11話 ラースの実力と目的地と
樹はゆっくりと目を開ける。
目の前に広がるは林、そしてラースの姿。
どうやらここは天国では無いようだ。樹はほっと一息吐く。そんな樹の姿を見てラースは少し笑う。
「まぁ、初めてはそうなるよね。私もそうだったよ。」
そうラースはにこやかに言う。試しの門みたいな感じなのか。
ラースは先を急ごうと樹に言い馬を走らせる。
樹もそれに付いていこうと馬の横腹を足で軽く蹴る。
どうやらこの馬は良く調教されているらしく初心者の樹の合図を受け取ってラースの後ろを付いていった。
そこからは何も変わらない環境を走るだけの作業となる。
馬はやはり優秀なようで樹が何もしなくてもラースの後ろを付いていく。樹はただ何をすることも無く変わり映えのない林をぼんやりと見るだけである。
出発前はいざ冒険へ!みたいな感じだと思っていたが実際はとても地味である。
RPGの主人公もこんな気持ちなのだろうか?
いや、エンカウントしない分自分の方がクビ差で地味だろう。まぁ、エンカウントはしてほしくない。
倒したところで経験値は手に入らないしそもそも倒せるかどうかも分からない。
そんなどうでもいい妄想を頭の中でぼんやりとさせていると林の向こうから強い光が差しているのが見える。
ようやく開けた世界で冒険の始まりか!!
樹は胸を躍らせていざ冒険の世界へ!!
林が開ける。
するとその向こうに見えるは平原。一面に建物一つ見えない平原。
新鮮さを期待していた樹にとっては何とも言えない景色であった。
確かに林から平原へとステージは移行したが結局は変わり映えのない景色であり、五分後には妄想にふけっている自分の姿が樹には見えた。
その予想は的中し、樹はコンゴレア国内を颯爽と駆け回り見事に悪者を捕らえてラースと握手している自分の姿を妄想するという全く頭に入ってこない授業を聞いているときのようなしょうもないことをしていた。
そんな時間がどれくらい続いただろう。ただボーっとラースの背中を見つめながらなんやかんやで王の側近にまで昇進するところまで頭の中でストーリーが展開されていた時にラースが話しかけてくる。
「ほら見えて来たぞ。」
そう言ってラースは遠くを指さす。樹はその先を見ると小さく塀のようなものが見える。
距離から小さなものに見えるが実際はとんでもない大きさなのだろう。
「あれが今回の調査国。コンゴレアだ。」
ラースはそう補足する。
なるほどあれがか・・。まぁ指さしたのだから当たり前なのだが。
しかし、とても大きな国だ。
自国と比べても大差ない・・・。
ここで樹はあることに気づいた。
俺が住んでいる国の名前って何なんだ?
異世界という高揚感のせいでそういった一般常識を聞くのを忘れていた。
しかしながら今更ラースに聞いてしまったら絶対にえっ?、という顔をされるだろうから聞くに聞けない。
まぁ、ラースは国の代表、そして俺はその従者として来ているのだからどこかで国の名前を聞く場面があるだろう。その時に知ればいい。そしてこの失敗を活かしていこう。
樹は実にポジティブだった。
そして樹がわくわくしながらコンゴレアに近づいていき、のこり数分で着くであろうというときに事件が起きた。
ラースの前に男二人が急に現れたのである。ラースは急いで馬を止めて大事には至らなかったが男二人はなぜか後ろに吹っ飛んでいった。これはもしかして・・・。
「痛いなぁ!!どこ見て走ってるんだよ!!」
二人のうち大柄な方がそう言いながら立ち上がった。
「はて。私はあなたたちにぶつかった覚えはありませんが。それに急に目の前に出てきてその言いぶりは無いと思うのですが。」
「うるせぇ!!んなこと関係ねぇんだよ!!詫びにお前らの持ってるもん全部出しな。」
小柄な方がそう言って男二人はラースに持っていた小剣を向ける。いかにも小物といった様子だ。
これはあれか。当り屋というやつか。しかもしつこいタイプの。
しかし一体どこから現れたのだろう。樹も前を見ていたが何もないところから急に現れたようにしか見えなかった。
「全く。丁寧にミラージュで隠れておいて随分と雑な脅し方ですね。」
ラースはそう言いながら馬から降りて、樹の方を見る。
「あなたはそこで見ていてください。」
そう言ってラースは男たちの方に歩いて行く。
その堂々とした姿や鎧をまとった大きな身体を見てなのか男たちの手が震えている。
しかしそんなことも気にせずにラースはどんどん近づいていきそして
「ほら、どうしました。間合いですよ。」
小柄な男の剣があと一歩で当たるそんな距離まで近づいてラースはそう言った。
「うあぁ!!」
小柄な男はそう叫びながら剣を突き刺しに行く。
「やめろ!!先に手を出すな!!」
大柄な男はそう叫んだ。しかしそんな声が届くわけもなく剣はラースの胸元へと向かっていく。
ラースはその攻撃に対して少し身を引く程度で完全には躱そうとはせずに結果的には鎧と鎧の隙間へと剣がかするという結果となった。
「先に手を出したのはそちらですからね?」
ラースはそう言って男の手を取って関節をきめる。
「こうなったら関係ねぇ!!」
大柄な男はそう言ってラースに剣を振るう。
しかしラースはそれを最低限の動きで躱して先ほどと同じように片手で腕をきめて結果的に一瞬のうちにラースの両腕には男が痛みを訴えながら悶えているという状況になった。
「スリープ」
ラースがそう唱えると二人はぐったりとなりそのまま地面に倒れこんだ。
「まさかこんなに早くとは思いませんでした。小さな方をあなたの方に乗せてもらえますか?」
そう言ってラースは大柄な方を持ち上げて自分の馬に乗せる。
樹も何とかして小柄な方を自分の馬に乗せた。
「それではいきましょうか。」
ラースはそう言って馬を走らせる。
樹は控えめに言ってラースに惚れた。
11話を閲覧していただきありがとうございます。
作者です。
さてこれは本当は金曜に出ていたはずなのですが何故か反映されていませんでした。
まぁデータが消えていなかっただけマシです。
次回は早めの投稿が可能だと思います。
それではまた次回、お会い出来れば幸いです。