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ヒューマン・ビーング  作者: マーブ
26/35

救いと憎しみ

第30章



 「ジェリー、敵宇宙船は今、どこにいる」


 ジェリーはレーダー探知、ハルトは武器攻撃、そして、ジョニーは操縦と、武器攻撃を兼務していた。


 「現在、敵宇宙船はモスクワの200キロ上空にいる」


 ジェリーの報告を聞いてジョニーは、先制攻撃するかどううか迷った。


 そしてさらに、

 「敵の本隊の位置は」


 ジョニーはジェリーの返事を待った。


 「長距離レーダーでは、敵本隊はまだ海王星付近に展開中」


 長距離レーダーに、映っている敵宇宙船の、あまりにも圧倒的な多さに、強いプレッシャーを感じながらジェリーは答えた。


 「そうか、まだ、海王星にいるか」


 ジョニーも、正面スクリーンの左端に映し出されている、レーダーの映像を見ながら言った。


 ジョニー、ハルト、ジェリーの3人はこの古代宇宙船一隻だけで、目の前に映っている多くの点、敵宇宙船を撃破出来るのかという、不安を持っていた。


 しかし、

 「行こう!」

 皆の不安を打ち破るように、ハルトが言った。


 「そうだな、ここでこうしているより、行こう」


 ジョニーが言うと、ジェリーも頭を振り、勇気をもって賛成した。


 「スターシップ発進」


 ジョニーはゆっくりと、推進レバーを前に倒した。

 古代宇宙船は多くの人が見る中、飛び去って行った。


 「ハルト、無事に帰って来て、それにジョニーも」


 ガルシアは小さくなって行く、宇宙船を目で追いながら、周りの人達に、聞こえないよう、小声でつぶやいた。





第31章



 古代宇宙船は、モスクワを目指して飛んでいた。


 「現在、マッハ7で太平洋上空を飛行中、モスクワ到着まで約1時間半」


 ジェリーの報告に、

 「敵宇宙船の動きに変化はないか」


 ジョニーが引き締まった声で言った。


 ジェリーにとっても、皆にとっても、始めての戦闘になるからだ。


 「敵宇宙船の動きに変化なし、モスクワ上空で静止している」


 ジェリーの言葉に、ジョニーはなぜ、敵宇宙船がモスクワ上空に、静止しているのか不思議に思った。


 モスクワは、特に、ロシアは核関連施設が多いはずだ。モスクワはもちろん、ロシアは破壊し尽くされているはずだ。生きている者も、ほとんどいないだろう。そう考えていると、モスクワ上空にいるのは、何か理由がある。


 ハルトも同じ事を考えていた。


 「速度をもっと上げよう」

 ジョニーはそう言うと、レバーをさらに前に倒し、速度を上げた。


 古代宇宙船はマッハ25で飛んでいた。


 もし、地上から見る者がいたら、この船は、火の塊に見えただろう。空気との激しい摩擦で流れ星のように、光りながら飛んでいた。


 「到着まで後15秒」


 ジェリーは速度計を見ながら、驚いていた。


 自分達が乗っていた国際宇宙ステーションISSでさえ、空気のほとんどない宇宙空間で、マッハ22という、とてつもないスピードで、1時間半で地球を1周していた。空気のある地上で、マッハ25など常識では、考えられない速度だった。


 15秒というジェリーの声を聞くと、

 「兵器システム起動、シールドを張る」

 ハルトは交戦の準備をした。


 「距離、100キロ手前で静止する」


 ジョニーは安全のため、敵との距離を、とることにした。


 古代宇宙船は上昇し、上空300キロで静止した。


 前面にある大型メインスクリーンには、暗黒の宇宙が映っていた。

 ここはもう、宇宙空間だ。


 ジョニーとハルトにとっては、初めての宇宙だった。

 2人共、こんな所にやって来れるとは、夢にも思っていなかった。


 この空間に行けるのは、厳しい訓練を受けた、特別なエリートだけだからだ。


 ジョニーやハルトのような一般人には、縁のない所だ。


 そして、ジェニーにとっては懐かしい場所であり、悲しい思い出がある場所だった。


 「ジェリー、敵宇宙船をメインスクリーンに出せるか?」

 ハルトが言うまでもなく、ジェリーは敵宇宙船をずっと探知し、追い続けていた。


 「ジョニー、ハルト、出すぞ、これが俺たちの敵だ!」


 敵宇宙船が大型メインスクリーンに大きく映し出された。


 「こ、これが我々の敵なのか!」


 ジョニーの声が震えていた。


 目に入ったのは、とてつもなく巨大な物体だった。


 まるで、一つの大都市が、半月型の土台にまるごと乗っているようだった。その大きさは、古代宇宙船とは比較にならない程、巨大なものだった。圧倒的な大きさだ。

 目測だけでも、その幅は30キロメートルは超えているだろう。


 ジョニーの声が震えたのも無理はない。このバケモノのような敵宇宙船が、天王星に多数いると考えると、戦う前に恐怖と絶望感を感じてあたりまえだ。


 圧倒的な巨大宇宙船を見て、ジョニー達は黙ってしまった。


 あまりにも大きすぎる。


 しかし、この沈黙を破ったのは、ジェリーだった。


 「地上で人が!」

 ジェリーは地上の様子もモニターしていた。


 「人がどうした?」

 ジョニーが驚いて聞いた。


 「人が、ロボットのようなものに襲われている!」


 ジョニーはジェリーの言葉が信じられなかった。


 なぜなら、ジョニーが起こした核爆発によって、ニュージーランド以外の人間は、死滅したと思っていたからだ。ハルトもジョニーと同じように、驚いていた。

 ジョニーのテレパシーによって、インプットされた現状のイメージとは、違ったからだ。ジョニーのイメージでは、ニュージーランド以外に住む人間は、残念だが死滅したはずだった。


 「ジョニー、どういうことだ! 何が起こっている!」

 ハルトが叫んだ。


 しかし、ジェリーだけは冷静だった。


 宇宙飛行士であるジェリーの精神面は鍛えぬかれ、どんな状況でも揺らぐことはなかった。ジョニーやハルトとは違うのだ。


 「これを見て!」

 ジェリーが言った。


 メインスクリーンに地上が映ると、そこには恐るべき光景と同時に驚くべき姿があった。


 地面の上には黒こげになって、バラバラになった手足がそこら中に、ころがっていた。胴体と思われるものからは、内蔵が飛び出ていた。無惨なことに、子供の頭部だけが残っている。体はどこにいったのだろう。


 そして、メインスクリーンに、この殺りくを起こしたと思われる物体が現れた。


 「なんだこれは!」

 ジェリーが思わず言った。


 現れた物体は、一目でロボットだと分かった。


 立方体の体に、左右にそれぞれ、半球体の出っ張りがあり、上部にある半球体は、左右よりも少し大きかった。頭だろうか、センサーのようなものと、何かの攻撃兵器の発射口がついている。左右の半球体の出っ張りの部分にも、発射口がいくつかある。下部にはアンテナらしきものが、数本出ている。


 「無人機か?」

 ハルトが言った。


 無人機が攻撃した、直後の映像だったのだろう。


 人の姿は、もう見あたらない。あるのは、かつては人であった、肉体の残骸だけだった。無人機は、数えきれないほどいた。重力を制御することが出来るのだろう、その無慈悲なものは、空中に浮いていた。


 その場所には、もう無人機以外は見えない。


 建物は不思議なくらい、そのままの形で残っていた。ジョニーが想像していたように、何もかもが破壊されたようではなかった。核爆発による放射能はあるだろうが、ここでは多くの人が、生き残っていたに違いない。だが、無人機により皆殺しにされた。子供を含め、人間は、情け容赦なく、皆殺しにされていた。


 戦争の経験がない3人にとっては、ショックな映像だった。3人ともあまりにも生々しく、残虐に殺された人達の残骸を見て、何も言葉が出なかった。


 過去の戦争で、何度も繰り返された、殺りくと同じだ。戦争とは、いかなる方法を使ってでも、敵を殺し、撃破することが目的である。この無人機による殺りくと、変わりはない。


 「ジョニー、敵宇宙船を破壊しないと!」


 ハルトに言われて、ジョニーは我に戻った。


 「そ、そうだな、こんなに人が生きていたなんて!」

 ジョニーは驚きを、隠せなかった。


 ジョニー自身、数え切れない程の人を、殺してしまったという、正気ではいられなくなる程の、罪の意識が、常に頭の中にあったからだ。


 「ジョニー、どうした!」

 呆然としているジョニーを見て、ジェリーが言った。


 「まだ、生き残っている人がいるかも知れない。ロボットを、コントロールしている母船をたたかないと!」


 ハルトがジョニーに、言い聞かせるように言った。


 ジョニーはハッとして我に返った。

 「ハルト、敵宇宙船を攻撃だ!」


 ジョニーの命令で、ハルトは敵宇宙船をロックした。


 兵器システムはすでに起動しているが、ハルトはどの兵器を使うか迷った。しかし、敵をロックした時点で、点滅している武器があった。ハルトはその点滅している所を反射的に押し、急いで発射トリガーを押した。


 すると、

 「陽子パルス砲、発射5秒前」


 コンピューターの声だ。


 船外では船底の中央部付近から、武器が出てきた。そして武器の先端部が、オレンジ色に光った。


 「陽子パルス砲連続発射」


 メインスクリーンを見ていた3人は、船の下の方からオレンジ色の光が、まるでマシンガンから発射された弾丸のように連続的に、発射されるのを見た。


 「ジョニー、あの光は」


 ハルトが前方メインスクリーンに映っている、白い光を見て言った。


 「敵宇宙船、消滅」


 コンピューターが言うと、

 その白い光は見る見るうちに、大きく広がっていった。


 ジェリーがレーダーから、一つの点が消えるのを、確認した。


 大都市にも匹敵する宇宙人の宇宙船が、たった一度の攻撃で破壊された。核兵器と、比較にならないほどの破壊力だ。5000万年前にあった文明が、滅びてしまったのも当然だ。


 地球そのものも、破壊出来る武器もあるだろう。


 「ハルト、この陽子パルス砲は危険な兵器だ。地上に向けて発射しないようにしよう」


 跡形も無くなった、宇宙空間を映し出している、メインスクリーンを見て、ジョニーが言った。


 「そ、そうだな。気をつけよう」


 ハルトはこの船にある、他の武器の事を考えながら、慎重に答えた。


 「ジェリー、地上の様子を」

 ジョニーが言った。


 地上には、人々を殺したロボットはもう、空中には見えない。地面に落ちて、動かなくなった無数の無人機が見える。同時に、無残に殺された人々の哀しい、姿が映っていた。宇宙人の宇宙船が、破壊されたことによって、ロボットをコントロールする信号が途絶え、機能が停止したのだろう。


 三人共、この惨たらしい映像を見て、侵略者に対して、激しい憎しみをそれぞれ感じていた。


 しかし、始まったばかりだ。


 敵は、海王星に多数いる。


 冷静でいなければ、ならない。


 「やはり、あの宇宙船がロボットをコントロールしていたんだな」

 ジェリーは地上の様子を見て言った。


 「このことは海王星にいる、宇宙人の本隊にも知れているだろうな」


 ジョニーはこれから、本当の戦いが始まるのだと言う思いで、言った。


 「そうだな」

 ハルトも同じ思いだった。


 ジェリーが、


 「モスクワ郊外で、これだけの人が生きていたんだ。ほかの場所でも、人が生きているかも知れない。生命探査装置でスキャンしてみる」

 と言い、生命スキャンを始めた。


 すると、

 「こんなに生命反応があるぞ!」


 ジェリーは、探査装置の画面に出た点の多さに、驚いて言った。


 画面に映った点の全てが、人間とは限らなかったが、ジェリーは横で点滅している、人の形をしたボタンを押した。


 「この地域には30億3546の人間が生存しています」

 とコンピュータが音声を発した。


 「何!」


 ジョニーが驚いて叫んだ。


 「30億だと!」


 ジョニーが驚くのも無理はない。

 ジョニーが起こした核爆発によって、ニュージーランド以外の人間は、すぜに死滅したと思っていたからだ。


 そしてさらに、

 「放射線のスキャンをしたが、異常な放射線は、ないぞ!」


 ジェリーの報告にハルトは、

 「もう、一度、放射線をスキャンしてくれ」

 とジェリーに頼んだ。


 ジェニーはもう一度、スキャンした。


 「やはり、異常な放射線はない。地上は平穏そのものだ!」


 ジェリー自身も画面に映っている数値を見て、驚いていた。


 ジェリーが見ている数値は0.01マイクロシーベルト、これは、地球のどこにでもある自然界の、放射能レベルだった。


 核爆発による放射線はゼロだ。


 世界は死の灰まみれに、なっているはずなのに、三人は驚いた。

 しかし、彼らと違い、ジョニーの驚きは、特別だった。


 「広範囲をスキャンしたが、異常な放射線はやはり、見られない」


 そして、ジェリーが話し出した。


 「この高度、つまり高度300キロでは地球の半分近くが見える」

 ジェリーが、大型メインスクリーンに、地球全体を映し出した。


 「これが今、見えている地球だ。僕が測定した結果、この画面に映っている地上には、核爆発による異常な放射線は検出されなかった」


 ジェリーは続けた。

 「僕の考えはこうだ。地球では核爆発は起こっていない。ズーラが僕に伝えたような、地球の全ての核は、爆発してなかったんだ!」


 興奮気味のジェリーは、

 「ジョニー、一体、どうなっているんだ!」


 ジョニーは何も言わず、ただ、地球を見ていた。


 ジェリーの声を最後に、船内は静まりかえった。


 前方のメインスクリーンには、美しい地球が映っている。


 静けさを破ったのは、ジョニーだった。


 「ズーラ、どうなっているんだ」


 しばらく待ったが、ズーラからの声は聞こえなかった。 


 「ズーラ、答えてくれ! 地球に何が起こってるんだ!」


 「地球は、人類は、滅亡したんじゃないのか!」


 ジョニーの声は、操縦室全体に響き渡ったが、ズーラからの返事はなかった。


 「ジョニー」

 ハルトが心配して声をかけた。


 「ハルト、ズーラの存在が感じられないんだ。なぜなんだ!」

 ジョニーの訴えに、ハルトは答えることが出来なかった。


 その間にも、ジェリーは何かしているようだ。


 「二人とも、これを見てくれ」


 そこには、大きなクレーターのようなものが、映っていた。


 「これは多分、ロシアの原発の後だ」

 ジェリーはクレーターを指さし、そう言った。


 映っていたのは、紛れもなく、原発が爆発した後の、巨大な痕跡だった。原発があったと思われる所は、大きなクレーターになっていた。


 やはり、核の爆発はあったのだ。

 これが動かぬ証拠だ。


 「核の爆発はやはりあったんだ」

 画面を見ている二人にジェリーは言った。


 「やはり」


 ジョニーは残念そうに言った。


 ハルトもうなずいていた。


 一時は、核爆発はなかったのだと、ジェニーは思った。

 そして、希望を持った。

 だが、核の爆発は現実にあったのだ。


 ジョニーは再び、絶望へと、つき落とされた。


 しかし、

 「ジョニー、なぜ死の灰がないんだ! 原発が爆発しているのに!」


 ハルトの疑問に、

 「僕にもよく分からない」


 ジョニーもこの状況を、説明する事は出来なかった。だが、一時的に希望を持ったが、再び、絶望へと突き落とされた彼の気持ちには、救いようがなかった。

 ただ、こんな事が出来るのは、ズーラの仕業以外に、考えられなかった。死の灰を消すなんて仕業は、人類には絶対出来ない。


 「きっと、ズーラだ」


 ジョニーは絶望の中で、確信を持って言った。


 「死の灰がないのなら、この生命スキャンの結果も説明出来る」


 ジェリーは、多くの人が、生きていると期待して言った。


 「ジェリー、あらゆる周波数の電波を、スキャンしてくれ」

 ハルトが言った。


 「オーケー」

 ジェリーは、スキャンを始めた。


 しかし、どの周波数にも、電波らしきものは、受信出来なかった。


 「何も聞こえない」


 ジェリーも期待していた。

 しかし、人の声は、全く聞こえなかった。


 ジェリーは少し、落胆していたが、


 「ジェリー、核が爆発したんだ。多分、EMP放射で電子機器がやられたんだ。でも、EMPでは、人は死なないぞ!」

 ハルトは落胆している、ジェリーを元気づけるように言った。


 「ズーラが、やってくれたにせよ、理由はよく分からないが、核爆発で生じた死の灰はない。それに、多くの人の生命反応がある。世界はまだ、滅亡していないんだ!」


 ハルトの言ったことは、今の状況を説明するのに、十分だった。


 彼らに再び、希望が生まれた。

 ジョニーも少しだが、希望が持てた。


 そして、

 「大事なのは、これから始まる、宇宙人の侵略から、この地球を守ることだ」

 ハルトは付け加えた。











          インターミッション(15分)

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