第6話 結果と友と姫
なんだか、体が浮いているような感じ。
例えるなら……母の腹の中といえばいいのだろうか。
いや、というよりこれはベッドだ。
感覚でいえば羊水の中というよりはどちらかといえば部活終わりに電車の中でしたうたたねの後というような感じだ。 心地よい。
ん?ベッド?確か俺は戦っていたはずじゃあ……。
「あっ!試合!!」
大声と共に目覚めた。その声は自分のものでさらに 試合が終わっていることに気づく。
「おぅっ!めェ覚ましたか!!」
この声はまさか……。
「ぐっすり眠ってたなぁ!」
やはりハンクだ。最悪の目覚めだ。
「そういえば試合は!結果は!俺はどうなんだ!」
「そのことなら安心しろ!試合は勝利!」
「そして……。」
いらなく溜めてくる。早く言えよ。
「おめでとう!採用だ!」
「おっしゃあ!!」
全身で喜びを伝えようとしたが体が動かなかった。
「あぁ動くな動くな。まだ魔力が回復してないんだ」
「これで俺は王宮の兵士になれるんだな!」
「あぁ、それなんだがな……。」
ハンクは申し訳ないような顔をしている。
「お前は兵士見習いだ。」
「はぁ!?」
「お前の分身。そして煙魔法に王や王妃、その他大勢が興味を示した。だが、兵士として雇うにはなんというか……経験が足りなさすぎるんだ。最初の剣一点突破で攻めてゆくというものをそう捉えたらしい。だからひとまず見習いとして、兵士ではない役職についてもらう。」
なるほど。確かに傍から見れば無謀だったもんな。
「んで、その役職って何?」
「あぁ、それはな。」
「姫様のお世話係だ。」
「はぁ!?なんで俺が子供のお守りしなきゃいけないんだよ!!」
「姫様と言っても17歳。立派なお方だ。」
17。同じくらいか。ならまぁいいか。
「さらにお前を姫様のお世話係にしたのは理由がまだある。」
「姫様は王宮剣術の達人。その剣術をお前に叩き込むというのが一つ目。」
それは理にかなっている。俺を強くするために……か
「そしてもう一つだが……。」
これはもしかして俺のための人事なのか。
「姫様は、とても気まぐれな方なのだ。だから、人手が足りんのよ。そこでお前の分身だ。」
ハンクはオブラートに包んで言ったが、単純に姫のわがままに人手がいなくて困る→俺。というわけか。
なるほど……。
悪くない。
お姫様のお世話係、つまり姫と密接な関係になる。
ということは……。
ついに来た!恋愛フラグが!
倒れて目覚めてもおっさんの顔しかなかったこの世界でついに夢にまでもみた光景が手に入る!
まさしく一石二鳥といえよう。
「あぁ、あとこれな。明後日から入ってもらう予定だから、城の案内図とお前の共同部屋の案内図、そしてこれがお前の具体的な仕事内容。あと、お前の仕事着はもう部屋に届いてるから確かめておけよ!使ってた武器も部屋にあるはずだから。」
明後日からか。ということは明日は何かしらあるのだろうか。まぁいい。とりあえず部屋に向かってみるとしよう。
魔力がもう少し回復してから……。
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1時間後くらいに体がしっかりと動くようになり、医務室を出た。
療養している間に城と部屋の案内を見ていたがここは広いし人数も多いようだ。
しかしその割には部屋が余っている。
ハンクのように一軒家を持っている人がいるのだろう
どうやら俺の同居人は1人のようだ。
部屋割りは受験番号で書いてあるようだが1番が無くてホっとした。
まぁ、コミュ障を治すいい機会だ。頑張っていこう。
そう期待を膨らませている間に部屋に着く。
おそらく中に俺の将来の大親友になる人がいる。
どうもこんにちは。俺は蒼井樹っていうんだ。
気軽に樹って呼んでよ。君は?
よしっ。これでいこう。
いざオープン!
ドアを開けるとそこには蛇と戯れている少年がいた。
ゆっくりとドアを閉めた。
うん。無理だ。
蛇が友達の人とは友達になれない。
念のため。念のためだ。
もう1度見てみよう。
再びドアを開ける。
すると目の前に目をキラキラさせながら俺を見ている青年がいた。
「君が分身の人だね!!」
青年はそう言い、握手を強引に行った。
ヤバイ奴?ではあるな。
そうは思ったがひくに引けずそのまま部屋へと入っていった。
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部屋は意外にも充実していた。
クローゼットにキッチン。トイレにリビング兼寝室。
リビングには二段ベッドが一つあるのみ。
「いや〜。凄かったんだね!君。突然何人もの君が現れてえいやーっ!って」
「あぁ、ごめん。僕の名前はカルン。カルって呼んでね。君は?」
先手を打たれた。カルン。金髪で歳は13~14だろうか。身長は小さく、かわいい系だ。女だったらなぁ。
「俺は蒼井樹。イツキって呼んでくれ。」
「うんっ!よろしくねイツキ!」
悪いやつではなさそうだ。
とりあえず、親睦を深めていかなければ。
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翌日。樹とカルンは城の施設をまわっていた。
カルンは俺と同じ見習いではなく、第3攻撃部隊の兵士だとか……。これはなんか辛い。
しかしカルンからある情報を入手した。
「いいなぁ。姫様係。出世コースじゃん。」
「はぁ?どうゆうことだよカル。」
「だって今の攻撃部隊の総指揮官と第2攻撃部隊長の人。姫様係だったらしいよ。」
ん?ということはこれは……。
俺はもしかしてエリート街道まっしぐらなのではないか!!
見習いではない!むしろその逆だ!
「まぁ、姫様係になった人がどんどんやめちゃって、やめなかったのがあのふたりなんだけどね。」
前言撤回。
修羅の道とでもいうのだろうか。
とりあえず、大浴場へ行き汗を流した後、部屋で飯を食って寝るということになった。
カルの料理もハンクと同じように壊滅的な味であった
ために俺が料理担当となった。
まぁ、身の安全のためだ。納得しておこう。
明日がいよいよデビュー戦。俺のここでの新たな生活のスタートだ。
希望を胸に抱いて横になった。
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翌日、慣れない環境ながらも心地良い目覚めであった樹は伸びをして時計を見る。
そして一言
「あっ、遅刻だこれ。」
樹は急いで仕事の支度をする。
朝食は抜こうがどうにかなる。とにかく急がなければならない。
この寝坊の原因はよく分かる。
寝る寸前にカルがアナコンダとキャンプに行った話が面白すぎてついつい夜更かししてしまった。
あいつも夜更かししたクセして俺が起きた時にはもう仕事に行ってるんだよなぁ。
起こせよ。
八つ当たりしていても意味は無い。
とりあえずスケジュールにある、姫のモーニングコールと姫のベットメイキングやらがもう不可能だ。
ベッドメイキングは後でやるとして今は姫だ。
今は確か書斎兼中庭とかいうわけわかんない場所にいるはずだ。
予定通りならば。
まぁ、必死に謝ればどうにかなるだろう。
少し走ると書斎への扉が見つかる。
樹は少し息を整えて急いできた感じを出しつつ入る。
「はぁっ…。す、すいませ……。」
「アクリシム!」
謝ろうとするやいなやすごい勢いで水が飛んできた。
「ぐはぁっ!!」
見事なまでに青天井である。
「仕事始めに遅刻とはいい度胸じゃない。兵士見習いの癖にね」
目の前には髪が赤色がかった女が立っていた。
恐らくこいつが姫だろう。
そして恋愛フラグはもう立たない。むしろ立たせたくないそう思えた。
どうも。区切りのいいところいいところとやっていくうちに1話が延びてタイトルも長くしなければならなくなった。パウエルです。
さて、7話いかがだったでしょうか。
初見の方是非最初から。
ではまた次で……。