表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
1/463

プロローグ

見切り発車で書いています


遅筆ですがご容赦を

 12月も半ばに入り、街はクリスマス一色。

 街路樹にもイルミネーションが燈ると、あちこちでイチャイチャするリア充や、親に手を引かれる明るい表情の子供達。

 正直言って、独り身のアラフォーにはやるせないシーズンだ。

 子供の頃に思い描いていた未来は、すでに思い出すことすらできないが、現実とは凄まじい落差があることだけは、理解している。

 ベンチに座り、缶コーヒーを飲んでいると、冷たいかたまりが頰にふれる。

 子供達が「雪だ!」と、大はしゃぎし始める。

 本来なら微笑ましいはずの情景も、そう思えない。


「雪か・・・」


 そう呟く。

 雪に良い思い出がないんだよな。

 いや違う。

 雪に良い思い出がないのではなく、それ以上に、強烈に嫌な思い出があるだけだ。

 8歳のクリスマスイブ、雪のなかはしゃいで塾から帰った、真っ暗な家。いつもなら夕食を作って待っているはずの、母親の姿がなかった。有り金全てを待って、浮気相手と駆け落ちをしたと知ったのは一月ほど後になってからだ。口さがない近所のおばさんたちの噂話で。

 10歳になる直前の元旦の朝、姿の見えない父親を探していたら、トイレで首を吊っていた。遺書には多額の借金を苦にしていたと、そう書かれていたそうだ。この日も雪だった。

 15歳まで親戚をたらい回しになり、中卒で小さな建設会社で働き始めた。社長の好意で、定時制の工業高校に通わせてもらえたのは幸いだった。

 正直、この時が一番幸せだった。社長は厳しかったが、息子のように接してくれ、可愛がってくれた。

 それも、アメリカ発の金融危機、いわゆるリーマンショックで終わりを迎えてしまう。

 リーマンショックの被害が一番少ないはずの日本で、大企業の緊縮ムードが高まってしまい、上り始めていたはずの景気が悪化。トドメに政権交代した民主党の無策もあり、工場の経営が傾いてしまう。

 リーマンショックから、一年以上も持ちこたえることができたのは、それまでの健全経営のおかげだろう。

 そんな健全経営の会社も、銀行の貸し渋りにあいあえなくたたむことに。「余力のあるうちにたたんだ方が良い」と判断したのだろう。退職金を多目に貰えたのはありがたかった。そして、この日も雪だった。

 その後の就職活動は失敗の連続。

 それこそ食うために日雇いの仕事をしたりしたものだ。


 過去の回想をしている間に、雪もつもりはじめていた。


 5分ほど歩くと、交差点の信号が赤に変わる。

 交通量の多い交差点。信号の待ち時間も長めだ。

 隣に小学校低学年くらいの女の子が、信号が変わるのを待っていた。

「自分にも、これくらいの子がいてもおかしくないんだよな」そうぼんやりと考えていると、その女の子が後ろから押され、車道に飛び出した。そこに大型トラックが迫ってくる。

 咄嗟に女の子の手を引っ張り、歩道に引き上げる。そこまでは良かった。つもった雪のために足が滑り、体勢を崩し自分が車道に倒れこんでしまう。

 トラックもブレーキをかけたようだが、つもった雪の上だ。間に合うわけがない。

「死んだ」

 自然にその三文字が頭に浮かぶ。次の瞬間、強烈な衝撃を感じた。そして、「なんでこのクソガキが助かるんだ」という、これまた衝撃的な年老いた女の声も聞こえた。随分と昔に聞いたような声、そんな気がするが確かめる余地もない。

 自分はもう助からないのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ