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cooooooooool!!!!~変態どもに囲まれた俺の心霊体験聞く?~  作者: アホ太郎
第一夜 【エレベーターが止まった】
6/19

大量の闇

「勝ったのはいいけど、どうすんだ、これ。どんどん上行っちゃってるけど……」



 勝利の熱は冷め、俺は階のランプ表示を見て顔をしかめる。

 百階はとうに超えた。このままだと大気圏突破しちゃうかもしれない。



「さっきのやつも何なんですか? まるでゾンビみたいでしたけど……」


「悪霊なのです」



 桜の疑問を、愛実が答えた。勝二と桜はチラリとおっさん幽霊を見る。



『わしは悪霊じゃねえ! 浮遊霊だからね! か、勘違いしないでよね!』


「あの悪霊、同じ幽霊のよしみで何とかできなかったんですか?」


『嬢ちゃんよぉ、無茶言うんじゃねえよ。浮遊霊と悪霊なんて、ゴリラとゴジラぐらい違うものだ。それに実はおじさん、さっきのゾンビ、無茶苦茶怖かったんだからね。生身ならおしっこちびっちゃってたからね』



 青白い顔で言うおっさん幽霊。誰もが思った。――まったく使えない、と。


 その間にもどんどん上がっていくエレベーター。もう四百階まで来てしまっていた。いくらなんでも建物の域を超えてるだろ。バベルの塔かよ。


 とそこで、桜が何かを思い出したように、「あっ」と声を出した。



「思い出しました。このデパート、昔火災事故があったらしいですよ。そこで大勢死んだとか……。おそらくさっきの悪霊、そのときの事故で死んだ人なのでは……?」


「確かにさっきのやつ、真っ黒に焦げてたな……」


「じゃあ、さっきの悪霊が他にもいるのですか?」



 愛実が不安げな声を出す。勝二は安心させようと、優しく頭を撫でた。



「大丈夫だよ、どんなロリコンが来ても塩で撃退すればいいんだ。それに、塩はまだたくさんあるから安心して」



 このために塩を大量購入したわけではないが、背に腹は代えられない。

 鞄の中いっぱいの塩を見せると、愛実ちゃんは少し安堵したのか、頬を緩めた。



「そうですよね! どんな変態が来ても、塩をかけてボコボコにすれば大丈夫ですよね!」



 桜も不安を拭うかのように大きな声で元気よく頷いた。



「ああ、もちろんさ! この世の変態全て、塩で駆逐してやる! 一匹残らずな!」



 勝二の頼もしい言葉に、桜、愛実が頷いた。

 彼はさっきの勝利で活気づいていた。今なら空を飛んで女子更衣室までパンツを盗みに行けるような気さえした。


 そして、エレベーターは止まる。


 ――四百四十四階。


 ゆっくりと、扉が開かれる。



「こい、変態ども! 俺が相手してやる!」



 勝二は意気込み、塩を手に持つ。


 開かれたドア――その先には、肉が焦げた血まみれの悪霊たちが、《部屋一面にひしめき合っていた》。



「……」



 勝二は沈黙する。



「……な、なんだか長い夢をみていた気がするんだけど……なんだっけ……思い出せないや……」


「ちょっとおおおぉぉぉ! 現実に戻ってきて下さいよおおおぉぉぉ!」



 とてもじゃないが、塩だけで撃退できる数ではなかった。

 勝二は現実から逃げた。


 やつらは勝二たちを見るや、まるでおいしそうな子羊たち見つけた狼のように、一斉に襲いかかってきた。



「ぎゃあああぁぁぁ! くるなあああぁぁぁ! 調子に乗ってすいませんでしたあああぁぁぁ!」



 発狂しながら手に持った塩を辺り構わず投げまくる。が、あまりの数に投げても投げても湧いて出てきた。

 桜と愛実も借金取りにきたヤクザを追い出すかのよう、狂ったように投げまくるが、塩の量より悪霊の数の方が勝っていた。


 数秒もしないうちに塩が底をついた。



「ぎゃあああぁぁぁ! くるうううぅぅぅ! みんなあああぁぁぁ、エレベーターにしがみつけえええぇぇぇ! ここから出たら死ぬぞおおおぉぉぉ!」



 猛突進してくる悪霊たち。勝二の叫び声で、皆がエレベーターの取手部分にしがみつく。


 勝二は身構える――はずが、なぜかやつらは彼を集団で無視し、桜と愛実の方へ群がっていった。



「ちょっとおおおぉぉぉ! なんでまた俺は無視されてるの!? 新手のいじめ!? これいじめなの!?」



 勝二を盾にし、秘かに隠れていた幽霊のおっさんが、嫌悪感のある顔で言い放つ。



『坊主はよぉ、塩臭くて、気持ち悪くて、気分わりぃんだ。死ねって思うぐらい』


「それただの悪口だよね!?」


『まぁ、あれだ。塩の臭いが染み付いて近づきたくねえんだろ』



 襲われないのは嬉しいけど、なんだか心が痛い!


 そうこうしているうちに、桜と愛実が沢山の手に掴まれて、ひっぱられていく。二人は車椅子用の取手に必死になってしがみついているが、集団の力に成す術もなく、エレベーターの外へと引きずり込まれていく。



「う、うぅ……」


「もう……だめだわ……!」



 二人の手が取手から離れた。


 その瞬間、大量の手が二人を覆い尽くし、勢いよく外に吸い寄せられていった。



「ふんぬっ!」



 勝二は咄嗟に二人の腕をそれぞれ両手で掴む。そして、大股になってエレベーターから出ないよう踏ん張った。


 ――何十人という悪霊と勝二との、仁義なき戦いが始まった。


 だが、たとえ俺がアフリカでトラと格闘する狩猟民族であろうと、勝てる試合ではなかった。

 まるで掃除機に吸い込まれるゴキブリのように、もの凄い力が勝二を襲う。足があられもない方向に開脚していく。



「いだいいだいいだいいだいぃぃぃ!」



 おそらく彼は今、人に見せてはいけない姿をこの場にいる全員に晒しているだろう。

 あまりの痛さで目ん玉をひんむかせ、踏まれたカエルのように舌を突き出し、足がありえない方向に曲がっている。化け物そのものだった。


 それでも、手を離すわけにはいかなかった。



「私のことはいいです! ポケットの中に予備の塩を入れているんです! だから、愛実ちゃんを助けて下さい!」



 桜が心痛な声で叫び、愛実を助けようと必死になる。



「わたしは今まで、たくさんの悪霊をみてきたのです! だから、悪霊にのみこまれたとしても対処方法を知っているのです。わたしは自分でどうにかできるので、はやくお姉さんを助けるのです!」



 愛実ちゃんが泣きそうな顔で桜の心配をする。


 はいそうですか、と手を離すわけにはいかない。なぜなら、二人の手は震えていた。恐怖が伝わってきていた。彼女たちは二人とも、嘘が下手だった。



「どっちも離してたまるかあああぁぁぁ!」



 勝二は二人の手を今以上に力強く掴み、涙と鼻水を流しながら真っ赤な顔で叫ぶ。

 ちぎれそうな腕に力を込め、ブルブル震えながら耐えて耐えて耐えまくる。我が身を犠牲にしても、この手を離す気はなかった。


 ――そう、たとえ今の自分の姿が《醜態そのものだとしても》だ。


 なかなか手を離そうとしない勝二に痺れを切らしたのか、桜が苛立たせた声を張り上げる。



「あなたバカなんですか!? 私たち、今日一緒にエレベーター乗っただけの《他人》なんですよ!? 他人のことなんか放っておいて、小さい子供を助けて下さい! このままじゃ、三人とも引きずり込まれてしまうわ!」



 なぜかバカと罵られたことよりも、自分を犠牲にしようとしていることよりも、《他人》と言われたことに凄く腹が立った。勝二の眉がピクリと揺れる。



「《他人》……だと?」


「へっ?」


「一緒にエレベーターに乗って、一緒に閉じ込められて、一緒に自己紹介して、一緒にアニソン歌って、一緒にロリコンを撃退して、それで他人……だと? ふざけるな!」


「えぇ!? 怒るとこそこですか!?」


「俺はもう怒ったね! 急に背後から育毛剤ぶっかけられたハゲの親父ぐらい怒ったね!」


「マジギレじゃないですか!」



 勝二はキレた。そりゃもうキレた。なぜキレたのかわからないぐらいキレた。


 二人の手を力の限りひっぱる。足は体操選手顔負け――いや、人を超越した角度で曲がり、あまりの痛さで涙と鼻水と脂汗が大量に流れ、表情は妖怪のように奇怪で醜く、喉から絞り出したような奇声を響かせた。



「きええええええええええぇぇぇ! この手は絶対に離さないぞおおおおおおぉぉぉ! 俺は諦めない! 絶対に全員を救ってみせる! なんたって俺は、お前たちの《友達第一号》だからなああああああああぁぁぁ!」


「あ、あなた……」


「お兄さん……」



 二人は息をのんだ。


 勝二の限界はとうに超えた。二人を掴む手の感覚がなくなり、激痛が走っていた足が麻痺し、痛いのか気持ちいいのかわからなくなってきた。変態ではない。

 それでも諦めず頑張る勝二に対し、誰かが後ろから声をかけた。



『もういい、坊主』



 幽霊のおっさんだった。

 おっさんは勝二をすり抜け、エレベーターの外に出る。



『わりぃな。こいつらはわしのせいなんだ。なかなか成仏せずに浮遊霊やってるバカな獲物を捕らえようと、湧いて出てきやがった』


「お、おっさん、なにを……!?」



 おっさんは勝二の目をまっすぐ見て、覚悟を決めた顔でフッと笑う。



『死んだかみさんとの約束を守るためにずっとここで待ってたが、もうとっくに成仏してるだろうなあ。頭ではわかってたんだが、一目だめでも会いたくてなぁ。ほんと、女々しいったらありゃしねえよ』



 おっさんは薄ハゲの頭をガシガシと搔き、勝二に背を向けた。



『世話になったな。最後に生きてる者との会話ができて、楽しかったぜ』



 勝二は理解した。このおっさん、身代わりになる気だ!



「ま、待ってくれ! 行っちゃダメだ、おっさん!」



 おっさんは声を無視し、悪霊の中へと一歩踏み出した。

 勝二は何とかしようと思考を巡らせるが、手が塞がって動けない。



「行っちゃだめなのです!」


「おじさん……!」



 愛実も桜も引き止めようと声を張り上げるが、おっさんは聞く耳を持たず、ずんずんと闇の中へ進んでいく。



「お、おっさん!」



 勝二が声を張り上げたそのとき――



「……っ!」



 突然の光が勝二たちを襲った。


 目を開けてあられないほどの眩しい光の中、どこからか、澄んだ女性の声が聞こえてきた。



『まったく、そのお人好しな性格は死んでも変わりませんね』


『……っ!』



 おっさんが言葉にならない声を上げる。その女性はどこか嬉しそうな、それでいて悲しそうな声で、



『自殺した私を迎えに、病死してから何年も待っていたのでしょう? 本当にあなたは、とんだストーカー野郎ですね。その執拗な性格、布団の中で発揮してくれたらよかったのに……』



 え、まって。なんか感動的な雰囲気醸し出してたよね? なんで急に下ネタになってんの!?



『わ、わりぃな、かみさん。わし、早濡でよぉ……げへへ』



 なにお前もちゃっかり答えてんだよ!


 光にも慣れ、勝二はゆっくりと目を開ける。

 泣きそうな表情のおっさんと、顔はぼやけているが、優しい雰囲気の女性が立っていた。


 やがて二人は手を取り合い、光の中へ消えていく。二人とも仲睦まじく、そして、笑っていた。

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