベールの言葉に、皆が頷く。


 続くウリエの言葉が決定的かもしれない。


「明日も見るべきことがあるだろう。なるべく多くを持ち帰るぞ。」


 我が国は伝統だけではない。


 進取の気風を持つことも知らしめよう。


 その決意表明でもあった。


政治都市というと、アメリカ首都ワシントンD.C.やオーストラリアの首都メルボルンがあります。


作者の空想上の都市ではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ