ふたりの王子の頭痛の種
ウリエ、フィリップ両王子が争乱終結の報告を受けたのは、ほぼ同時だった。
ウリエは早馬によって届けられた報告書によって。
フィリップは、争乱勃発の報を受けて戻った王宮で。
場所は違えども、出た言葉は、
「我が姉(妹)ながら、えげつない。」
だった。
だが、問題はこの功績にどう報いるか?
この件に関して、フィリップは弟に丸投げという決断を下す。
"それにしても"と、フィリップは思う。事後処理にしても王宮より先に、市井の建物を優先させ、負傷した市民の治療を優先させる。しかも、それを自分の名で行うのではなく、次期国王たるウリエの名で行う。
もちろん、市民はウリエが外交使節団団長として出ていることを知っているし、フィリップがいないことも知っている。当然ながら、この施策はアデライードの指示であることを理解している。にもかかわらず、その功績を弟王子に譲る慎ましい王女として、人々の記憶に刻まれることになるのだ。
「あざとい。」
そう感じてしまう。
それだけでは無い。もし、アデライードの身になにかあれば、"それは謀殺された"と市民に取られかねず、暴発を招きかねない。また、遠い場所に領地を与えて王宮から出したとする。そうすると、"王宮から追放された"となり、やはり同じような問題に直面しかねない。
では、なにか役職につけるとして、どんな役職が合うだろう?
それより、女が上司となることに対する反発はどうなる?
「いや、これは軍務ではないので、ウリエに丸投げしよう。あいつも、頼れる王サマとしてみてもらえるのだから、感謝するだろう。」
などと、勝手に決めつけ、アデライードの論功は忘却する。一応、アデライード本人には、ウリエが帰ってからと言っておく。
当のアデライードも心得たもので、
「ウリエ陛下への書状に、私の希望を認めていただいてもよろしいでしょうか?」
と、確認し、了承を得ると早速、書状を認めて送っている。これは、自らの希望を書状という形に残すことで、後々、ウリエが受ける可能性がある批判を逸らすためのものだ。
少なくとも、フィリップとしてはこれで最低限のことはした、そう思える状況にはなっていた。
明日には龍人族たちの国の、岩山の王宮に到着する。
そのタイミングで、兄と姉からの手紙が届く。
フィリップからの手紙には、事後処理の完了報告。
そしてアデライードからは、事後処理となによりも、彼の国への強烈な売り込みの依頼。
ウリエとしては、姉にはイストールでその手腕を発揮してもらいたい。
だが、それができないことも理解している。
だからといって彼の国に出してもいいものなのだろうか?
急速な発展を招き、将来的に我が国に害を及ばさないだろうか?
悩みは増すばかり。
だが、今は外交使節団団長としての責務を果たすことに専念しよう。
当面の間は、イストールの内政は兄姉に任せ、自分は目の前の課題をこなす。
少なくとも、リュウヤとの友好関係を構築することが、将来の害を取り除くことなのだろうから。