10話 出発と不安
コンゴレアに旅立つ当日。
樹はまだ日が出る前に最小限の荷物を持ってこそこそと部屋を出てラースの部屋へと向かう。
理由は分からないがラースから皆にバレないように来いと言われたからだ。何かやましいことでもあるのだろうか?
部屋に着いてこんこんとノックをするとラースが扉を開けて出迎える。ラースも準備は済ませたらしく身体は鎧で覆われている。
「それじゃあ行こうか。」
ラースはそう行って鎧が音を立てないようにこっそりと歩く。本当に大丈夫なのだろうか。もうパッと見小悪党にしか見えない。どうしてこんなにもこそこそとしなくてはいけないのかという質問をラースにするとこそこそとしながらラースは答えてくれた。
「実はね、君をコンゴレアに連れて行くということは皆には内緒にしているんだ。何しろ君は密偵。城にスパイがいたら作戦がバレてしまうからね。だからこうして周りが気づかないようにしているんだよ。」
なるほど、そういうことか。ならしょうがないという思いと共に秘密裏で連れていかれてそのまま死んでしまったらこれまた秘密裏にいなかったことにされそうだなと思った。
そんなマイナスな感情を持って暗くなっている樹のことなど気にせずラースはヒソヒソと歩いていきその後ろをとぼとぼと樹はついて行く。
そうしてたどり着いたのは城の裏。そこにフードを深く被った人物と馬二頭が待っていた。
ラースはそのうちの黒毛の馬に乗り、樹には芦毛の馬に乗るように命令する。だが樹は現世で貴族であったり動物とともに暮らすような生活をしていないため乗れないとラースに伝える。
しかしラースは大丈夫大丈夫と言い樹に乗るように勧める。
樹はラースの後ろに乗せてくれと懇願してもラースは頑張れと精神論を伝えてくる。本当に無理だと言うとラースは乗らなければいけない理由があると言ってきた。
「もしもコンゴレアから追われるとなった場合、馬が二頭いた方が安全だ。仮に一頭が押さえられたり調子が悪いときにもう一方の馬を使えるからね。」
そんなまともな理由があるなら早めに伝えて欲しかった。
ラースは合理主義のように見えるがこういったところがあるのでいまいち取っ付きにくい。フードの人物から手綱を受け取り樹はラースの手を借りて何とか馬に乗る。
暴れもしないしよく飼育された馬だな…って高っ!馬の背中高っ!高所恐怖症の人がたまに馬に乗るのも怖がったりしているがその理由がわかった気がする。
一方ラースはというと鎧を身にまとっているはずなのにいとも簡単に馬に乗る。しかしながら黒毛とラースのイメージがミスマッチしており少しの違和感を覚える。
「それでは行ってくる。後は頼む。」
ラースはそうフードの人物に言って城を囲っている壁めがけて馬を走らせる。
えっ?そこ何にもないよ?それともあれか、ペガサスかユニコーンか何かなのかあの馬は?仮にユニコーンならラースは清浄…って何キモイこと考えているんだ俺は!
そんなどうでもいいことを考えているうちにラースと馬はいよいよ壁にぶつかるという距離に至った。しかしながら羽が生えたり空中に浮かんだりはしない。そしてついにゼロ距離となって…。
スンッ。ラースの姿は壁の中に消えていった。
「えっ?どういうこと?」
樹は訳が分からなくなりフードの人物に聞く。
「あの壁は魔法によってこの馬とそれに乗っている人物がある一定のスピードを超えて壁に向かった時のみに壁を透過させるようになっています。」
フードの人物が会って初めて口を開き説明してくれた。
その声はとても可愛らしいものできっとそのフードの中も可愛らしいのだろうと妄想を膨らませる。
「さぁ、あなたも早く向かって下さい。」
そう言ってフード少女は馬の横腹を軽く足で蹴る。
すると馬はヒヒーンと鳴いて壁めがけて走り始めた。
「それと1つ注意を!透過する壁には範囲制限があるので場所を間違うとそのまま衝突してしまうので上手くコントロールして下さい。」
「そういうの早く言ってもらえる!?」
馬の操り方など知らなく、またこのスピードに慣れていない樹はただ手綱を強く握って壁へと向かう。
大丈夫だよな?信じていいんだよな?
そんなことを考えても馬は答えるわけもなくただ壁との距離が近づくのみ。
もうあれだ、神頼みだ。樹は目を閉じて自らの無事を祈りながら風を受ける。だかそんなことをしても不安は増えていくのみであり、
「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
樹は目を開けてついにゼロ距離となった壁に向かい絶叫しながら突っ込んで行った。
「お気を付けて。」
少女は小声でそうつぶやき呪文を唱える。すると少女の身体が光を放ちながらゴキゴキと痛みを連想させる音を鳴らしながらだんだんと大きくなっていく。少女も痛みに耐えきれずに声を洩らす。だが身体が大きくなるにつれてその声は太く、低くなっていく。そしてある程度のサイズになったところで光は止んで少女は膝に手をつきながらゼェゼェと息を吐く。
「それでは行きますか。」
少女がフードを取るとそこには声のような可愛らしい女の子の姿は無く、どこかで見たことがあるような男、樹の姿がそこにあった。
「あの人が死んだら私が姫さまの世話か…。キツイなぁ。」
機密を漏らさないためとはいえ樹が帰ってくるまで樹のふりをしなければならない。
「さすがに男湯は嫌だな。」
風呂くらいは自室のものを使おう。そう決めて少女は城へと向かった。
梅雨真っ盛りですね。作者です。ここまで書ければ後はどうにかなるだろうというところまで来たと思ってます。コンゴレア編の導入でここまで苦労するとは思いませんでした。まぁ次も本編の先っぽくらいにしか手を出せない気がします流れ的に。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
また次回読んでいただければ幸いです。
以上、猫アレルギーの作者からでした。