争乱終結
デュラスは叛乱軍を引きつけるだけ引きつける。
また、反撃は最小限にとどめ、別働隊が叛乱軍を包囲するまで待つ。
叛乱軍の攻撃は散発的なもので、とても訓練されたものとは思えない。
酒が入っていなければ、もう少しマシな攻撃ができたのかも知れない。それは叛乱軍側の都合であって、デュラスがそれを斟酌するものではない。
慎重に、敵に別働隊の存在を悟られないように反撃を行う。
そして、その時が来る。
敵の後方から聞こえる鬨の声。
「討ってでよ!!」
デュラスは叛乱軍への反撃を指示する。
今まで、軍隊と呼べぬ酔っ払いどもの相手にフラストレーションが溜まっていた王宮守備隊は、猛然と叛乱軍に襲いかかる。それにセリュリエが、
「手柄のたて放題だぞ!」
そう煽る。
煽られた王宮守備隊は、まるで濁流のごとく叛乱軍に殺到し、叛乱軍は完全に戦意を失った。
アデライードは、自室にてお茶を飲んでいる。
遥か東方の国より、生家が取り寄せた逸品。
逸品ではあるが、その苦味により周囲の者たちは敬遠している。
その苦味が良い刺激となり、アデライードのその頭脳を活性化させる。
「そろそろ終わったかしら?」
外の喧騒も次第に遠退き、少しずつ夜の静寂が戻ってくる。
やるべきことは多い。中でも最初にやらねばならないのは、被害を受けた者たちへの補償と、建物の修復。
王宮の城壁の修復?
そんなものは後回しで十分。
その為の命令書の作成と署名。
ああ、それともうひとつ。
義兄と義弟への報告も必要。
それらを手早く済ませ、空になったカップにお茶を注ぐ。
三杯目のお茶を飲み干した時、デュラスより報告が入る。
今回の争乱に参加した貴族たち全てを捕縛した、と。
アデライードの前に連れられてきた貴族たち、16名。
彼女が把握しているラムジー四世派貴族全員だ。
「あら、ギュスター侯爵ではありませんか。」
中央に座らさせられている壮年の男。
確かこの男の長男ネイは、ラムジー四世の出兵に同行していたはず。そして戦死していたわね。
「息子だけでなく、父親までが人を見る目が無いとは、伝統あるギュスター侯爵家も落ちぶれたものですわ。」
"伝統ある"、この言葉には嘲りが色濃くある。
ラムジー四世が如き愚物に近づき、忠誠を尽くすなどアデライードには信じられない。
「この世には、尽くすべき筋というものがあるのだ。商売人の孫にはわからぬのであろうがな。」
"商売人の孫"、ギュスター侯爵にとっては侮蔑の言葉を吐いたつもりなのだろうが、アデライードは痛痒を感じない。商売人の孫であるのは事実なのだから。
「ええ、わかりませんわ。尽くすべき筋とやらも、その筋とやらを尽くした後に何をなさるのかも。」
筋とやらを尽くした後、龍人族に再戦を挑むつもりなのだろうか?
イストールに比べて小国とはいえ、パドヴァをわずか数人で粉砕した種族に。
「ラムジー四世陛下を復権させた後、周辺国を糾合して龍人族に再戦を挑み、滅ぼす!それこそが、我らがするべきことだ!」
ギュスター侯爵の言葉に、他の貴族たちは陶酔したような表情を見せる。
それを見てデュラスは呆れかえっている。
龍人族は、自分が戦ったときの龍人族では無い。始源の龍の復活とともに、本来の力を取り戻しているのだ。
パドヴァ王国を簡単に屠る、その種族相手にどこの国が一緒に戦うというのだ?
「頭の悪い方の考えそうなことですわね。」
アデライードはあからさまに侮蔑の色を込める。
色めき立つ貴族たち。
「この私を出し抜くことすらできないのに、そんなことを妄想できるなんて。」
アデライードは自分が切れ者であることを知っている。そして、自分以上の切れ者がいるだろうことも知っている。
目の前にいる貴族たちは、自分よりはるかに格下である。
その身の程を教えて差し上げよう。冥土の土産に。
「貴方達の計画。さぞや成功の可能性が高く見えたことでしょうね。」
「?」
この小娘、何を言い出すのだ?
貴族たちはそんな表情を見せ、セリュリエは訝しげにアデライードを見る。
デュラスは無表情を装っている。
「あれを立案したのは、私なの。」
セリュリエは、アデライードの表情に悪魔を見た。