滞在初日
ウリエたちイストール王国使節団の滞在期間は7日。
初日は歓迎式典があり、2〜3日目は親善のための行事と視察。
7日目には帰国となるので、条約締結のための交渉は4〜6日目の3日となる。
もっとも、交渉を円滑に進めるための下交渉は、到着初日から進められているのだが。
歓迎式典。
龍の王国は、ジゼルから聞いていたように多種族による国であることを確認する。
龍人族、ドヴェルグ、両アールヴ、ドワーフ、エルフに人間族。主だった種族はそれくらいだが、豊かな森の恵みを求めて、他にも入り込んでいるのだという。
そしてなにより、登用されている女性の多さ。
宰相的な役割を担うサクヤをはじめ、軍を指揮するのはエストレイシア。
建国初期のため役割がはっきりと分担しきれていないが、他国であれば準主要ポストといえる役職にも女性が登用されている。
最近合流したというエルフの女部族長ラティエは、食料の生産と管理をする部署の長となっている。
「姉上が来たがるわけだ。」
ウリエが呟く。
いかに人口構成として女性比率が高くても、ここまで大胆に女性を登用する国をウリエは知らない。
聞けば、この国で保護しているというパドヴァの貴人の娘たちも、帰国するのではなく、将来もこの国に残る気でいるのだとか。
まだ直接、彼女らから話しを聞いていないが、この国で自らの可能性を見出したのだろう。
"イストールでここまでのことができるだろうか?"
無理だろう。
伝統というしがらみがあり、また女性側にしても踏み込む勇気のある者がどれだけいるだろうか?
"手放すしかないか"
姉、アデライードの能力は惜しい。
だが、埋もれさせるのは、なお惜しい。
できれば自国で発揮してもらいたかったが、この国と友好関係を深めるならば自国への脅威とはならないだろう。
むしろ、アデライードが功績を立てれば、それをもって我が国にも変革をもたらせうるかもしれない。
折を見て、リュウヤ陛下に売り込もう。そう決断する。
その一方で、ウリエはサクヤを見て複雑な気持ちになる。
楚々とした美しさを持つ龍の巫女。
兄ラムジー四世が彼女に出会わなければ、あのようなことにならなかったのでは?
そんなことを考えてしまうからだ。"もし"の話でしかないし、庶兄フィリップ王子は、
「龍の巫女に会わなくても、いずれ同じことを仕出かしたさ。」
と言う。
それが事実なのだろうとも思う。考えても栓なきことと、頭の中からその考えを振り払う。
「楽しんでおられますかな?」
ドヴェルグのひとりが、ウリエの前に来る。
そのドヴェルグの名をウリエは思い浮かべる。
「ええ、とても楽しませていただいています。ギイ殿。」
たしか、ジゼルが言っていたな。酒が入ったら、最重要危険人物になる、と。
「いや、酒が進んでおられないように見えたでな。グイッといかれては・・・」
「ギイ!」
ウリエのコップに、なみなみと酒を注ごうとするギイを止めたのはリュウヤである。
「国賓を酔い潰そうとするなと、あれほど釘を刺しておいたのだがな。やはりアイニッキに言わねばならぬかな?」
アイニッキとは、ギイの愛する妻の名である。
とても愛らしい姿の女性で、初めて見たときは驚いたものである。ギイはロリコンだったのかと。その年齢を知ってさらに驚いた。そして、怒った時の迫力と、怒られた時のギイの姿にも。
「いや、アイニッキに言うのだけはやめてくれ。あれに知れたら、酒断ち7日の罰になっちまう。」
そう言ってそそくさと退散する。
「すまぬな。酒が入ったドヴェルグやドワーフたちの狂乱は、俺もほとほと手を焼いておるのだ。」
それも、ジゼルから聞いていた。
いつも真っ先に酔い潰されていると。
それらを思い浮かべると、リュウヤという男の種族などどうでもいいように思える。
先は兎も角、今は互いに友好関係を結び、それをより強化するべく動いているのだから。
そんな思いの中、酒宴へと雪崩れ込んだ歓迎式典は進んでいく。
女性の登用に関して。
かつてリュウヤがジゼルに語ったように、この地における男女比の歪さが、女性の登用を促進させています。
国名は失念しましたが、アフリカの国で女性の政治参加率が50%を超えている国があります(たしかソマリアだったかな?)。
その国の場合も、内戦により男性が激減したために女性の政治参加が促進されました。
よく日本で取り沙汰される北欧の場合は、その経済規模を維持するためには、女性の社会参加が求められたという背景があります。いわば危機感ですね、経済規模縮小への。
日本も、経済規模を維持するためには女性の社会参加が必要になるわけですが、制度を含めた様々な面で遅れが目立ちます。