4話 初戦と魔法
煙を出して分身で襲う。
煙を出して分身で襲う。
靴紐を結びながら頭の中でシミュレーションをする。
今日で樹の全てが決まる。
彼にとってのこの世界の暮らし方の全てが。
駄目だ。
不安要素しかない。
この世界にきてから樹の計画はことごとく潰れている。
主人公補正で安定した生活。
最強の特殊能力でこの世界を制する。
まったく叶っていない。
それどころかハンクと武術の特訓をするという小さな計画も叶わなかった。
おかげで今日までやってきたことといえば、ひたすら本を読み戦法や動きを覚える。
ランニング。
1人で武術の特訓。
こんなんでいけんのか俺。
結果的に身についたのはハンクにきれいだと言われた正拳突きと回し蹴りくらいだ。
愚痴っていても始まらない。右足、そして左足の靴紐を締め、家を出た。
………………………………………………………………
王宮の場所は図書館と一緒に教えてもらった。
図書館から少し東。徒歩10分程度であろうか。
正面に白く大きな建物が見えてきた。
人通りが多い。やはり城下であるからだろうか。
それともこいつら全員がライバル……。
少し寒気がした。
こんなこと考えてても始まらない城下を歩き王宮へと向かい続けた。
そして王宮への入口である大きな門の前に着いた。
「城へと入ろうとするお前!受験者か!それともただの野次馬か!」
門番が怒鳴り立ててきた。
「じ、受験者だ!!」
何故か大きな声でいった。馬鹿みたいだ。
「威勢はいいようだな!これをもって中で時が来るのを待て!!」
そういい門番はA4くらいの古紙を渡してきた。
そして、俺は王宮への1歩を踏み出した。
そこでの光景に唖然とした。
人がまじでゴミのように溢れている。
嘘だろ……。こいつら全員受験者かよ。
いや、野次馬という可能性もある。いや、あってほしい。
門番から渡された紙を見てみる。
そこには541とある。
嘘だろ。
受験番号541番。
これが意味するのは少なくとも俺を抜いて540人の受験者がここにいる。
中国の受験かよ。ライバルしかいねぇじゃねぇかよ。
普通こういうのはぱっと見で分かるライバル格の男がいて・・・、みたいな熱い展開があるはずなのにそれがない。
だが見える人間のすべてが胸板が厚い。
「受験生たちよ!よくぞ参った!」
樹が品定めしていると城から大きな声が聞こえた。
城のすぐ前で兵が話を始めたようだ。
さっきまでの騒音が嘘かのように静まり返っている。
「これからの試験の説明をする!私は試験官である
ハンク第3部隊長である!」
どこかで聞いた名のような……
ハンク?あいつが部隊長?
…………。
あの脳筋が!?いやないないない。
ジャンプして人物を確認する。
すると、デカイ身体に馬鹿そうな顔をしている。
間違いない。
ハンクだ。
この国は大丈夫なのか。それが第1感想である。
「……のような理由で募集を開始した訳だ。
さぁ前置きはこれくらいにして肝心の試験内容だ!」
一瞬空気がピリッとした。
「それは……。対人戦だ!」
ハンクが言った通りっていうか知ってたよなあいつ。
「ただ当初の予定であったリーグ戦形式にすると時間がかかるため1発勝負で行うことにする!そしてそこで成果を残すのだ!」
これは嬉しい。戦法を使い回すということの出来ない俺にとっては幸いだ。
「これより対戦カードを掲示する。対戦カードには先程配った番号と対戦場所、何試合目かを記してある!しっかりと見ておくように以上!!」
その言葉と同時に人々は門と城へと移動し始めた。
おそらく、対戦カードが掲示されているのであろう。
樹も急いで門へと向かい541を探す。
それはたやすく見つかった。
『 第一試合 541対1 第一会場』
第一試合。それも一番の野郎と。
一番それはつまり、一番最初にこの門をくぐった者。
やる気だけなら最強?ということであろう。
「何が何でもぶっ潰してやる!」
自分を戒めるかのように高らかに宣言した。
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試合会場につくと第一試合であるからだろうか。
ギャラリーが多い。これは恥をかけない。
「番号1番!541番!前へ!」
兵士の掛け声と共に前へと出た。
正面から来る相手を睨みつける。
いかにもリア充といった感じの野郎だ。
腹が立つ。踏み潰したい。
「君がこの番号1番の相手か。いかにも弱そうな…」
「うるせぇな、言葉は負けた後いくらでも聞いてやんよ。」
「礼!!」
30度くらいの礼をした後に間合いをとる。
約3mと言ったところ。ちょうどいい。
俺の力をかましてやんよ!
「始め!!」
「リディート!!」
先手必勝。煙で巻いてリア充を取る!!
みるみるうちに煙が会場を包んでいく。
「フーガ!!」
煙が突風と共に消えてしまった。
「ふぅ、危ない危ない。どんな魔法かわからないがそんなもやは僕の風魔法の敵じゃないね。」
カゼマホウ?そういえばそんなのをどっかで聞いたな・・・。
んっ?待てよ。これはもしかして……。
俺の煙の魔法じゃ詰んだくね?
「フーガ!!」
「ぐぁっ!」
ものすごい突風で吹き飛ばされる。
これはまずい。奇襲での勝利を狙う作戦。
その奇襲を作り上げるピースがかけてしまった。
これでは……。
いやっ!まだだ!!
「分身の術!!」
とりあえず5人の分身を作った。
「いけっ!!」
「おっ、おい!なんだよそいつは!」
なんかわからないが奇襲を作り出せた気がする。
「フーガ!!」
見事に5人の分身が吹き飛ばされた。
「ぐはぁっ!」
そして奴らのダメージは俺へと……。
「よくわからないが大したことないな!それは。諦めていつ来るかわからない次回の試験にかけな!!」
だ、駄目だ。そんなんじゃ。諦めたらそこで……。
だから……だから……。
「ここで諦めたらハーレムが作れないんだよ!!」
そのときであった。急に体が光輝いた!
いや、これは体からじゃない。もっと違うなにかだ。
懐からの光。これはもしかして・・。
樹は懐から魔導書を取り出す。
そしてその魔導書の光っている部分、具体的には二ページ目を開いた。
するとそこには見覚えのないものがある。
『 カルトーラ』
ただその1語である。
「こうなりゃやけだ!」
効果も何もわからない。だが、何もしないよりはましだ。
「カルトーラ!!」
どうも。作者です。
さて、この話の前半は1月の頭に書いたため、編集をした二月現在ではまったく記憶のない話となりました。まぁ、どうにかなりそうなので良かったです。いつ、次が書き上がるかわかりませんがお楽しみに