8 終わりの始まり
「時間です」
葵の前にどこからともなく浅葱が現れた。表情を作ろうと努力しているが、辛そうに見える。
何が辛いのか誰にもわからない。
「浅葱……そっか、そうだよね」
葵が何を言っているのか、十夜にはわからなかった。
しかし、葵は浅葱が現れた意味を理解し、それに従おうとしていた。
十夜にわかることはただ一つ。葵はそれを望んでいないということだった。
浅葱の出した手を葵が取ろうとした。
「葵! それでいいのか!?」
葵は振り返った。十夜の予想は当たっていた。葵は今まで見たことのない、悲痛の表情を浮かべていた。
拒否、そして絶望。悔やんでいるのがわかるが、葵はそれに反して浅葱の方へと向き直った。
浅葱は葵の手を取った。倒れ込む葵。葵が意識を失ったのがすぐにわかった。体重が全て浅葱にかかる。
葵は軽くはないが、浅葱は重さを感じないのか軽々と抱えていた。
行動を起こした浅葱本人はもう表情を作ろうとせず、ただ泣いていた。
「あなたが望んだことだ」
二人は消えた。十夜だけがその場で立ち尽くしていた。
「もうすぐ空が無くなるよ」
「神が眠りにつくから」
夢だと思える瞬間が欲しくて、何時だって迷ってた。
望んだのはあの人。叶えるのは僕。
あの人が望んだことだと、そう思えば救われると思ってた。
しかし真実は違っていて、みんな賛成したことだったのに。単調な世の中はいらない、そう思っていたのに。
唯一の誤算は彼らに出会ったことだ。偶然と呼ぶには重すぎる。そう、きっとこれは運命だ。
望んだのは僕ら。叶えるのは僕。
僕にはプログラムを止めることなどできない。