12話 コンゴレアとドナと腹の探り合い
樹たちは二人の当たり屋を連れて数十分してようやく城門にたどり着いた。
道中で二人が目覚めることはなくラースの実力が思い知らされた。
城門には重装備の兵士二人が槍を持って待機しており
「お待ちしておりました。ラース様。」
とそのうちの一人が頭装備を外して話しかけてきた。
なかなかの美青年だ。
「我々は王よりあなた様をご案内するようにとの命を受けてここで待っていたのですが・・・、その者たちは?」
兵士は不思議そうな目で気絶した二人を見る。
「あぁ、これは先ほど偶然出くわした盗賊です。コンゴレアの領土内で捕らえたので連れた来ました。」
そう言ってラースは大柄な男を地面に落とした。
それを見た樹も慎重に小柄の男を下す。
「それはそれは。失礼いたしました。我々の警備の甘さゆえにこのような無礼を。」
兵士らは申し訳なさそうな顔をして頭を下げる。
「いえ、いいのです。」
ラースはそう言って優しく微笑む。
「しかし、てっきりコンゴレアからの使者かと思いましたよ。」
ラースはそう言って笑うが場が凍り付いた。
「さて、案内をお願いしたいのですが。」
ラースはそんなことはお構いなしにそう言う。
「は、はい。かしこまりました。それではこちらへ。」
青年の方がそう言って城門を開いて案内をする。
もう一方は二人の男を両肩に担いで別の方向に向かう。
樹は辺りを見渡しながらラースの後ろをついていく。
門を抜けた先は市場らしく活気あふれた様子が見て取れる。
またそこらかしこに兵士がいて、自分たちを見るやいなやかしこまってこちらに敬礼をする。
それを見た国民たちも気をつけをしてこちらを不思議そうに見つめる。
しかしながら状況が分かっていない子供たちはこちらにおーいと手を振って母親に叱られているがラースはそれに気前よく手を振り返している。
樹もそれを見て手を振ろうか悩んだが、小間使いである身の者がそんなことをしてもいいのかと思い、ラースの晴れやかな姿を見るだけにした。
そうしてしばらく行くと再び大きな城門にさしあたり、そこに先程と同じように2人の兵が待ち構えていた。
「これよりは私に代わってこの者たちが案内致します。」
樹たちを先導していた兵はそう言って一礼して来た道を戻って行った。
「それでは私についてきてください。」
兵の片割れがそう言って先導を始める。
もう一方は大きな門を開けるためのレバーを引く。
ゴゴゴゴッと大きな地響きを鳴らしながら門が開く。
そしてその中の様子は樹を驚かせた。
先程までの光景ではバザーのようにあちらこちらに露店が並び、子供たちは駆け回って遠くには畑なんかも見えた。
しかし門をくぐった先にあったのは一言で言えば街。
露店なんかは存在しなく、通路なども整備されあちらこちらに大きな建物が見える街であった。
そして中の人々にも違いが見える。
服は真新しく、髭を携えた老人など男性の年齢層は高く、女性は若く綺麗な女性が多い。
そんなことを考えながら先導者の後をついていくと後ろで門が閉まるドーンッという音が聞こえ、先程まで聞こえていた活気溢れる声が消え、シーンとした雰囲気となった。
正しく別世界。説明は受けていたもののここまではっきりとした違いがあるとは。
しかしここには人を襲う巨人なんかはいないはずなのにどうしてこんなにも露骨に分けられているのか、樹は不思議だった。
そうして活気の無い整然とした街を進んでいくとゆっくりと目的地であろう城らしきものが見えてきた。
樹は再び気を引き締めて進んで行った。
さて、城の前には先程と同じように大きな門があり、同じように兵が2人配備されている。
「それではここからはこの者たちが。」
とまたも同じように兵は去っていく。
そしてまた同じような手順を繰り返して門が開く。
そして見えるは壮観と言うべき大きさの城。
樹は馬を進めようとするが門を開けた兵士に止められた。
「これよりは馬は入れません。私たちが責任を持ってお預かり致します。」
そう言って樹たちの馬を持って去っていった。
今の今まで馬に載っていたので足に違和感を覚えながらぎこちなく樹は進んでいく。
そうして城の入口まで来ると扉が開き中からメイド服を着た男が2人と青の貴族風のドレスコーデをした細身の男性が2人を迎えた。
「遠く遥々から良くお越しくださいました。」
細身の男がそう言って礼をする。
それに合わせてメイド服を着た男らも深々と礼をした。
「いえいえ。2カ国にとって重要な事柄ですので。それにコンゴレアでの会談は我々が提案したことですし。」
「そう言って頂ければ有難いです。あっ、申し遅れました。私は…」
そう言って男は顔を上げ身なりを整える。
「私の名前はドナと言います。この国の法務大臣と外務大臣を兼任しております。」
「これはこれはご丁寧に。私はラース。ミルタでは外務大臣を担当しております。」
そう言ってラースはドナに握手を求める。
ドナは笑顔でそれに応える。
外務大臣。ということは今回の一件に大きく関わっているであろう人物だ。見るからに知的で営業スマイルを絶やさないいかにも裏表が激しそうな人間だ。
「さて、会談は明日の昼頃を予定しておりますので時間が大幅に空きます。ラース殿、そしてお連れ様は昼食を取られていますか?」
「いいえ。何せ早朝からこちらに向かってきたので。」
「それではすぐにお食事を用意致します。」
そう言ってメイドにこそこそと何かを言いつける。
「せっかくのおもてなしなのですが、国の雰囲気を見たいので市で食事を取りたいのですが、よろしいですか?」
ラースはドナにそう言った。
「えぇ、それは構いませんが…。それならご同行致します。」
「いえいえ。それには及びません。様々なところを周る予定ですので。迷惑をおかけしたくありません。」
「そうですか…。それならそうしましょう。すいません、何もおもてなし出来ずに。」
「謝られても困ります。元はと言えば私のわがままなのですから。」
「ありがとうございます。それでは何かございましたら近くの兵にお尋ねください。あちらこちらに治安維持にまわらせているので。」
ラースはありがとうございますと言って城からです。先ほどくぐった城門には馬を連れた兵士が待っていて馬を二人に渡して再び城門の前で警備を始めた。
何とも無愛想だ。
「それでは行こう。」
ラースは樹にそう言って馬にまたがる。
樹も急いで馬に乗ってラースの後ろをついて行った。
そうして来た道を戻る。
城に向かう時もそうだったが会話がないためとても気まずい。
「…ノイジング。」
ラースが小さな声でそう言った。
そして辺りを確認した後に一つ大きくため息をついた。
「フゥ…。どうやら事態はとてもめんどくさいことになっているようだね。」
「えっ、どういうことですか?」
樹はどういうことか全く分からずにそう尋ねる。
「僕達は全く歓迎されていない、むしろ何とかして早々に追い出そうとしている。」
ラースのその言葉に樹は首を傾げた。
大臣が直々に迎えて食事まで用意しようとしているのにも関わらず何故そんなことを思ったのだろう。
「いいかい。この国に到着する前の二人の盗賊のことを覚えているかい?」
「えぇ、ラース殿が倒した…。」
「ははっ、ラース殿とは。そんなに畏まらなくていいよ。人前ではそれでいいけど二人でいる時はもっとこう、友好的に接してくれよ。」
「はぁ、そうですか…。」
「話を戻そう。その二人がミラージュという認識阻害魔法を使っていたのを覚えているね。」
「えぇ、急に目の前に出てきて驚きました。」
「あれ、多分掛けたのコンゴレア国の魔術師なんだ。」
「ええっ!?」
樹は驚く。それが本当ならばラースはコンゴレアに襲撃されたということになる。
「ミラージュというのは簡易的な魔法ではあるけれど使い手によってそのレベルに大きな違いが生じる。あれはあの盗賊のレベルにしては高すぎる。」
「コンゴレア以外がやったという可能性は?」
「それもない。そもそもあの辺りは何も無い平原で滅多に人が通らないんだ。だからあそこで追い剥ぎをやること自体おかしい。そしてこの会談は2カ国の秘密の会談ということにしていて政府以外は誰も知らないはずなんだよ。つまり、国絡みじゃなければありえないんだよ。」
「そ、そんなことをここで言ってもいいんですか!?」
これはコンゴレアを侮辱するような言動だ。もしもこれがどこかで聞かれていたら疑われることになる。
「問題ないよ。音声阻害を掛けたからね。聞いていた人がいたとしてもこの会話は何とも言えないノイズくらいにしか聞こえないよ。」
「そうですか。それなら良かったですが。」
先程の呪文。恐らくそれがそうなのだろう。樹はホッとした。
「それで、どうしてそんなことを。」
「僕らへの牽制だろうね。もしも僕らが彼らを馬で轢いていれば悪名が轟く。轢かないにしても彼らを私たちから襲えば同じことが起きる、もしくは正当防衛で僕らは殺される。だからこそ僕はこうして少しの傷をつけられてから彼らを拘束したのさ。」
ラースはそう言って腕を見せる。そこにはうっすらと切り傷のようなものがあり少しだが血が出ている。
「幸いなことに毒の類は塗られていなかったようだから回復を使う必要も無かったよ。」
そう言って腕の傷を隠す。
「そして大臣が直々に迎えた。普通ならメイドや兵士で済むことにも関わらずだ。確かに客人ではあるがわざわざ正装をして大臣自ら扉を開けるなんてことはする必要は無いはずだ。」
そう言われればそうだ。あまりにも厚遇過ぎた気がする。
「恐らくだが私たちに誠実さを見せようとした。もしくは私たちを見極めようとしたのだろう。違法薬物の件を嗅ぎつけたのかどうかをね。」
確かにあの男ならそこまで考えていそうだ。
「それに何より現在尾行されている。」
その言葉に樹はドキッとした。
「決して振り向いてはいけないよ。尾行に気づいているとバレれば面倒だ。」
樹は動かそうとしていた首を止めた。
「これからどうするんですか?」
「仲間と合流する。樹くんに会わせる必要があるんだ。」
そう言ってラースは馬の腹をポンと蹴ってスピードを上げた。
樹も急いで馬の速度を上げてラースについていく。
どうやら思っていた以上に大変な仕事のようだ。
樹はそんな不安と共になんとなくの違和感を覚えながら馬を進めた。