親友
第29章
ジェリーが目を開くと、
「ジョニー、この機械は一体、何だ」
ジェリーは、頭にかぶっていた機械を、外しながら言った。
「それは一種の教育装置だ。この船の構造や装備している武器、操縦方法が分かっただろ?」
ジョニーの言う通りだった。
ジェリーはもう、この船を操縦することが、出来るようになっていた。古代の科学技術は、人の脳に直接、情報を伝えることが、出来るようになっている。
「ジョニー、これからどうする気だ?」
ジェリーの問いにジョニーは少しの間、考えた。
そして、
「行こう、こうしていても、しかたがない」
と言った。
ジェリーは椅子に座り直すと、目の前にあるスイッチを次々と入れ、しっかりとベルトを締め直した。
「リジェネレート発進、推力3パーセント」
ジョニーは力強く言うと、目の前にあるレバーを前に倒した。
すると、操縦室全体がガタガタと、揺れ始めた。そしてその揺れは、しだいに激しくなっていった。
古代船は5000万年もの間、沈黙していたが、岩を砕き、土を押しのけ、再び地上へと向かった。
そしてついに、その姿を地上に現した。
湖面に出た古代船は、ゆっくりと浮き上がっていった。重力を、制御出来る ようだ。
ジェットの噴射もない。
古代船は湖面から浮き上がり、その全貌を見せた。
全長は700メートルはあるだろう。高さは100メートルを越えている。
巨大な船だ。
こんなものが、5000千万年前からこの湖に、埋まっていたとは、とても信じられない。その時代の科学技術が、現在のものとは、比較にならないくらい、発達していたのが、よく分かる。しかし、その文明は無くなってしまった。自滅
したのだ。
高度な科学技術を持ちながら、自らをコントロールすることが、出来なかったのだろう。
現在も同じように、自滅しようとしていた。
一握りの、バカ者達の欲によって、同じ道をたどろうとしていた。
特別、お金が悪いとは言わない。あった方が、よりよい生活が、送れるのは確かだ。否定はしない。問題はお金以外にある。
絶大な権力を持つ、一握りの者達が欲によって判断を、誤まることだ。愚かなことだが、民衆はそれに従う。権力者のおごりによる、ささいな判断ミスが人類滅亡へと、向かわせる。欲と呼ばれる国益、それに人種、宗教の違いなど、宇宙全体で考えれば、とても小さなことばかりだ。しかし、それらが降り積もって、引き返すことの出来ない、破滅へと向かって行くのだ。
あまりにも、愚かしいことだ。
しかし、未来はすでに、それとは違う方向に、向かっている。
良くも悪くてもだ。
「ジェリー、オークランドに向かうぞ!」
そうジョニーが言うと、
「オークランド、なぜ? 敵に向かわないのか?」
オークランドにはジョニーの親友、ハルトがいたからだ。
「親友のハルトがいる。ハルトにも手伝ってもらいたい」
ジョニーの真剣な目を見て、ジェリーは承知した。
リジェネレートは、数秒で500キロを飛び、オークランド上空に現れた。
突如、現れた巨大物体に、オークランドの人々は驚き、空を見上げた。
「あれは何だ!」
空に浮かぶ見慣れぬ物体を人々は指さした。
「こんな時に!」
ニュースで核戦争が、始まったことを知る、多くの者は嘆いた。誰がどう見ても、空中に浮かんでいる物体は、地球以外の物としか見えない。多くの人々は、目の前に浮かんでいる物体を、よいものとは思えなかった。なぜなら、核戦争勃発という、最悪のイメージが、頭の中にあったからだ。
「ハルトの家はこの辺のはずだ」
ジョニーは前方のメインスクリーンを、見ながら言った。
「転送は出来ないのか?」
隣に座っているジェリーが言った。
しかし、
「あった。この家だ」
ジョニーが指さした家の前には、ハルトと、奥さんのガルシアが立っていた。
「ジェリー、あそこに転送してくれ、ここから直接たのむ」
ジェリーは椅子を、くるっと回して後ろを向き、転送の準備を始めた。頭の中では、操作の手順は分かっていたが、初めての転送なので緊張した。
「いくぞジョニー、転送開始!」
ジェリーの合図と共に、ジョニーの姿がゆっくりと消えていき、最後に緑色の点がパッと光った。
「あれ? ジョニー、いつの間に帰ったんだ?」
ハルトがジョニーの気配を、感じて言った。
ジョニーは、ハルトと奥さんの後ろに立っていた。
ハルトは驚いていた。
「ジョニー、あれを見ろ! 宇宙船だ!」
ハルトの指さす先には、今、ジョニーが乗ってきた、リジェネレートが浮かんでいた。
あまりにも巨大な船だったので、ハルトを含めて、周りの人達は恐怖を感じていた。
「ハルト、実はあれを探しに行ってた」
ハルトはまさかという顔で、
「何の話だ? お墓参りに行ったのじゃ、ないのか?」
ハルトは、バカなことを言うなと、言わんばかりの顔でジョニーを見た。
その目は同時に、目の前に浮かぶ物体に、怯えてもいた。
しかし、ジョニーは、はっきりと言った。
「ハルト、信じられない話だと思うが、僕はあの宇宙船を探しに行っていた。そしてタウポ湖で見つけた」
ハルトはそんなこと信じられるか、という顔つきで、
「バカ言うな、あれを?」
ジョニーは、空中に浮かんでる宇宙船を指さして、
「そうだ。信じられないのは、よく分かるが、あれで来た。頼みがある。ハルト、あれに乗って欲しい! お前の力が必要だ! たのむ!」
ジョニーのこの言葉に、ハルトは困惑した。
ハルトが困惑するのも、当然のことだ。いきなり、あの宇宙船でやって来たと言われ、しかも、その宇宙船に乗ってくれと、頼まれた。動揺するのは、当たり前のことだ。ただでさえ、あの空中に浮かんでいる物体に、驚いているのに、それに乗れと言われて、簡単にはいと、返事が出来るわけはない。
これでは、お話にもならない。
ハルトはイラだっていた。
ただでさえ、目の前にとんでもないものが、浮かんでいるのに、ジョニーの冗談には、ついていけないと思っていた。
ジョニーの言葉を、信じろと言うのは無理なことだ。
そこで、ジョニーは全ての事情を、話さなければならないと決めた。
このままだと、話が進まない。
「ハルト、ちょっとここに来てくれ」
ジョニーはガルシアから少し離れた所に、ハルトを呼んだ。
「何だ、ジョニー、話の続きか! えー!」
ハルトは明らかに怒っていた。
しかし、ジョニーは、
「ジェリー、転送してくれ」
ジョニーが言うと、二人の姿はその場から、消えた。
そして、
「ジョニー、ここはどこだ!」
ハルトが驚くのも仕方がない。
こうでもしないと、ハルトに延々と、今までの事を説明しなければならない。
事実を見せるしかなかった。
それにもう、時間もない。
「ハルト、落ち着いてくれ、ここはあの物体、いや、宇宙船の中だ」
ジョニーとハルトは操縦室に立っていた。
前方にあるメインスクリーンには、ハルトの家の前に立つガルシアが映っていた。
それを見たハルトは、
「ガルシアだ。それにあれは僕の家だ!」
ハルトはメインスクリーンに、釘付けになっていた。
ジョニーは、驚いているハルトの肩に、そっと手を置いて言った。
「ハルト、俺と一緒に戦ってくれ!」
ジョニーは単刀直入に切り出した。
「戦うって、どういうことだ。ロシアか! それにここは一体どこなんだよ!」
ハルトの興奮は収まらなかった。
「ハルト、これをかぶってくれ」
ジェリーが前に一度、かぶった機械をハルトに手渡した。
しかし、ジョニーが渡そうとすると、ハルトはその機械を払いのけた。
「ハルト!」
ジョニーは思わず声を上げた。
機械はパサンという音と共に、床に落ちた。
ジョニーは明らかに焦っていた。
すでに一隻、宇宙船がやって来ている。
核爆発からまぬがれた、ここ、ニュージーランドが見つかるのは、時間の問題だ。リジェネレートの戦闘力は未知数だ。分からない。果たして、海王星に多数いる宇宙船を相手に、このリジェネレートだけで、全てを破壊することが出来るかどうかは、ジョニーも分からなかったし、大きな不安を持っていた。
「仕方ない。やってみるか」
ジョニーは自身の能力を、使うことにした。
ハルトには悪いが直接、今、一番に必要なイメージを、送ることにした。この方法だと精神的なダメージを受けるが、仕方がないだろう。
ジョニーは自分の秘められた能力の、コントロール方法を知らないからだ。
今は、とにかく、ハルトに現状を、知らせなければならない。ジョニーは両手を広げハルトの頭を押さえつけ、必要なイメージを送った。
ハルトを傷つけないよう、願がった。
ハルトは目を見開いたまま、そのイメージを受け取った。
ジョニーが起こした、全世界の核爆発、未来で起こるはずだった核兵器を使った、第三次世界大戦、大戦後の人類滅亡の様子、そして宇宙人ズーラの出現、ズーラが予知した、宇宙人による地球侵略、ニュージーランドが宇宙人に攻撃される映像、そして、それを阻止するための、この宇宙船の存在だった。
ジョニーが経験した全ての事が、ハルトの頭に流れ込んだ。
どうやら、ハルトを傷つけずに、無事に出来たようだ。
どのくらいの時間、ハルトにテレパシーを送っていたのか、ジョニーにも分からなかった。
そして、ハルトはもう混乱するそぶりも見せず、
「ジョニー、分かったよ。この船に乗る」
ハルトは、ジョニーの目をじっと見ながら言った。
しかし、ジョニーは心配だった。
自分が全世界の核物質を爆発させ、その結果、世界を滅ぼしたことを、ハルトがどう思っているか気がかりだった。
しかし、ハルトはそのことについては、一切、何も言わなかった。
「ハルト」
ジョニーはハルトの名を呼んだ。
「分かっているよ、ジョニー」
これを聞いて、ジョニーは目を伏せた。
「僕はおまえのやったことは多分、正しいと思う」
ジョニーは涙を流しながら、
「うん」
と言った。
ハルトは、ジョニーからのイメージを見た。
たった一人の男の欲で、簡単に始まった核戦争。核兵器使用の結果も考えずに、核ミサイル発射の許可を出した愚かな、少数の政治家に、軍人達の姿、あまりにも軽率で、愚かな人達だとハルトは思った。
ハルトには分かっていた。いつか、この日がくるだろうと、そして世界中の多くの人々も、思っていただろう。ただ、皆はそれを、忘れるようにしていただけだ。今がよければいいだろうと、あまりにも軽く考え過ぎていた。ハルト自身も含めてだ。
ハルトは床に落ちた、機械を拾いながら、
「ジョニー、これをかぶればいいんだな」
ジョニーは頭を縦に振った。
ハルトはジョニーを見ると、機械を頭にかぶった。
そしてハルトの脳の中に、直接、この船の全ての操作方法が流れ込んだ。ハルトには、この船の全ての情報が伝えられた。ジェリーよりも、遙かに多い情報量、それにジェリーの知らない事も、ハルトには知らされていた。
3分程経ったであろうか、ハルトはゆっくりと目を開くと、
「あらためてジョニー、それにジェリー、よろしく」
と、ハルトは、はっきりとした口調で言った。
「初めましてハルトさん、ジョニーです」
これを聞いてハルトは、
「ハルトでいいよ」
少し笑いながら、ジョニーに言った。
しかし、次の瞬間にはハルトは真剣な顔で、
「ジョニー、ガルシアの横に転送してくれ、もう、敵の宇宙船が来ているのだろう。一言、ガルシアに別れが言いたくて」
ジョニーはこれを聞くと、
「ジェリー、頼む」
と言った。
ジェリーが、
「オーケー」
と言うと、ハルトはガルシアの元に戻った。
「キャッ」
ガルシアが叫んだ。
突然消えた、ハルトを探していたガルシアの目の前に、ハルトが幽霊のように、現れたので驚いたのだ。
「ハルト!」
かん高い、ガルシアの声が大きく響いた。
ハルトは耳に付けた通信機のスイッチを押すと、
「ジョニー頼む、説明するより早い。ガルシアに真実を伝えてくれ」
それを聞くとジョニーは、
「了解、分かった」
と返事すると、ガルシアにテレパシーで、メッセージを送った。
最初はジョニーの声が直接、頭の中に入ってきたのでガルシアは驚いたが、ジョニーだと実感すると、メッセージを受け入れた。
「ジョニー、これは核戦争じゃないの?」
ガルシアの疑問に、
「そう、核戦争ではないよ」
ジョニーが答えると、
「分かったわ。ハルトをよろしくたのむわよ、無事に連れて帰ってね。それにあなた達もよ」
ガルシアは、ジョニーが全世界の核物質を、爆発させたのを、メッセージで知らされたが、それで良かったと思った。人類が、核戦争で自滅するよりは、はるかに良い選択、あるいは運命だと思ったからだ。
「ガルシア、そろそろ行くよ。子供たちと、お袋を頼むよ」
ハルトが、ガルシアの頭をなぜながら言った。
「お母さんと子供たちは任せて、悪い宇宙人達を、やっつけてきてね!」
ガルシアの言葉を聞くとハルトは、
「もう行くよ。気をつけて」
「ハルトも、気をつけて」
そしてハルトは、
「ジョニー、転送してくれ」
と言うと、ハルトはガルシアの元を離れた。




