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ヒューマン・ビーング  作者: マーブ
34/35

心のふるさと

第44章



 「今のは何だ!」


 「ジョニーの声か?」


 敵母星に向け、超長距離ワープ中のジェリーが、微かな声を聞き取った。


 「コンピュータ、今、何か聞こえたか?」


 こんな所で、ジョニーの声が聞こえるはずがない、と思いながらも、たずねた。


 「ジョニーさん達が、乗っている船からの識別信号が、消えました」


 このコンピュータの答え方に、ジェリーは悪い予感がした。 


 「識別信号が消えた。どういう意味だ!」


 ジェリーは悪い予感が、当たらないよう願いながら、聞いた。


 「ジョニーさんの、微弱なテレパシーを受信しました。その後、ジョニーさん達の船が出していた、識別信号が消えました。船が破壊されたようです」


 ジェリーは驚きのあまり、愕然とした。


 しばらくして、

 「彼らがやられたと言うのか! ええ、コンピュータ!」


 「はい、残念ながらそのようです。未知の、破滅的なエネルギーも、同時に感知しました」


 そして、ジェリーは恐る恐る、聞いた。


 「地球はどうなった?」


 「消滅した模様です」


 これを聞いたジェリーは、


 「何だと! 消滅!」


 そしてジェリーは、体中の力が抜けてしまった。


 地球に残してきた母、ジョニー達、それに心のよりどころである、地球が消えてしまったからだ。


 ジェリーの頭には、何も浮かんでこなかった。

 放心状態のまま、超長距離ワープは続いた。


 ジェリーは深い、哀しみに包まれた。

 今の、彼の頭にあったのは、母親の、姿だけだった。


 哀しみが溢れだして、涙がこぼれた。

 突然の母親の死、あまりにも離れ過ぎていて、現実とは思うことが出来なかった。


 ただ、母親と暮らしていた、日々を思い出していた。 

 愛おしい気持ちが抑えられなくて、声を出して泣いた。


 そしてその哀しみは、次第に母親を殺した、宇宙人への憎しみに、変わろうとしていた。


 死んでしまった者は、二度と帰ってこない。

 もう、会うことは出来ない。


 憎しみの気持ちが、ジェリーを大きく支配していった。


 敵宇宙人を、皆殺しにしてやろう。

 たとえ、自分が死ぬことになっても、道連れにしてやる。


 ただ、同時に憎しみにまかせて、敵を皆殺しにして、何になろうかと言う、気持ちもあった。


 敵を殺しても、もう、母親は帰ってこない。

 そして、自分が戻るべき、地球もない。


 ジェリーは、この2つの気持ちの中で、苦しんだ。


 帰る家もなくなってしまった。

 だが、憎しみの気持ちが、ジェリーを突き動かした。


 もう、自分はどうなってもいい。

 たとえ、死んでもいいが、地球を破壊した者を、このまま見過ごすことは、決して、出来ない。


 滅ぼしてやる。


 ジェリーの心は、もう、憎しみの気持ち以外、何もなかった。

 止まらない涙を拭いながら、復讐してやると、自分に強く誓った。






第45章



 「コンピュータ、敵母星まで後どれくらいだ」


 「まもなく、到着いたします」


 コンピュータの返事を聞きながら、この13日間、哀しみと憎しみに苦しんだ日々を、思い出していた。


 この320万光年をジェリーは、憎しみと哀しみだけで旅してきた。


 地球があった銀河系は、遥か彼方にあって見えない。

 もし、見えたとしても、そこにはもう、地球はない。 


 ここまで遠く離れると、母親はもちろん、地球さえ懐かしく思える。


 ただ、ジェリーが知っていた地球は、もう存在していない。憎き宇宙人に、破壊されたからだ。


 その時、

 「ジェリーさん、ジェリーさん、聞こえますか」


 憎しみでいっぱいの、ジェリーの心に、ささやく者がいた。


 「ジェリーさん、私の声を聞いて下さい」


 「私はズーラ」


 ズーラと聞こえたので、ジェリーは我に帰った。


 「あなたは?」

 ジェリーは言った。


 「そうです。あの時のズーラです。ジェリーさん」


 ジェリーは一度だけズーラと会話、いやテレパシーで話をしたことがある。ISSから一人、脱出し、ニュージーランドの湖に不時着した時だった。

 この会話も、もちろんテレパシーでの会話だ。


 「破壊された地球を・・・・・・・」

 ズーラの言葉が、途中で途切れた。


 しかし、すぐに話だした。

 「あなたの知っていた地球を、取り戻す方法が一つだけあります」


 これを聞くとジェリーの憎しみが、一瞬、消えた。


 「本当ですか?」


 絶望に満ちていたジェリーの心に、わずかな希望がわいた。


 「しかし・・・・・・・」


 「しかし、地球を元通りにしても、全てが元通りになる可能性は少ないです」


 ズーラの声が少し、沈んでいるようにも聞こえた。


 「元通りにならない? それは、どういう意味ですか?」


 ジェリーは不安になった。


 「過去を変えることに、なるからです」


 ズーラの返答に、 

 「過去を変える?」


 ジェリーはそんなことが、出来るのかと思ったが、自分も一度、過去を変えている。この船を直すため、過去にタイムワープした事を、思い出していた。


 「あなたが行ったタイムワープは、ごく限られた時空間でのことです」


 そうズーラが言うと、

 「あの閉ざされた空間のことですか?」


 ジェリーが言うとズーラは、

 「そうではありません。純粋なタイムトラベルです。あの空間でのタイムワープでは、この世界には影響は及びません。あなたには多少の変化が、ありましたが」


 自分が歳をとったことかと、ジェリーは思った。


 「10秒後にワープアウトします。9・8・7・6・5」

 コンピュータが、ワープアウトのカウントダウンを始めた。


 もうすぐ、敵母星だ。


 「ジェリー、お願いです。今、あの惑星を攻撃しないで下さい!」


 ズーラの思いがけない言葉に、ジェリーは驚いた。


 そして、 

 「なぜですか? あの星は地球を破壊したのですよ!」


 ジェリーは大声で言った。


 「あの惑星に住む住人を皆殺しにしても、地球は帰ってこないですよ」


 ズーラの声がしだいに、小さくなっていった。


 「でも、あの星が!」


 もう、ジェリーの叫びは、ズーラに届かなかった。


 最後にとても小さな声で、


 「私はズーラ、あの惑星の住人です。今は」


 あまりにも小さな声だったので、ジェリーは錯覚かと、いや、錯覚だと思いたかった。


 今まで、味方してくれたズーラが、あの憎き星の住人であると思いたくなかったからだ。


 ジェリーは混乱した。


 ズーラはこの、古代宇宙船の存在をジョニーに知らせ、地球を侵略して来た宇宙人と対等に、いや、対等以上に戦うことが出来た。この古代宇宙船がなければ、地球はとっくに、侵略者の所有物になっていただろう。


 だが、今や侵略者の母星を攻撃するところまできた。

 後、少しだ。


 でも、あのズーラが敵だったとは、とても信じられない。


 しかし、今や地球は破壊され、帰る場所もない。愛おしい母親も失った。そして何もかも、全てを、失ってしまった。ジェリーは、あまりの孤独と寂しさに、耐えかねて再び、大声で泣いた。


 涙が溢れ出て、止まらない。

 今までいた、母親がいなくなり、友人達もいなくなった。永久にだ。もう、会うことは二度と出来ない。母親や友人たちの顔を、思い浮かべると、涙が止まらない。


 憎しみのあまり、自分も死ぬ覚悟で、あの星を破壊したかった。ただ、破壊したとしても、母親や友人、地球は戻ってこない。


 それが哀しかった。


 「ワープアウトします」


 と言ったコンピュータに、ジェリーは、


 「待ってくれ、ワープアウトしないでくれ!」


 ジェリーは、お願いするように、コンピュータに言った。


 コンピュータは、ジェリーの気持ちを察したのか、そのままワープを続けた。


 ジェリーの頭の中では、二つの違った思いがあった。


 一つは、地球を破壊されたという、憎しみの気持ちのまま、敵の星を破壊する。たとえ、敵にやられたとしても、どの道、自分の帰る地球は、もう存在しない。この宇宙で人間は、自分一人だけになってしまった。


 この船ごと、敵の星に突っ込んで自爆しても、いいという思いと、ズーラが本当に敵宇宙人であるなら、あの星の住人全てが、地球を破壊した悪人ではあるまい。そんな住人ごと、皆殺しには出来ない。例え、皆殺しにしたとしても、もう、地球は帰ってこない。


 この2つの矛盾する考えが、ジェリーを苦しめた。 


 ジョニーは焦点の定まらない目を下に向けた。


 そして、こんなことまでコンピュータに、聞くわけにはいかないと、自分を笑った。


 こんなジョニーだったが、たった一つ、希望があった。ズーラが、地球を取り戻す方法が、あると言ったからだ。 だが、ズーラの声は今は、もう聞こえない。


 「過去を変えることになるからです」

 この言葉が耳から、離れない。


 ジェリーに残された、一筋の希望だからだ。


 しかし、一体、どういうことなのか、ジェリー自身も過去を変えるのは、良くないと思っていた。それは未来をも、変えることになるからだ。


 だが、地球が元に戻るなら、そして、もし愛しい人達が戻ってくるなら、たとえ、宇宙の法則さえ、ねじ曲げようとも、いいと思った。


 しかし、今、話相手はもう、コンピュータしかいない。ズーラの声は聞こえない。


 ジェリーはコンピュータにたずねた。

 「コンピュータ、ズーラの声は聞こえたか?」


 「テレパシーですね。聞こえていましたよ」


 これを聞いてジェリーは少しだけ驚いた。


 そう言えば、ジョニーの最後の叫びも聞いていた。


 テレパシーは機械にも聞こえるのかと、


 「ジェリーさん、私が作られた時代ではテレパシーは、通信の一手段でした」


 すると、地球を元に戻すことも、聞いていたはずだ。


 「聞いていましたよ。過去を変えることになりますが・・・・・・・」

 コンピュータも、ズーラと同じことを言った。


 「そんな方法が本当にあるのか!」


 「あります」


 コンピュータは、あっさりと答えた。


 そして、

 「過去に戻って、あの星を破壊するのです」

 と言った。


 「破壊するのか、そうなのか?」


 ジェリーは、コンピュータの言ったことを、声に出して繰り返し、言った。

 しかし、ズーラは攻撃しないでと言っていた。


 それに多分、あの星の住人全てが、悪人ではない。ズーラ自身があの星の住人だから、この考えは、間違っていないだろう。


 地球と同じだ。

 悪い人がいれば、良い人もいる。


 しかし、コンピュータは破壊するとはっきり言った。


 どちらが正しいのか、するとコンピュータが、

 「あなたの思いは、どちらも正しいのです」


 しかし、明らかに矛盾している。


 「どう言う意味だ!」


 ジェリーにはコンピューターの言ったことが、理解出来なかった。


 そして、コンピュータは言った。

 「破壊する時間が、違うのです。それにあの星の住人全てが、悪人ではありません」


 さらに続けた。

 「大事なのは今、破壊するのではなく、地球を消し去る前の時間に、破壊するのです。怒りにまかせて今、あの星を破壊すれば、二度と地球は戻りません」


 コンピュータは、ジェリーが願う最善策を言った。


 「時間か、時間」


 ジェリーは確かめた。


 「そうです。時間です。過去に戻るのです」


 閉ざされた空間で、行ったタイムワープと、同じだろうとジェリーは覚悟した。

 なぜなら、今度、タイムワープすると、ジェリーは歳を取り過ぎて、死んでしまうかも、しれないからだ。


 自分が死んだら、敵母星を攻撃するのは、コンピュータにまかそうと考えた。


 「ジェリーさん、心配いらないですよ。あの閉ざされた空間には行きません。時間だけをさかのぼるだけです。だからあなたは歳をとりません。今のままです。死ぬこともありません」


 ジェリーの思考は、コンピュータに読まれていた。


 それは当然の事だった。彼の無意識下までも、NRSシステム、神経受信システムでコンピュータに、情報として送られているからだ。それにこのコンピュータはテレパシーを受信出来る。


 ジェリーは、コンピュータが歳をとらないと言って、安心した。そして、この船はタイムトラベルも、出来るのかと驚いていた。


 「ただ、ジェリーさんの記憶は一時的になくなってしまいます」


 「なんだと!」


 敵母星を、破壊することも忘れてしまったら、時間をさかのぼった意味がないと、ジェリーは思った。


 だが、コンピュータは続けた。


 「タイムトラベルする過程で、あなたは次元の衝撃波を受けます。そのために、あなたの記憶は一時的になくなってしまいます。でも、心配しないで下さい。私が、あなたに必要な、記憶を戻します」


 ジョニーはコンピュータが変な、言い方をするなと思った。


 必要な記憶、今までの記憶が、全てなくなってしまうのか、だが、それでもいい。地球が救えるならと、自分に言い聞かせた。


 ただ、自分を助けてくれたズーラも、殺してしまうのには大きな抵抗があった。それに、あの星には地球を破壊してしまった悪人だけではなく、ズーラのように心優しい者もいるだろう。


 まとめて、殺してしまうには大きな、心残りがあった。

 コンピュータもこの点には、触れなかった。


 しかし、ジェリーは言った。

 「コンピュータ、地球が破壊される前まで、時間を戻ってくれ!」


 ジェリーは決心した。


 「タイムトラベルは日にち単位まで、正確に戻れません。誤差があるので、地球が破壊される、数カ月前まで戻ります。それでいいですね」


 そうか、簡単に、戻れるわけではないのだと、ジェリーは思った。


 「時間の設定はコンピュータ、お前にまかせる。やってくれ」


 ジェリーが言うと、ワープ速度が急激に上がった。

 そしてジェリーは、気を失った。





第46章



 とても、とても長い夢を、見たなと思いながら、ジェリーは両腕を上げて、大きなあくびをした。


 しかし、目を開けて回りを見ると、いつもの自分の部屋ではなかった。それに何か、液体の中につかっている。


 驚いてジェリーは慌ててもがいた。


 すると、

 「ジェリーさん、大丈夫です。今、記憶を戻します」


 頭の中で声が聞こえた。


 聞いたことがない声だ。

 そしてジェリーは気を失った。


 再び目を覚ました時、ジェリーは今までの記憶を、取り戻していた。


 それは、とても悲しい、記憶だった。

 そしてその記憶は、激しい憎しみへと変わった。


 目の前には、敵の星があった。


 地球とよく似ている。


 海が見える。


 陸も見えた。


 コンピュータは言った。

 「ジェリーさん、赤いボタンを押して下さい。それで全てが終わります」


 そしてジェリーは何のためらいもなく、赤く点滅する発射ボタンを押した。


 「コンピュータ、あの星を、破壊してくれ!」


 ジェリーは、自分が押したボタンを見ながら、ズーラのことを思った。


 「許してくれ、地球のためだ」

 仕方がなかった。


 これでよかったのだと、自分に強く言い聞かせた。


 第2の古代宇宙船の先端から、カプセルが亜高速で発射された。その中には敵の星を滅ぼすには、十分過ぎる程の反物質が入っていた。


 そして何の抵抗も受けることなく、カプセルは命中した。


 すると、眩しいほどの光を放ちながら、その光は星全体に広がっていった。


 ほんの数秒ほどで、敵の星は太陽のように輝き始めた。

 目の前の星は、光輝く太陽になった。


 敵の星が、崩壊して行くのを、見てジェリーは言った。

 「地球に帰ろう。コンピューター。ズーラさん、すまない」

 と、


 簡単に、敵を滅ぼすことが出来た。


 皆殺しは、あまりにも簡単過ぎた。

 反撃は全くなかった。


 そして第2の古代宇宙船は、ワープに入った。


 「コンピュータ、今は何日だ」


 コンピュータからすぐには返事はなかった。

 ジェリーはもう一度、言った。


 「コンピュータ、今日はいつだ」


 しかし、コンピュータからの返事はなかった。


 おかしいなと思いながら、

 「コンピュータ、聞こえるか、今日は何日だ!」


 ジェリーは声に出して言ったが、コンピュータからの応答はなかった。


 ジェリーは前にあるディスプレイを見たが、正常に機能しているようだ。まさか、さっきの攻撃でコンピュータが壊れたのかと、思い始めた。


 そして、

 「コンピュータ、返事しろ!」

 大きく怒鳴ったが、返事はなかった。


 大変だと思いながら、ジェリーは、ディスプレイをもう一度、確認した。すると、地球まで13日までと、カウントダウンが続いている。それを確認すると、ジェリーは安心したが、コンピュータなしで無事、地球に戻れるのかと不安になった。 


 しかし、マニュアルでの操縦は、この船に乗った時、コンピュータから教えられている。ジェリーはオートから、マニュアルにするボタンを押した。すると、後ろからプシューと音が鳴り、浸かっていたb・p・s溶液が流れ出した。


 b・p・sが完全になくなるとジェリーは大きく咳き込んだ。


 鼻と口から、肺に入っていたb・p.s溶液が流れ出た。

 何度も何度もジェリーは咳き込んで、溶液を体の中から吐き出した。


 そして久しぶりに、大きく口を開けて、空気を胸いっぱいに、吸い込んだ。


 戦いは終わった。


 今はいつかわからないが、地球はきっともとの姿をしているだろう。早く地球に戻って自分の家、そして愛おしい母親に、会いたいと心から願った。


 第2の古代宇宙船は、超長距離ワープを続けていた。


 ところが、突然、宇宙船は先端部分からすーと消えてしまった。

 何が起こったのだろうか、全く分からない。

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