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龍帝記  作者: 久万聖
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名付け

 龍弥と巫女姫、ふたりは始源の龍の前に行く。

 ふたりの気配に気づいたか、始源の龍が顔をこちらに向ける。


 "ほう、巫女も来たのか"


 巫女姫も一緒に来たことに、軽く驚いたようだ。


「最後まで見届けたいそうだよ。」


 龍弥の言葉に、始源の龍は"なるほど"と理解を示したようだ。


「それに、お前に名前を与えた後、この少女を任せたい。」


 自分の魂が離れ目覚めたときに、他に人が居ないのでは心細いだろう。


 "優しいものよな"


 からかうような言葉。始源の龍としても好ましく感じたのかもしれない。

 龍弥には、巫女姫がいてほしいもうひとつの理由があるが、口には出さない。彼女にとって大きな心理的負担になりかねないから。


「そろそろ始めたいんだが、いいか?」


 性急にも思える龍弥の言葉に始源の龍は


 "なにかあったのか?"


 本来の力があればわかったのかもしれないが、力のほとんどを失っているいま、外のことはわからないようだ。


「敵が来ている。恐らくは、半日もしないうちに押し寄せてくる。」


 だから、なるべく急ぎたい。


 "覚悟はできているのだな?"


 覚悟ならすでにできている。


「巫女姫、少し離れていてくれないか。」


 なにが起きるのかわからないため、下がっていてもらう。


 "本当に良いのだな?"


 念を押すかのような始源の龍の言葉にうなずく。


「俺に選択肢なんてないんだよ、初めから。」


 名付けの危険性は、昨日聞いた。名付けによって互いの魂を融合させることによって、始源の龍は復活する。


 その際、自分の存在はどうなるのか?


 始源の龍の魂に飲み込まれ、消滅するのだという。無論、例外はあるが、その例外的な存在は、始源の龍の果てしなく長い生の中でも2人のみ。自分がその例外的な存在に続けるとは思わない。


 そして、自分が召喚されて4日。時速60キロ以上で走る大型トラックに轢かれたのだ。肉体はすでに荼毘に付されているに違いない。また、たとえ肉体が存在していたとしても、激しい後遺症に苦しみ続けるのは間違いない。


 依代の少女の魂を犠牲にして生きながらえたとしても、この世界のことを何も知らぬ自分が、生き延びることができるとは思わない。


 そうであるからこそ、「詰んでいる」のだ。


 ならば、自分の存在をいわば生贄として差し出すのも悪くない。どうせ天涯孤独の身だ。悲しんでくれる者もいない。それで、龍人族とドヴェルグたち1800名あまりを助けられるのなら、悪くないどころか、上出来だろう。


 そんなことを、始源の龍に淡々と話す。



「リュウヤさま!」


 巫女姫の叫ぶような声が聞こえ、振り返る。

 驚きに目を見開き、戦慄いている巫女姫。離れているため、顔色はわからないが青ざめているのだろう。


 大きな声で話していたわけではない。


 仮に聞こえたとしても、内容まではわからないであろう距離。それが聴こえていたとなると・・・。


「お前か!始源の龍!!」


 おそらく、自分の声をそのままテレパシーのようなもので巫女姫に聞かせたのだろう。



 昨日、扉を出て話したとき、巫女姫は名付けの危険性を知らないと確信していた。そして、龍人族のために少女を生贄にしたことを指摘したときの取り乱しよう。


 彼女は優しすぎるのだ。人々の上に立ち、導いていかねばならぬ者として致命的なほどに。


 その彼女が、本来なら縁もゆかりもない存在を生贄に捧げるなどできはしない。それこそ心を破壊してしまうだろう。


 平和な時であれば"心優しい巫女姫"として、敬意をもたれていたに違いない。それがなんの因果か、こんな状況の時に生を受けてしまった。不憫としか言いようがない。


 そんな彼女が、そのことを知ってとるであろう行動。


 名付けを止めるべく、こちらに駆けよろうとしていた。


「来るな!!」


 この世界に召喚されてから、初めて大声を出した。

 巫女姫は足を止める。


「いらんことをしてくれたな、始源の龍。」


 "なんのことかな?"


 この期に及んでとぼけやがる。この馬鹿龍は・・・。

 だが、そんなことを言っていられない。すぐに1万を超える軍勢がやって来るのだ。


「始源の龍、お前に与える名は・・・」



 すでに昨日の時点で決めていた。


 "始源"とは何か?それを考えた時、自然とその名が閃いた。

 始源に生まれる、それは混沌より生まれたということ。

 混沌より生まれ、絶大なる力を持つ者の名。

 インド神話において、"創造神ブラフマン"、"調和神ヴィシュヌ"を遥かに上回る力を持つ者。

 日本においてはただ、"破壊神"として知られる者のその名は・・・。



「シヴァ」



 そう名付けられた始源の龍の、その身体が崩壊を始める。それと同時に、黒い光(としか言いようのない)に包まれる。

 その黒い光奔流に龍弥は飲み込まれていった。

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