救いと憎しみ
第30章
「ジェリー、敵宇宙船は今、どこにいる」
ジェリーはレーダー探知、ハルトは武器攻撃、そして、ジョニーは操縦と、武器攻撃を兼務していた。
「現在、敵宇宙船はモスクワの200キロ上空にいる」
ジェリーの報告を聞いてジョニーは、先制攻撃するかどううか迷った。
そしてさらに、
「敵の本隊の位置は」
ジョニーはジェリーの返事を待った。
「長距離レーダーでは、敵本隊はまだ海王星付近に展開中」
長距離レーダーに、映っている敵宇宙船の、あまりにも圧倒的な多さに、強いプレッシャーを感じながらジェリーは答えた。
「そうか、まだ、海王星にいるか」
ジョニーも、正面スクリーンの左端に映し出されている、レーダーの映像を見ながら言った。
ジョニー、ハルト、ジェリーの3人はこの古代宇宙船一隻だけで、目の前に映っている多くの点、敵宇宙船を撃破出来るのかという、不安を持っていた。
しかし、
「行こう!」
皆の不安を打ち破るように、ハルトが言った。
「そうだな、ここでこうしているより、行こう」
ジョニーが言うと、ジェリーも頭を振り、勇気をもって賛成した。
「スターシップ発進」
ジョニーはゆっくりと、推進レバーを前に倒した。
古代宇宙船は多くの人が見る中、飛び去って行った。
「ハルト、無事に帰って来て、それにジョニーも」
ガルシアは小さくなって行く、宇宙船を目で追いながら、周りの人達に、聞こえないよう、小声でつぶやいた。
第31章
古代宇宙船は、モスクワを目指して飛んでいた。
「現在、マッハ7で太平洋上空を飛行中、モスクワ到着まで約1時間半」
ジェリーの報告に、
「敵宇宙船の動きに変化はないか」
ジョニーが引き締まった声で言った。
ジェリーにとっても、皆にとっても、始めての戦闘になるからだ。
「敵宇宙船の動きに変化なし、モスクワ上空で静止している」
ジェリーの言葉に、ジョニーはなぜ、敵宇宙船がモスクワ上空に、静止しているのか不思議に思った。
モスクワは、特に、ロシアは核関連施設が多いはずだ。モスクワはもちろん、ロシアは破壊し尽くされているはずだ。生きている者も、ほとんどいないだろう。そう考えていると、モスクワ上空にいるのは、何か理由がある。
ハルトも同じ事を考えていた。
「速度をもっと上げよう」
ジョニーはそう言うと、レバーをさらに前に倒し、速度を上げた。
古代宇宙船はマッハ25で飛んでいた。
もし、地上から見る者がいたら、この船は、火の塊に見えただろう。空気との激しい摩擦で流れ星のように、光りながら飛んでいた。
「到着まで後15秒」
ジェリーは速度計を見ながら、驚いていた。
自分達が乗っていた国際宇宙ステーションISSでさえ、空気のほとんどない宇宙空間で、マッハ22という、とてつもないスピードで、1時間半で地球を1周していた。空気のある地上で、マッハ25など常識では、考えられない速度だった。
15秒というジェリーの声を聞くと、
「兵器システム起動、シールドを張る」
ハルトは交戦の準備をした。
「距離、100キロ手前で静止する」
ジョニーは安全のため、敵との距離を、とることにした。
古代宇宙船は上昇し、上空300キロで静止した。
前面にある大型メインスクリーンには、暗黒の宇宙が映っていた。
ここはもう、宇宙空間だ。
ジョニーとハルトにとっては、初めての宇宙だった。
2人共、こんな所にやって来れるとは、夢にも思っていなかった。
この空間に行けるのは、厳しい訓練を受けた、特別なエリートだけだからだ。
ジョニーやハルトのような一般人には、縁のない所だ。
そして、ジェニーにとっては懐かしい場所であり、悲しい思い出がある場所だった。
「ジェリー、敵宇宙船をメインスクリーンに出せるか?」
ハルトが言うまでもなく、ジェリーは敵宇宙船をずっと探知し、追い続けていた。
「ジョニー、ハルト、出すぞ、これが俺たちの敵だ!」
敵宇宙船が大型メインスクリーンに大きく映し出された。
「こ、これが我々の敵なのか!」
ジョニーの声が震えていた。
目に入ったのは、とてつもなく巨大な物体だった。
まるで、一つの大都市が、半月型の土台にまるごと乗っているようだった。その大きさは、古代宇宙船とは比較にならない程、巨大なものだった。圧倒的な大きさだ。
目測だけでも、その幅は30キロメートルは超えているだろう。
ジョニーの声が震えたのも無理はない。このバケモノのような敵宇宙船が、天王星に多数いると考えると、戦う前に恐怖と絶望感を感じてあたりまえだ。
圧倒的な巨大宇宙船を見て、ジョニー達は黙ってしまった。
あまりにも大きすぎる。
しかし、この沈黙を破ったのは、ジェリーだった。
「地上で人が!」
ジェリーは地上の様子もモニターしていた。
「人がどうした?」
ジョニーが驚いて聞いた。
「人が、ロボットのようなものに襲われている!」
ジョニーはジェリーの言葉が信じられなかった。
なぜなら、ジョニーが起こした核爆発によって、ニュージーランド以外の人間は、死滅したと思っていたからだ。ハルトもジョニーと同じように、驚いていた。
ジョニーのテレパシーによって、インプットされた現状のイメージとは、違ったからだ。ジョニーのイメージでは、ニュージーランド以外に住む人間は、残念だが死滅したはずだった。
「ジョニー、どういうことだ! 何が起こっている!」
ハルトが叫んだ。
しかし、ジェリーだけは冷静だった。
宇宙飛行士であるジェリーの精神面は鍛えぬかれ、どんな状況でも揺らぐことはなかった。ジョニーやハルトとは違うのだ。
「これを見て!」
ジェリーが言った。
メインスクリーンに地上が映ると、そこには恐るべき光景と同時に驚くべき姿があった。
地面の上には黒こげになって、バラバラになった手足がそこら中に、ころがっていた。胴体と思われるものからは、内蔵が飛び出ていた。無惨なことに、子供の頭部だけが残っている。体はどこにいったのだろう。
そして、メインスクリーンに、この殺りくを起こしたと思われる物体が現れた。
「なんだこれは!」
ジェリーが思わず言った。
現れた物体は、一目でロボットだと分かった。
立方体の体に、左右にそれぞれ、半球体の出っ張りがあり、上部にある半球体は、左右よりも少し大きかった。頭だろうか、センサーのようなものと、何かの攻撃兵器の発射口がついている。左右の半球体の出っ張りの部分にも、発射口がいくつかある。下部にはアンテナらしきものが、数本出ている。
「無人機か?」
ハルトが言った。
無人機が攻撃した、直後の映像だったのだろう。
人の姿は、もう見あたらない。あるのは、かつては人であった、肉体の残骸だけだった。無人機は、数えきれないほどいた。重力を制御することが出来るのだろう、その無慈悲なものは、空中に浮いていた。
その場所には、もう無人機以外は見えない。
建物は不思議なくらい、そのままの形で残っていた。ジョニーが想像していたように、何もかもが破壊されたようではなかった。核爆発による放射能はあるだろうが、ここでは多くの人が、生き残っていたに違いない。だが、無人機により皆殺しにされた。子供を含め、人間は、情け容赦なく、皆殺しにされていた。
戦争の経験がない3人にとっては、ショックな映像だった。3人ともあまりにも生々しく、残虐に殺された人達の残骸を見て、何も言葉が出なかった。
過去の戦争で、何度も繰り返された、殺りくと同じだ。戦争とは、いかなる方法を使ってでも、敵を殺し、撃破することが目的である。この無人機による殺りくと、変わりはない。
「ジョニー、敵宇宙船を破壊しないと!」
ハルトに言われて、ジョニーは我に戻った。
「そ、そうだな、こんなに人が生きていたなんて!」
ジョニーは驚きを、隠せなかった。
ジョニー自身、数え切れない程の人を、殺してしまったという、正気ではいられなくなる程の、罪の意識が、常に頭の中にあったからだ。
「ジョニー、どうした!」
呆然としているジョニーを見て、ジェリーが言った。
「まだ、生き残っている人がいるかも知れない。ロボットを、コントロールしている母船をたたかないと!」
ハルトがジョニーに、言い聞かせるように言った。
ジョニーはハッとして我に返った。
「ハルト、敵宇宙船を攻撃だ!」
ジョニーの命令で、ハルトは敵宇宙船をロックした。
兵器システムはすでに起動しているが、ハルトはどの兵器を使うか迷った。しかし、敵をロックした時点で、点滅している武器があった。ハルトはその点滅している所を反射的に押し、急いで発射トリガーを押した。
すると、
「陽子パルス砲、発射5秒前」
コンピューターの声だ。
船外では船底の中央部付近から、武器が出てきた。そして武器の先端部が、オレンジ色に光った。
「陽子パルス砲連続発射」
メインスクリーンを見ていた3人は、船の下の方からオレンジ色の光が、まるでマシンガンから発射された弾丸のように連続的に、発射されるのを見た。
「ジョニー、あの光は」
ハルトが前方メインスクリーンに映っている、白い光を見て言った。
「敵宇宙船、消滅」
コンピューターが言うと、
その白い光は見る見るうちに、大きく広がっていった。
ジェリーがレーダーから、一つの点が消えるのを、確認した。
大都市にも匹敵する宇宙人の宇宙船が、たった一度の攻撃で破壊された。核兵器と、比較にならないほどの破壊力だ。5000万年前にあった文明が、滅びてしまったのも当然だ。
地球そのものも、破壊出来る武器もあるだろう。
「ハルト、この陽子パルス砲は危険な兵器だ。地上に向けて発射しないようにしよう」
跡形も無くなった、宇宙空間を映し出している、メインスクリーンを見て、ジョニーが言った。
「そ、そうだな。気をつけよう」
ハルトはこの船にある、他の武器の事を考えながら、慎重に答えた。
「ジェリー、地上の様子を」
ジョニーが言った。
地上には、人々を殺したロボットはもう、空中には見えない。地面に落ちて、動かなくなった無数の無人機が見える。同時に、無残に殺された人々の哀しい、姿が映っていた。宇宙人の宇宙船が、破壊されたことによって、ロボットをコントロールする信号が途絶え、機能が停止したのだろう。
三人共、この惨たらしい映像を見て、侵略者に対して、激しい憎しみをそれぞれ感じていた。
しかし、始まったばかりだ。
敵は、海王星に多数いる。
冷静でいなければ、ならない。
「やはり、あの宇宙船がロボットをコントロールしていたんだな」
ジェリーは地上の様子を見て言った。
「このことは海王星にいる、宇宙人の本隊にも知れているだろうな」
ジョニーはこれから、本当の戦いが始まるのだと言う思いで、言った。
「そうだな」
ハルトも同じ思いだった。
ジェリーが、
「モスクワ郊外で、これだけの人が生きていたんだ。ほかの場所でも、人が生きているかも知れない。生命探査装置でスキャンしてみる」
と言い、生命スキャンを始めた。
すると、
「こんなに生命反応があるぞ!」
ジェリーは、探査装置の画面に出た点の多さに、驚いて言った。
画面に映った点の全てが、人間とは限らなかったが、ジェリーは横で点滅している、人の形をしたボタンを押した。
「この地域には30億3546の人間が生存しています」
とコンピュータが音声を発した。
「何!」
ジョニーが驚いて叫んだ。
「30億だと!」
ジョニーが驚くのも無理はない。
ジョニーが起こした核爆発によって、ニュージーランド以外の人間は、すぜに死滅したと思っていたからだ。
そしてさらに、
「放射線のスキャンをしたが、異常な放射線は、ないぞ!」
ジェリーの報告にハルトは、
「もう、一度、放射線をスキャンしてくれ」
とジェリーに頼んだ。
ジェニーはもう一度、スキャンした。
「やはり、異常な放射線はない。地上は平穏そのものだ!」
ジェリー自身も画面に映っている数値を見て、驚いていた。
ジェリーが見ている数値は0.01マイクロシーベルト、これは、地球のどこにでもある自然界の、放射能レベルだった。
核爆発による放射線はゼロだ。
世界は死の灰まみれに、なっているはずなのに、三人は驚いた。
しかし、彼らと違い、ジョニーの驚きは、特別だった。
「広範囲をスキャンしたが、異常な放射線はやはり、見られない」
そして、ジェリーが話し出した。
「この高度、つまり高度300キロでは地球の半分近くが見える」
ジェリーが、大型メインスクリーンに、地球全体を映し出した。
「これが今、見えている地球だ。僕が測定した結果、この画面に映っている地上には、核爆発による異常な放射線は検出されなかった」
ジェリーは続けた。
「僕の考えはこうだ。地球では核爆発は起こっていない。ズーラが僕に伝えたような、地球の全ての核は、爆発してなかったんだ!」
興奮気味のジェリーは、
「ジョニー、一体、どうなっているんだ!」
ジョニーは何も言わず、ただ、地球を見ていた。
ジェリーの声を最後に、船内は静まりかえった。
前方のメインスクリーンには、美しい地球が映っている。
静けさを破ったのは、ジョニーだった。
「ズーラ、どうなっているんだ」
しばらく待ったが、ズーラからの声は聞こえなかった。
「ズーラ、答えてくれ! 地球に何が起こってるんだ!」
「地球は、人類は、滅亡したんじゃないのか!」
ジョニーの声は、操縦室全体に響き渡ったが、ズーラからの返事はなかった。
「ジョニー」
ハルトが心配して声をかけた。
「ハルト、ズーラの存在が感じられないんだ。なぜなんだ!」
ジョニーの訴えに、ハルトは答えることが出来なかった。
その間にも、ジェリーは何かしているようだ。
「二人とも、これを見てくれ」
そこには、大きなクレーターのようなものが、映っていた。
「これは多分、ロシアの原発の後だ」
ジェリーはクレーターを指さし、そう言った。
映っていたのは、紛れもなく、原発が爆発した後の、巨大な痕跡だった。原発があったと思われる所は、大きなクレーターになっていた。
やはり、核の爆発はあったのだ。
これが動かぬ証拠だ。
「核の爆発はやはりあったんだ」
画面を見ている二人にジェリーは言った。
「やはり」
ジョニーは残念そうに言った。
ハルトもうなずいていた。
一時は、核爆発はなかったのだと、ジェニーは思った。
そして、希望を持った。
だが、核の爆発は現実にあったのだ。
ジョニーは再び、絶望へと、つき落とされた。
しかし、
「ジョニー、なぜ死の灰がないんだ! 原発が爆発しているのに!」
ハルトの疑問に、
「僕にもよく分からない」
ジョニーもこの状況を、説明する事は出来なかった。だが、一時的に希望を持ったが、再び、絶望へと突き落とされた彼の気持ちには、救いようがなかった。
ただ、こんな事が出来るのは、ズーラの仕業以外に、考えられなかった。死の灰を消すなんて仕業は、人類には絶対出来ない。
「きっと、ズーラだ」
ジョニーは絶望の中で、確信を持って言った。
「死の灰がないのなら、この生命スキャンの結果も説明出来る」
ジェリーは、多くの人が、生きていると期待して言った。
「ジェリー、あらゆる周波数の電波を、スキャンしてくれ」
ハルトが言った。
「オーケー」
ジェリーは、スキャンを始めた。
しかし、どの周波数にも、電波らしきものは、受信出来なかった。
「何も聞こえない」
ジェリーも期待していた。
しかし、人の声は、全く聞こえなかった。
ジェリーは少し、落胆していたが、
「ジェリー、核が爆発したんだ。多分、EMP放射で電子機器がやられたんだ。でも、EMPでは、人は死なないぞ!」
ハルトは落胆している、ジェリーを元気づけるように言った。
「ズーラが、やってくれたにせよ、理由はよく分からないが、核爆発で生じた死の灰はない。それに、多くの人の生命反応がある。世界はまだ、滅亡していないんだ!」
ハルトの言ったことは、今の状況を説明するのに、十分だった。
彼らに再び、希望が生まれた。
ジョニーも少しだが、希望が持てた。
そして、
「大事なのは、これから始まる、宇宙人の侵略から、この地球を守ることだ」
ハルトは付け加えた。
インターミッション(15分)




