2話 特別な判別
「これからどこいくんだ?」
樹は町を歩きながらハンクに尋ねる。
もう敬語がめんどくさくなった。これでもいいだろ、タンクって言わない代わりに。
「働くにしてもお前の魔法がどんなものかをしらなくちゃならんからな。とりあえず魔導書を取りに行こう。」
「魔法って俺にも使えるのか⁉」
「もちろん使えるさ。お年寄りから子供まで、みんな平等に使えるぞ。」
その言葉に樹はガッツポーズをした。おそらくすべての異世界転移者(チート系を除く)が悩むであろう最初の関門である魔法をいとも簡単に使えるというのは心が躍る。
「その魔導書っていうのはどこで手に入るんだ?」
「随分と食いつくな。城の方に魔法図書館というのがあってだな、そこで誰もが無償で手に入れられるんだ。王のおかげでな。」
ここでハンクが兵士らしく王を立てる。だが俺も王に感謝しなければならない。まさかの無償で魔法を使えるようにしてくれるなんて。
樹はハンクの横を浮足立ちながらようやくとてつもなく大きく、歴史を感じられる建物に着いた。
中に入ると驚いたように司書がハンクを見て、今日はどういった御用ですかと聞き、こいつに魔導書をくれてやってほしいといった。
司書は少々お待ちくださいと言い、裏からプレートのようなものを取り出してきてこれに手を置いてくれと言う。司書の言う通りプレートに手を置くと少し光り、そしてプレート全体が赤く輝いた。これを見た司書は驚き、もう一度お願いしますと言うが何度やっても結果は同じで今は何をやっているんだと司書に尋ねると、
「今はあなたの魔導書がこの図書館のどこにあるのかを調べているのですが見つからなくって、もしかしてあなたは他の国の出身ですか?」
「他の国というか異世界の出身なんですけど。」
樹が正直にそう伝えると司書は頭を抱えてあぁ、という顔をした。
「あのね、魔導書っていうのは簡単に作れるものではなくてね、だいたい五年くらいで完成するの。それに作るのにはその人の血液が必要でね、普通は生まれて少し経ってから血液を採取してそれを魔導書の元本につけて時間経過を待つっていう仕組みなの。だからこの国のましてはこの世界の人間じゃないあなたの本はここにはないし、作るにしても五年はかかってしまうの。わざわざ来たのにごめんなさいね。」
そう言われた亮太は他の人の目など気にせずにその場で崩れ落ちた。この一言によって亮太の人生設計が完全に崩れた。さらば俺の最高の異世界生活よ・・・。
樹とハンクは図書館を出る。
樹の目はまるで自分の彼女が違う男と歩いているのを目撃したかのような呆然とした目をしている。
「まぁ、あんまりがっかりするなよ!!魔導書が無くても使える魔法っていうのはある!」
そう言ってハンクは樹の背中をバシバシと叩く。
すると樹の身体から何か大きなものが落ちた。
樹はそれを拾い上げる。見たところほんのように見えるが・・。あれ、もしかして・・・。
ハンクはそれを見て驚いた顔をして樹の肩を掴む。
「なんだ!!持ってんじゃねぇかよ魔導書!!」
そう言って身体を揺らしてくる。
やっぱりか!樹は再びガッツポーズをする。
しかし不思議だ。こんなものを持っていた覚えはないし、そもそもこんなサイズのものが樹の服に入るとは思えない。
一体どうして・・・。
樹は少し考え込む。
そして出た結論は、
ま、いっか。
であった。考えたってどうせわからない。異世界転移というのはそういうものだ。
樹は魔導書の内容の確認の前にひとまずハンクの家に行くこととなった。
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ハンクの家は最初の路地の近くにあり、普通の家であったが庭があり、そこそこいい生活をしているようだった。
そして遅めの昼飯にハンクの作ったわけのわからない炒め物を食べて、会議が庭で始まった。
「さっ!腹も膨れたし、早速お前の魔法を見てみよう!」
ハンクは元気そうにいった。あの飯はほんとに腹をふくらませるためだけに作ったような味だった……。
「まずは魔導書を開くんだ!」
樹はハンクに言われた通りに魔導書を開く。
ここに来るまでは異世界人の持ち物は貴重だから何でも狙われると言われ隠してきたので開いていないし、ここに来てからも開かずに食事という名の拷問に耐えていたので樹は中身というのを全く知らない。
樹はプレゼントの包みを解くようにわくわくしながら魔導書を開く。
するとそこには羊皮紙に呪文らしいものが二つだけ書かれていた。
それをのぞき込んでいたハンクは貸してくれと言い、樹の魔導書をペラペラとめくる。
「妙だな。」
最期のページまで見終わってからハンクはそう言った。
「何が妙なんだ?」
樹はハンクに尋ねる。
「魔法の数が少なすぎるんだ。一ページに二つだけ。それに他のページもみてみたが全部空白。魔導書に魔法が二つだけなんてありえないんだ。」
ハンクは先ほどまでのバカみたいな声ではなく静かなトーンでそう話す。
「しかしおかしい。普通は魔導書に空白のページなんてないはずだ。」
ハンクはぶつぶつ言う。
樹は正直どうでも良かった。
早く魔法を使ってみたいという気持ちの方が強かったからだ。
樹は考え込んでいるハンクを無視して魔導書の一番最初の呪文を唱える。
「リディート!!」
樹がそう勢いよく唱えると体中からもくもくと黒い靄が出て来た。
靄は樹の周りを包んでいく。
これすごい目に来る!!それに少し肺に入ったけど苦しい!!
そんな風に慌てていた樹だがもう一つ異変に気付く。
めまいがする。そして身体から力が抜け・・・、
そこで樹の意識は途絶えた。
2話目の投稿となりました。
次話の制作も絶賛行っておりますが、なかなかストーリーが、頭の中で進みません。
出来れば2週に1本を投稿できたらなと思います。