第二の古代船
第35章
「宇宙人の科学技術は計りきれない。少なくても300万光年以上の場所から、無人宇宙船を遠隔操作している」
こう言ったジェリーの表情には、不安が表れていた。
ハルトもジェリーと同じように、不安があり、そして恐怖も感じていた。
300万光年は、彼らの理解出来る世界ではない。もう、別の世界に彼らはいた。
しかし、ジョニーは、彼らとは考えが違っていた。確かに宇宙人は驚異だったが、恐れてはいなかった。
これまでの経緯の、ほとんど全てを知っていたジョニーには、複雑な思いがあった。今までの事が起こる前の、ごく普通の平穏な日々を送っていた人々の中で、ジョニーだけが、ズーラという名前の宇宙人によって、まだ、起こっていない未来を知らされた。
同じ日に、2つの未来が待っていた。
第三次世界大戦による人類滅亡と、宇宙人の侵略、どちらが起こっても、不思議ではなかった。その中でジョニーはその未来を知り、みずからの不思議な力で、第三次世界大戦による人類滅亡を食い止めた。
地球を破滅から救いたかった。
家族を友人を失いたくなかった。
ジョニーの純粋な気持ちが、とてつもない大きなエネルギーとなり、人類の滅亡を、全ての核を爆発させることにより、結果として食い止めたのだ。
そのことにより、犠牲がなかったとは言えない。
そして今、未知の生命体が地球を奪おうとしている。
しかも、人類を一人残らず殺そうとしている。
ただ、今度は自分達の手で、運命を決めることが出来る。この戦いの結末は、ジョニーですらわからない。今、やるべき事は、全力で敵を倒すことだ。恐れることではない。決してあきらめずに、命ある限り戦うことだ。ジョニーはそう、自分に言い聞かせていた。
遠く離れた敵の惑星では、新たな兵器が投入されていた。
「ジョニー、この古代宇宙船は僕の心、いや、意識を読み取っているのか?」
さっきの戦闘時、パルス陽子砲が自動で船全体から発射されたことを、ハルトはたずねた。
「僕にもよく分からない。ただ、今、僕が言えるのは、この船がなければ地球はとっくに、宇宙人のものになっていた。しかも、人類は抹殺されて」
ジョニーは明確な答えを、ハルトに言えなかった。
「その通りだジョニー、でもあの時、僕が願ったことを、この古代宇宙船は聞き入れたと信じている。この船の戦闘力は計り知れないものがある」
ジェリーもそばで聞いていて、ハルトの言うとおりだと言わんばかりに、うなずいていた。
彼らは次の攻撃を阻止するため、地球の軌道上で待機した。
宇宙人は必ず、戻ってくる。
ハルトはガルシアとの交信を、こころみた。
「こちらハルト、ガルシア聞こえるかどうぞ!」
雑音だけが聞こえる。
「こちらハルト、ガルシア聞こえるか!」
しばらく、待ったがガルシアからの返事はなかった。
敵宇宙船がいなくなったことで、地上で人間を殺していた無人ロボットの全てはコントロール信号がなくなって、停止している。ガルシアと交信出来ないのは、電波状態が悪いからだと、ハルトは思いたかった。
あの時、ガルシアとの交信では、ロボットの動きが止まったと言っていた。多分、今も動いていないだろう。
ハルトはそう信じたかった。
「ハルト、心配するな。ガルシアは今も、きっと無事だ。あの無線機でここまで届いたのは、電波状態が良かったからだと思うよ。また、電波状態が良くなれば必ず交信出来るよ」
ジョニーはハルトを気遣った。
しかし、ジョニー自身も家族が心配だったが、顔には見せなかった。ジェリーも家族のことを思った。
地球上の軌道で待機すること5時間、敵に動きがあった。
「こちらに向かってくる物体がある。ワープアウトまで後1時間!」
ジェリーがワープ信号をとらえて言った。
「多すぎる! あまりにも多すぎる! ワープアウトポイントが500箇所を越えてる!」
ジェリーが悲壮な声で言った。
これを聞くと、ジョニーとハルトはお互いの顔を見合った。
そして、
「起動するしか、助かる道はないな」
ジョニーが仕方がないという感じで言った。
「起動するって何を?」
ジェリーがジョニーにたずねた。
「兵器担当だから僕から説明する」
ハルトが、ジョニーに向かって言った。
ジョニーとハルトは何を起動させるか、お互い知っているようだ。しかもジョニーの口ぶりから、何か危険な物を動かすようだ。
ジェリーはそれが何なのか、知らなかった。
「ジョニー、ハルト、何を起動するんだ? なぜ、僕だけが知らないんだ?」
ジェリーは2人を問いただした。
「まだ、1時間ある。やはり、僕から話そう」
そう言って、ジョニーはメインスクリーンに、ある場所を映しだした。
スクリーンには海が映っていた。
「この海はどこだ」
とジェリーが言うと、
「これは海ではなくて湖だ」
今度はハルトが答えた。
「日本の琵琶湖と言う湖だよ、ジェリー」
ハルトに言われてジェリーは、
「日本? 琵琶湖?」
なぜ、日本の琵琶湖なんだと思った。
そして、
「琵琶湖に何があるんだ」
ジェリーの問いに、ジョニーは少し顔を曇らせ、話し始めた。
「なぜ、日本なのか僕にも分からない。しかし、日本の琵琶湖に、第二の古代宇宙船が眠っている。しかもそれは5000万年前に人類、今の僕たちのような姿をしていたのか、分からないが、その人類を、滅ぼした船だ。どんな船かは、ハルトも僕も分からない。君には悪いが、そのことは君には知らされなかった。
僕とハルトだけが知らされた。それには、なにか意味があるのだろう。多分、それを使うかどうかは、僕たち2人に、託されたと思っている。これが僕達が知っている全てだ、ジェリー、もう、これ以上の隠し事はない」
人類を絶滅させた武器と聞いて、ジョニー達が秘密にしていた理由が分かった。
「ジェリー、使うべきか? 君の意見を聞きたい」
ジョニーが真顔で、ジェリーに聞いた。
しかし、ジョニーとハルトはもう決めていた。
今が使う時だと、決心していた。
「ジョニー達はもう、決めてるね」
ジェリーは、2人の顔を見ながら確かめた。
ジョニーとハルトは、何も言わず、その決心を表情で表した。
それを見てジェニーは、
「そうだね、使うなら今しかない。この船だけでは、今度は防ぎきれないだろう。それに、宇宙人の母星にも行かないと・・・・・・・」
そうだ、ジェリーの言う通りだ。
宇宙人は再び、無人船を送り込んでいる。地球侵略を食い止めるには、コントロール信号を送っている基地、宇宙人の母星まで行って、攻撃しなかればならない。たとえ、300万光年離れていてもだ。
彼らの考えは決まった。
大昔、現在よりも、はるかに文化も科学技術も発達していた文明を滅ぼした、第2の古代宇宙船を使うことにした。
文化も、科学技術も、現在よりもはるかに豊かであったはずなのに、なぜ、文明が滅びてしまったのかは大きな疑問が残る。
危険性は十分承知だ。
だが、今、これを使わなければ、地球は、人類は、再び滅亡する。今度は自滅ではなく、宇宙人の侵略によって滅亡させられるのだ。
「敵宇宙船ワープアウトまで、後、約48分、ワープアウトポイントは依然、500を越えている」
ジェリーが言った。
これを聞くとジョニーとハルトは、まだ、少しだけ、ゆらいでいた決心をかためた。
それに、もう時間がない。
そしてジョニーがジェリーに、
「ジェリー、第二の古代宇宙船に乗ってくれないか?」
いきなり言った。
ジェリーはなぜ自分が、と言う気持ちで、
「ジョニー、なぜ僕が?」
すると、真剣な表情でジョニーが言った。
「第二の古代宇宙船は一人乗り専用だから」
一人乗りと聞いてジェリーは、驚いて聞き返した。
「一人乗り? なぜ、僕なんだジョニー!」
ジョニーは単刀直入に言った。
「なぜなら、君はパイロットだから」
一人乗り専用、それにパイロットと聞いて、ジェリーは納得がいった。
第二の古代宇宙船は一人の操縦者、つまりパイロット一人だけに特化した操縦システムを持っていた。前の戦闘時にハルトが言った。
「僕が願ったことをこの古代宇宙船は、聞き入れたと信じている」
彼らの乗っている古代宇宙船は、人の思考を読み取っているのは事実だ。特に、強く願ったことを戦闘システムはコンピュータを通して、実現可能な状態にしていた。これは人の脳が発する、微弱な電磁波を操縦室に設置されたアンテナで受信し、増幅してコンピュータに送られていからだった。
第二の古代宇宙船では操縦、攻撃システム、そして船全体を管理機能させる操作を、全てパイロットの脳から発する、微弱な電磁波によって、完全に動くようになっている。
ジョニーとハルトはそれを、知っていた。
だから、どんな状況でも、冷静に判断することが出来る頭脳が、必要だった。誤った判断をすると、この地球を5000万年前と同じように破滅させかねない。
「僕とハルトは特別な訓練を、受けているわけでもないし、運転すると言えば車ぐらいだ。ただの一般人だ。しかし、ジェリー、君は僕達と違う。NASAで何年も訓練を受けたトップの中のトップだ。それにパイロットでもある。戦闘機を操縦したことはあるよね?」
ジョニーが話し、ジェリーに聞いた。
「もちろん、ある」
ジェリーは答えた。そして、ちらっと敵宇宙船のワープアウト予定時間も見た。後、45分だ。
「宇宙飛行士、いや、パイロットになるには、普通の人と違う特別な資質がいる。もちろん、努力を続ける精神力も、資質の一つだと思っている。しかし、第二の古代宇宙船のパイロットになって欲しい理由は、ずば抜けた判断力があるからだ。僕なんかは、危機状態に追い込まれた時、一人だとパニックを起こしてしまい、冷静な判断が、出来なくなるだろう。今は、ハルトと君がいるからどうにか出来たが、一人ではどうなったか、分からない。ハルトも同じだと思う。だから、君に乗って欲しい。冷静で決断の早い君にだ」
ジョニーが言い終わると、ジェリーは言った。
「OK、乗るよ」
ジェリーは快く引き受けてくれた。
そしてハルトが、
「時間があまりない。ジョニー、日本へ、そして琵琶湖に行ってくれ!」
ジョニーとハルトは、ジェリーの返事を聞いて安心した。始めから、乗るならジェニーと決めていたからだ。
そしてハルトの言う通り、急いで日本へ向かった。
日本上空で生命反応を調べたジェリーは、
「ここでも大勢の人がまだ、生き残っているぞ!」
核爆発による放射線の、反応が無いのを確認するとジェリーは、
「ここも核爆発による放射線はない」
ジェリーの報告をジョニーは聞いて思った。
これもきっと、ズーラの仕業だと思った。
ロシアでも、死の灰はなかった。
この日本でもない。
ジョニーの推測だが、世界中の核が爆発したのは確かな事実だ。実際、ロシアでも、ここ日本でも上空から見ていると、あちこちに、大きなクレーターがある。日本には核兵器がないから、原子力発電所が爆発した跡だ。死の灰がないのは、ズーラが何らかの方法で、死の灰を地球上から消してくれたのだろう。
人類滅亡を食い止めてくれたんだ。
そう、思うとジョニーの瞳から、涙がこぼれ落ちた。
そして、
「ありがとう、ズーラ」
と心から思った。
「琵琶湖上空に到着、高度5000」
ジェリーが言うと眼下に、琵琶湖の姿が見えた。
「ここに、第二の古代宇宙船が眠っているのか」
ハルトはスクリーンを見ながら言った。
すると、スクリーン全体が赤く点滅し出した。
ハルトの前にある小型モニターも、赤く点滅していた。小型モニターの真ん中に、文字が映っている。英語ではない、アジア方面の文字だ。ハルトがこれは何だと思った瞬間に、その文字は英語に変わった。たった一つの単語、START UPと表示されていた。
「このボタンは」
ハルトが言いかけるとジョニーが、
「多分、それが第二の古代宇宙船を長い眠りから、覚ますボタンだ」
と言った。
ハルトは一瞬、押すのをためらった。
この第二の古代宇宙船たった一隻だけで、一つの文明が滅ぼされたからだ。
ハルトの指は震えていた。
このボタンを押した後、どうなるかはジョニーもハルトも知らなかった。ただ、分かっていることは、第二の古代宇宙船は恐ろしい兵器を、持っていることと、一人乗り専用だということだけだった。
それでも、押さなければならない。
それが彼らの運命だった。
選択の余地はない。
「ジェリー、君が乗るんだ。君の手で押してくれ」
ジョニーが言うと、ジェリーはゆっくり立ち、ハルトの隣に立った。
「ジョニー、脱出カプセルから助けてくれてありがとう。ハルト、家族を大切にな」
そうジェリーは言うと何のためらいもなく、そのボタンを押した。
すると、まるでジェリーがパイロットになるのを知っていたかのように、彼らの乗っている古代宇宙船は、ジェリーを第二の古代宇宙船へと転送した。
ジェリーは光に包まれ、彼らの船を去った。
「ジェリー、頼む」
ジョニーは切に願った。




