使節団到着
イストール王国次期国王ウリエの親卒する使節団が到着したのは、昼過ぎだった。
リュウヤとしては、森の入り口まで出迎えたかったのだが、「それでは国としての格下として見られる恐れがある」と言われ、岩山の王宮の入り口にて出迎えることとなった。
「お久しぶりです、リュウヤ陛下。」
馬車から降りてきたウリエは、出迎えたリュウヤに挨拶をする。
「遠路よりはるばる、よくぞ来られた。ウリエ王子。」
リュウヤも挨拶を返し、互いに手を差し出し握手をする。
「あれが、この国の王か?」
護衛隊隊長ロベルト・カペーは呟く。
長身、体格も悪くはない。
顔立ちは穏やかな優男風。とても武勇伝に語られるような人物には見えない。後ろをちらりと振り返ると、護衛隊副隊長ジャン・ヴァロアも同様に感じたようだ。
"少し試すか"と、カペーはヴァロアに目配せをする。
ヴァロアが小さく頷く。
彼らは、自分たちが派遣された理由を理解している。
ひとつはこの地の軍備状況の確認。
ふたつめ、リュウヤという男の力を見極めること。
カペーとヴァロアはともに武人であるため、魔力絡みは一緒に来ている宮廷魔術師ルイ・アンベールの役目だ。
ウリエ王子と少し話し、次が宮廷魔術師ルイ・アンベール。
「イストール王国にて、宮廷魔術師を務めさせていただいているルイ・アンベールと申します。以後、お見知りおきを。」
アンベールの挨拶の次がカペー。
仕掛けるのその次のヴァロアだ。
仕掛けるといっても、怪我をさせるわけにもいかないため、フリをするだけだが、それにどう対応するかを見る。
「使節団の護衛隊隊長を務めるロベルト・カペーと申します。」
護衛隊隊長の次。
ヴァロアは仕掛けようとして、仕掛けられなかった。
仕掛けようとした瞬間、凄まじい圧力を感じ、身体が硬直してしまい、動けなかった。
「いかがなされた?顔色が随分と悪いようだが?」
リュウヤに声をかけられ、ようやく自分を取り戻す。
「久々の旅に、いささか疲れがでたやもしれません。ここ何年か、王宮詰めでしたので。」
嘘ではない。ラムジー四世の人事によって左遷された以外は、ずっと王宮詰めであったことは。
「ならばゆっくり休まれるがいい。部屋もすぐに用意させよう。」
「いえ、そこまでの御心配は無用。ここで御厚意に甘えましては、部下たちに示しがつきませぬ。」
「無理はなさらぬようされよ。」
ヴァロアは一礼する。
滞在用に用意された部屋は豪華とは言えないが、ドヴェルグやドワーフが室内の調度品を整え、エルフたちが飾っただけあり、一国の使節団を迎えるのに不足はないほどに品良く整えられている。
「先程は申し訳ありません。」
ヴァロアがウリエ王子に謝罪する。
「よい。それよりも、どうであった?」
ヴァロアが仕掛けるのは想定内だ。重要なのはそこでなにを得られたか、である。
ジゼルは龍の王国側との打ち合わせに出している。
ヴァロアは腕を捲り上げ、皆に見せる。
「今だに鳥肌がおさまりません。」
「それほどか。」
カペーが呻くように言葉を発する。
ヴァロアは臆病者などでは断じてない。むしろ"恐れを母親の胎内に残して生まれた"と評価される男だ。
「アンベールはどうだ?」
ウリエは宮廷魔術師に話しをふる。
武力はカペーとヴァロア。アンベールは魔力絡みの力量を測るのが、今回の使節団へ同行した役目である。
「底が見えません。一体どれほどの魔力を持ち、どれだけの魔法を使えるのか。」
アンベールはここで区切りをつけ、決定的な言葉を発する。
「はたして、かのリュウヤなる者は何者なのでしょうか?」
「それは、俺も思った。」
カペーがアンベールに同調する。
「角がないってことは、龍人族ではないのだろう?アールヴやエルフとは、明らかに耳の形が違う。ドヴェルグやドワーフは、当然違う。人間っていうには、あまりに桁外れな力を持っている。」
ならば、あのリュウヤはどんな種族なのだ?
沈黙が室内を支配する。
わかっているのは、龍人族とドヴェルグを従え、両アールヴとエルフ、ドワーフを配下にし、また人間たちをも庇護下にしている。
「まあ兎に角、友好関係を結ぶって方針は間違ってはいない、そう思うぜ。」
沈黙に耐えられなくなったヴァロアがそう締めくくった。




