3 星見 夜宵(ほしみ やよい)
「夜宵、今日はよろしく」
同じ顔の少年、蛍はにっこり笑った。
この合同発表で出逢った同じ顔。隣にもう一人、同じ顔の人がいたことに特に驚かなかった。なんとなく、もう一人同じ顔の人が居る気がしていた。
「星見夜宵です。今日はよろしくお願いします」
「執行委員の神羽葵と、美形ランキング三位の創地十夜です。あ、歩の提案で名前で呼び合おうってことになったんだけど、それでいい?」
即答で頷いた。葵。声に出さずに口の中で呟いた。葵。耳から離れなかった。同じ顔であることが関係しているような気がする。
鎖骨が、ジクジクと痛んだ。蛍も同じ箇所を手で押さえている。もしかして、同じように痛んでいるのかな。
当の葵は隣の十夜と金平糖を見て笑っていた。金平糖の配布は僕と蛍のアイディアだった。星にはやっぱり金平糖だよね。
「では、時間になりましたので始めましょう。まずは私から読みますね」
浅葱の代役で参加した歩は、初めから部員だったと思えるほど自然に溶け込んでいた。浅葱が入院してから、浅葱の幼馴染みとして代役で紹介された歩はどこかで逢った気がして。
でも、重なる顔はなかった。一度逢ったら忘れないくらい、歩は印象に残る雰囲気を持っていた。
出口の近くにいた僕が蛍光灯のスイッチを押して、同時に蛍がプラネタリウムの電源を入れた。
黒い布をかぶせた空に硝子の欠片を散りばめたような星。一つ一つが意思を持っているかのように感じた。準備スペースの外で歩は解説を始めた。
「まず始めに、春の星空で目立つ『北斗七星』からご紹介します」
「闇はよく嫌われるけど、闇がなければ光は映えないよな」
十夜は腕を組んで壁に凭れ掛かっていた。並べられた椅子に空きはなく、葵と十夜は準備スペースの出口で見ている。十夜の呟きは歩の声に消え、近くにいる僕たちにしか聞こえなかった。
「広い闇の中で無数に散りばめられた発光体……自然の芸術だね」
葵は擬似星空に手を伸ばした。
その手は必ず星空に届く。僕も準備のときに何度か暗幕に浮かび上がった星に触れた。本当の星には手が届かないから、暗幕の星でも良いから触れたかった。
「星はさ、誰かの夢かもしれないね。流れ星ってその夢が叶うから流れるのかも」
葵の囁きに頷き、強く輝く北斗七星を見た。北斗七星は別名『柄杓星』という。七つ星を繋ぐと柄杓のように見えるからだ。
星の泉の中にある柄杓。それは夢を掬っているようで不思議な感じがした。
「夢、か。うん、そうかもしれない。夢だからこんなに綺麗で力強い光なんだ」
蛍は微笑んだ。闇の中で蛍の瞳は星に負けないくらい強く、輝いていた。暗闇の中でもわかる瞳。それは記憶が作り出した幻だったけど、現実と寸分も違わないだろう。間違えるはずがない色だった。
なんで、そんな確信があるんだろう。
「星は夢であって、さらに誰かの運命なのかもしれないね」
葵の声に聞こえたけど、葵は口を動かしていなかった。視線は星空に向いている。
誰が言ったかわからない言葉。それが、強く、深く、痛みを伴って頭に残った。
パチンと、聞き慣れた音が聞こえた気がした。