ガロア騒乱
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迫り来る叛乱軍。
そう聞くと勇ましく聞こえるのだが、デュラスの目の前にいる叛乱軍は勇ましさとは対極にいた。
アデライードに聞いていなければ、膝から崩れ落ちていたかもしれない。
「こんな奴らと戦うのか?」
冬季の進軍であれば、身体を温めるために多少の酒を飲ませることもある。
が、目の前にいる叛乱軍は完全に酔っ払っている。
そのため隊列はまともに作れていないわ、大声を出しながら進んでくるわで、"軍"というよりもならず者の集まりにしか見えない。
「将軍、あれが叛乱軍なのでしょうか?」
副官のセリュリエが疑問を口にする。
「アデライード殿下が教えて下さらなければ、私も貴公と同じことを口にしただろうな。」
「アデライード殿下、ですか。」
セリュリエの表情が渋くなる。
数年前まで王族として公認されてこなかったアデライードは、この国の王族・貴族はもちろん、高級士官クラスからは、良く言って人気がない。はっきり言えば嫌われている。
その発想、思考、立ち居振る舞い。
さすがに公然と言われることはないが、態度まで隠せるものではない。
そして、その出自から「御伽噺のお姫様」みたいだとして、平民や下級士官、兵士からの人気は絶大だったりすることも、上層階級には嫌われる要因になってもいる。
アデライードの方もそれがわかっているから、王宮での付き合いは必要最低限にしており、市街に出て市井の人々と交わることを好んだ。
その行動が、より一層の人気を呼び、上層階級から嫌われるという循環を招いている。
「姫君にあらせられるのだぞ。」
不敬ととられぬよう注意せよ。言外にそう込めてデュラスは言う。
デュラス自身は、アデライードにも王族としての敬意を持って接しており、王宮における数少ないアデライードの信用を得た存在である。
アデライードが王宮での生活を窮屈に感じており、出たがっていることも知っている。
そして、息子ジゼルから「彼の国」に興味を持っていることも知らされている。
そう遠からぬうちに、アデライードは彼の国に行く、デュラスはそう確信している。
彼女の能力は、この国では活かされることはないだろう。上層階級の嫉妬、そして女であるがために。
「あれが男なら、俺はアデライードを王に推しただろう。」
とはフィリップ王子の言葉だ。
アデライードの能力を称賛しているように聞こえるが、その実、イストールでは発揮されないことを示唆している。
「惜しい」と、デュラスは本気で思う。
だが、今はそんな思いを振り払う。
叛乱軍を駆逐するのだ。
王宮を守る城壁に、ようやく到達した叛乱軍へ攻撃を指示する。
ラムジー四世派貴族にとっては「正義の戦い」。
デュラスにとっては一方的な殺戮の始まりだった。