化身
第40章
ワームホールから出ると同時に、ワープした。
「コンピュータ、どうなった!」
ジェリーが聞くと、
「成功しました。敵のビームが直撃する前に、ワープに入りました。船には損傷はありません」
コンピュータの返事を聞くと、ジェリーはひとまず、安心した。
しかし、何かがおかしい。
「体がすごく重い」
ジェリーは体の異変に気付いた。
そして自分の手を見て驚いた。
「何だこれは!」
両手が少し黒ずんで、走っている血管が浮き出ている。まるで、老人の手のようだ。それにやたらと体が重い。しかも腰のあたりが、ひどく痛い。
「どうなったんだ!」
ジェリーは今までにない、体の不調を感じた。
するとコンピュータが、驚くべき事を言った。
「あなたは今回のタイムワープで、生物的に15年分、年をとりました」
コンピュータの回答に、ジェリーは、
「何だと!」
感情を抑えることは、出来なかった。
タイムワープにこんな副作用が、あるとはジェリーは全く知らなかった。
「何年も過去に戻ってないぞ、ほんの瞬間、過去に戻っただけだぞ!」
「そうです。タイムワープはジェリーさんのような生物にとっては、大きな代償を払うことになるのです」
そしてリシオの言っていた、余命を使うという意味が今、はっきり理解出来た。
時間を征服することなど、出来ないようになっていると、その時ジェリーは悟った。時間を支配する者は、全てを支配する者であると恐れていたが、それはとんでもない間違いであると思った。
時間をもてあそぶ者には、それに応じた代価を支払わなければならないのだ。
ジェリーは55歳から、70歳になってしまった。体が重く感じるのも、腰が痛いのも、老人になってしまったからだ。しかし、そんな状態のジェリーだったが、決して、落胆することはなかった。
「コンピュータ、ジョニー達が今どこにいるか、分かるか」
「ジョニーさん達の位置は分かります」
「どこだ。まだ、生きているのか、無事なのか?」
「大丈夫です。距離にして15万光年で現在、最大速度でワープ中です」
ジョニー達が無事と聞いて、ジェリーはひと安心した。
「どこへ向かってワープしている?」
「こちらに向かっています。3時間程で到着します」
コンピュータは答えた。
これを聞くとジェリーは、彼らと合流することにした。
ジョニー達は多分、自分が死んだと思っているだろう。そして、絶望的な気持ちになっているに違いないと、思った。それに、この船を破壊したあの謎の兵器、なんの前ぶれもなく突然、攻撃された。
恐るべき兵器だ。
この船のシールドでさえも、無力だった。
あの兵器でまた、攻撃されたら、今度はあの空間に逃げられたとしても、もうタイムワープは出来ない。ジェリー自身の寿命が尽きるからだ。
「コンピュータ、答えてくれ、あの敵に勝つ方法はないのか!」
ジェリーはコンピュータに、救いを求めた。
「あります」
コンピュータが答えると、ディスプレイに小さな赤い点滅が次々とつき始めた。
「あなたとの結合を、より深くする必要があります。まず、ヘルメットを脱いで下さい」
ジェニーはコンピューターの言った通りに、ヘルメットを脱いだ。
「それでは始めます」
とコンピュータが言うと、赤い点滅がディスプレイを横切るレーザー光線ように、ジェリーの目の前で広がっていった。
そして、
「目の前にある赤い線の、どこでもいいですから、右手の指で触れて下さい」
ジェリーは右手の人差し指で赤い線の一部に触れた。
すると、触れた部分を中心にして、赤くなっていた線が、緑色に変わった。そしてまるで緑色になった所が、緑色をしたレンガのような形になり、次々と順番に、奥へと引っ込んでいった。それと同時に、薄肌色の液体が引っ込んだ所から流れ出てきた。
ジェリーは驚いていたが、その液体は際限なく、流れ込んで来た。
やがて、その液体がジェリーの腰に達した時、
「こ、これはなんだ!」
ジェリーは悲鳴を上げた。
「ジェリーさん、落ち着いて下さい。この液体はあなたを守るためのものです。このコックピット全体に液体が満たされますが、心配しないで下さい。呼吸は、今よりずっと楽になります。気持ちを落ち着けて、ゆっくりとその液体を吸って下さい」
さらにコンピュータは、
「これは第一段階です。我慢して、私の言う通りにして下さい」
ジェリーはこのコンピュータの声を聞くと、落ち着きを取り戻そうとした。
そして静かに目を閉じた。
液体が口元を過ぎても、微動だにしなかった。そしてついに、コックピットが液体で満たされると、ジェリーはゆっくりと、液体を呼吸をするように鼻で吸い込んだ。
しかし、さすがにこれには大きな抵抗があった。水中で溺れるのと同じだからだ。液 体を吸い込んだショックで、ジェリーの体は自然と拒否反応を起こし、コックピット内で暴れてしまった。しかし次の瞬間、呼吸が出来ることを知ると、体中に入っていた力を抜くことが出来た。
これはジョニー達のやったことと、同じであった。b・p・sによって、パイロットの体を、あらゆる衝撃から守るのだ。
次に頭上から何かが降りてきて、一瞬にしてジェリーの頭にアンテナのようなもを取り付けた。
ジェリーもジョニー達と同じように、
「痛た」
と言った。
これで、ジェリーはヘルメットをかぶる必要は、なくなった。このアンテナを通して、コンピュータと直接、会話が出来るようになった。
ジェリーの頭の中では、
「神経回路接続OK、DNA照合OK、バイタルサイン正常OK、音声識別OK、深層心理情報OK、オールクリア、システムとのシンクロ開始」
コンピュータがいろんなことを、チェックしている様子が聞こえていた。
ジェリーもジョニー達と同じ疑問を持った。
「コンピュータ、DNA照合とはどう言う意味だ」
と聞くと、
「この船を作った人達は、あなた方と同じ人なのです。すでに絶滅しましたが」
ジョニー達の時と、全く同じ答えが帰ってきた。
ジェリーはリシオを知っていたので、この船を作ったのは人だと思っていた。
実際、リシオの骨は自分達の骨格に似ていた。だが、自分達と同じ姿を、していたかどうかは、分からなかった。たとえDNAが同じであっても、5000万年前の人だからだ。
「あなたの思考は頭に取り付けられたアンテナにより、直接入ってきます。悪い情報も、良い情報も、そしてなるべくなら、そのアンテナに触れないで下さい。それは脳の深部まで達していますから」
それを聞くとジェリーは、
「悪い情報はどうするんだ。それに何を基準として悪いと判断するのだ」
コンピュータに、人間の考えの、良し悪しが理解出来るのかと、疑問に思った。
「あなたの生まれてから、今までの記憶をデータとして取り込みます。もちろん、感情の面においてもデータ化します。それらを元にして善悪の基準を設定し、判断いたします」
コンピュータ自身が判断すると、聞いて不安を感じたが、今はもう、信じるしかない。
「コンピュータ、やってくれ」
ジェリーは操縦席に深く座った。
「時間にして3時間程かかります。それでは体の力をぬいて下さい。ではスタートします」
「3時間か、ぎりぎりの時間だな」
第41章
「ジェリーさん、起きて下さい。ジョニーさんの船と合流しました」
ジェリーは、コンピュータの声で目覚めた。
一方、ジョニー達の船では、
「第二の古代宇宙船が後方に現れました」
これを聞くと、ジョニーとハルトは驚いた。
「第二の古代宇宙船? 本当なのか、コンピュータ」
ジョニーが、コンピュータにたずねた。
「そうです。ジェリーさんの乗っている船です」
するとハルトが、
「ジェリーは無事なのか?」
と聞くと、
「生命反応は、以前に比べて、少し弱くなっていますが、ジェリーさんは生きています。交信されますか?」
ハルトはコンピュータの声を、最後まで聞くまでもなく、
「ジェリー、無事なのか?」
すると、すぐに返事が返ってきた。
「無事だ。少々歳を取ってしまったが、船も無傷だ」
ハルトにはジェリーの声に、少し元気がないように聞こえた。
「歳を取ったってどういうことだ。少し声が苦しそうに聞こえるが」
ハルトは鋭いなと、ジェリーは思った。
「長い話になる。とにかく大丈夫だ。今は敵に集中しよう」
そうだな、もうじきに敵が現れる。ハルトとジョニーは一応、ジェリーの声を聞いて安心した。
「ワープアウトまで後、10分です」
このコンピュータの声はジェリー、それにジョニー達に同時に伝わっていた。
「コンピュータ、この船はジョニー達とつながっているのか?」
ジェリーはジョニー達にも、同時に、このコンピュータの音声が伝わっているのに、気付いて聞いた。
「ジョニーさんの船と、この船とはシンクロナイズされています」
さらにジェリーは、聞いた。
「シンクロとはどういうことだ?」
「ジョニーさん達の船も、アップグレードされました。こちらとほぼ同じシステムで、コントロールされています」
このコンピュータの答えにジェリーは、
「彼らもこの液体に浸かっているのか?」
「そうです」
コンピュータは続けて説明した。
「彼らとの無意識レベルのシンクロ、つまり瞬時に連携しての攻撃が可能です。それに加えて彼らの戦闘力も大幅にアップしています」
それを聞いてジェリーは、
「ジョニー、ハルト、聞こえるか、俺達は無意識レベルまで、船ごとつながっているようだ」
「そうだな、ジェリーの声が頭の中で聞こえるし、それに声に出さなくても、思ったことが通じるようだな」
ハルトがこう言うとジェリーは笑いながら、
「変なことまで伝わると具合が悪な」
ジョニーも笑いながら、
「そうだな、秘密を知られるのは困るな、お互いに」
と言った。
彼らに少しだが、希望が見えた。
「まもなくワープアウト、10・9・8・7・6・5・4・3・2・1」
「地球に到着しました」
目の前にいつもと変わらない、地球の美しい姿が見えた。
しかし、地球を包囲するように、敵宇宙船が無数にいた。
「敵宇宙船は何隻いる?」
ジョニーがコンピュータにたずねた。
「見える範囲内で657隻、地球の裏側でも同様の数がいると予測出来ます。1000隻以上は存在してます」
「ジェリー聞いたか?」
ジョニーが言うと、
「ジョニー、聞いた。前より増えている。状況は最悪だな」
ジェリーの声を聞きながら、ジョニーは自分達の船、一隻当たり、敵宇宙船500隻以上が、相手かと思った。
絶望的な数字だが、あきらめるわけにはいかない。
あきらめたら、そこで終わりだ。
「生命反応は」
ハルトがコンピュータに聞くと、
「生命反応はゼロです」
やはり無人船かと、3人はそれぞれ思った。
すると、敵宇宙船に動きがあった。
地球に散開していた敵宇宙船の一部が、こちらに向かって来た。
「高エネルギー反応感知、攻撃してきます」
コンピュータが言うと、敵宇宙船はいっせいに白いビームを発射してきた。
二隻の古代宇宙船はシールドを展開し、攻撃体制に入った。
「ジェリー、行くぞ!」
ジョニーは叫んだ。
二隻の古代宇宙船は、数えきれないほどいる、敵宇宙船に向かって発進した。
真正面から、無数とも思える白いビームが、二隻の古代宇宙船を襲った。
が、そのビームは、強力なシールドによって阻止された。前回、火星での戦いとは、明らかに違っていた。
敵のビームが直撃しても、二隻の古代宇宙船はびくともしなかった。どれ程のパワーアップがされたのだろう。ジョニー達は敵が次々と発射するビームを、避けることもなく、敵宇宙船団の中心へ、向かった。
「ジェリー、例の武器を使うぞ!」
ハルトがどんな兵器を使うか、ジェリーにはよく分かった。
「コンピュータ、次元バースト波発射」
ハルトがコンピュータに命令した。
ジョニーとハルトが乗った古代宇宙船は、敵のビームを間近に受けながら次元バースト波を発射した。火星の時も、この武器で敵を無力にしたが、今回はさらに強烈なエネルギー波だった。
ジョニー達の船が一瞬、青白く光った。
そして船を中心にして、球状のエネルギー波が発射された。
それは敵宇宙船団の目の前で発射され、至近距離で敵宇宙船団はエネルギー波を食らった。
近くにいた敵宇宙船は、バラバラに吹き飛んだ。
そして破壊を免れた、敵宇宙船の動きがピタッと止まった。
「やはり動かなくなったか」
ハルトが言った。
そして二隻の古代宇宙船は、動かなくなった敵宇宙船を容赦なく、次々に破壊していった。
数分も経つと、周りは敵宇宙船の残骸だらけになった。
コントロール信号が、受信出来なくなって止まってしまった無人船を、破壊することは、たやすいことだった。
そして予想した通りに、宇宙空間から突然、巨大ビームがやって来た。
しかし、彼らはそのビームを、避けようともしなかった。
そして二隻の古代宇宙船に巨大ビームが直撃した。
「避けもせず、まともに当たったわ、バカどもめ」
ジョニー達は、光輝くコックピットの中で、誰かがそう言ったのを聞いた。
聞き覚えのある声だ。
巨大ビームは次々と現れ、彼らを攻撃し続けた。
「ジェリー、大丈夫か!」
スクリーンが激しく光り輝く中で、ジョニーが言った。
「大丈夫だ。しかりとシールドが守ってくれている!」
ジェリーも同じ状況だったが、冷静に答えた。
そして、
「コンピュータ、このビームの発射元を探知出来るか?」
ジェリーが、コンピュータに聞いた。
「近くではありません。時間がかかります。このまま、このビーム攻撃を受け続けてさい。正確な位置を特定します」
彼らには、この巨大ビームの発射元を、探す必要があった。
地球にやって来た敵宇宙船は、全て無人船だ。無人船をコントロールしている、母星に行かなければならなかった。そして、地球侵略を止めるためにその母星を攻撃、あるいは場合によっては、破壊しなければならなかった。
それしか、地球を救う方法はない。
「ジョニー、さっきの声、聞こえたか?」
ハルトが言った。
「はっきり、聞こえた」
ジョニーが答えた。
「あれが我々の敵だな」
ハルトが言った。
「そうらしいな、多分、有機体、俺達が倒すべき敵の生の声だ」
ジョニーが言うと、
「俺にも聞こえた。あれが倒すべき敵だ」
ジェリーが言った。
コンピュータが位置を正確にとらえるまで、このまま、敵の攻撃を受けよう。皆がそう思い、攻撃に耐え続けた。
謎の敵は、巨大ビームで攻撃し続けた。
そして、攻撃がやむことはなかった。
敵はこちらの位置を、正確に探知しながら攻撃している。
二隻の古代宇宙船は、どれだけ多くの巨大ビームを受けても健在だった。
こちらは敵のいどころを知らない。
だが、敵はこちらの位置を、正確に把握している。
しかし、そのうちにこのビームでは、彼らを破壊することが出来ないことを知るだろう。それにこちらが、敵の位置を探知しているのに気付くはずだ。
「ジョニー、やばい感じだな」
ジェリーが言うと、
「そうだな、そのうちに気付かれてしまう。この攻撃がやむと、敵の位置を探すことが出来なくなる」
ジョニーもジェリーと同じ考えをもっていた。
ハルトも同じだった。
「コンピュータ、地上の様子は」
ジョニーはこの激しい戦闘中でも、地上のことが気がかりだった。
「無人機によって人が殺されていたようです。今は無人機は停止しています」
コンピュータの答えにジョニーは、やはりと思った。
当然、コンピュータの声はジェリー、ハルトにも聞こえている。
ジョニーも含め、みんな家族がいた。
それぞれ、心配でどうしようもなかった。
だが、敵の母星をたたかないと、この侵略は止められない。
今はコンピュータが早く、敵の位置を特定するのを待つしかなかった。
「コンピュータ、まだか!」
ハルトはいらだつ気持ちを、抑えられなかった。
コンピュータにハルトの気持ちが伝わったのだろう、すぐには返答しなかった。
そして、
「3,2,1、位置を特定出来ました。ここから320万光年離れた銀河です」
「行くか、ジョニー!」
ジェリーが言った。
「いや、待ってくれ」
「コンピューター、最大ワープでその銀河までどのくらいかかる?」
ジョニーがたずねた。
「最大速度で300時間です」
この答えにジョニー達は驚いた。
300時間は13日程、かかるということだ。
「13日間も地球を放おっておくわけにはいかない!」
ハルトが言った。
「そうだな、いつ、再び敵が送りこまれるか、分からないからな」
後ろにいるジョニーが言った。
ジェリーも同じ考えだった。
「どうする!」
ジョニーが皆に聞いた。
しばらくの間、誰も何も言わなかった。
そして、
「ふたてに別れるのが最善だと考えます」
コンピュータが、彼らに代わって答えを出した。
そして、一番に声を出したのはジェリーだった。
「俺が行く!」
続けて言った。
「俺の船の方が図体もでかい。戦闘能力も多分、ジョニー達の船より上だと思う」
「コンピュータ、そうなのか?」
ハルトが聞いた。
「第二の古代宇宙船の、戦闘能力はデータにありません、不明です」
「ジョニーさん達が、乗っている宇宙船の戦闘能力は、こちらのデータにもありません。両方の古代宇宙船の戦闘能力を比べることは出来ません」
ジェリーが乗っている第二の古代宇宙船のコンピュータが答えた。
これを聞くとジョニーとハルト、そしてジェリーは迷った。しかし、どちらかが、行かなければならない。そして敵の本拠地を破壊しなければ、地球への侵略は決して終わらない。
「やはり、俺が行く」
ジェリーが、はっきりと言った。
その言葉に、ジョニーとハルトは、異存はなかった。
「それじゃ、行くぞ、ジョニー、ハルト、地球を、俺の家族を、頼む!」
そうジェリーは言うと、超長距離ワープに入った。
「本当に頼むぞ! 地球を守ってくれ、ジョニー、ハルト!」
ジェリーの声がスーット消えていった。
「俺達も行こう」
ジョニーが言った。
ハルトはうなずいた。




