古代船
第27章
「ジョニー、すまない。核爆発を起こしたと聞いて、つい、カッとなってしまった」
ジェリーの、穏やかになった表情を見て、ジョニーは少しだけ安心した。
核爆発を起こした本人のジョニーは、今だに迷いはあったが、時間がもう、あまりない。
太陽がかなり西に傾いている。
「これで、私の話を信じることが出来ますか?」
ジョニーの言葉を聞くと、
「信じることが出来そうです」
少し控えめなジェリーの返事だ。
テレパシーによるズーラとの対話に、まだ、動揺しているようだ。
「ジェリー、私は見ました。このニュージーランドが宇宙人に攻撃されている未来を、もう、時間がありません。宇宙人は人間を皆殺しにするつもりです!」
ジョニーの真剣な目を見て、
「確か、今日ですね」
ジェリーはやっとの事で、今日という日の重大さを、知ったようだ。
ジョニーはジェリーとの出会いに、偶然ではなく、運命的なものを感じていた。
「とにかく、今は兵器を早く探さないと、この機械で!」
ジョニーが言った。
しかし、携帯電話のような画面はあるがボタンが一つもない。
ズーラの言ったあなたの力を使いなさい、という言葉がジョニーの頭から、離れなかった。
とりあえず、ジョニーとジェリーは、この機械が指し示す、島の北を目指して、歩き出した。
ジェリーは、ジョニーの後ろを歩いていた。
歩きながら、謎の宇宙人ズーラとの会話を、思い出していた。ジョニーの後ろ姿を見ながら、この人にそんなパワーがあるのかと、思っていた。どう見ても、ごく普通の人にしか見えない。まるでSF映画を見ているようだ。
しかし、あのズーラと名乗る宇宙人の声が、頭の中で聞こえたのは確かだ。信じられないことだが、夢でも幻覚でもなかった。それにISSで見た、あの地上での爆発、ISSのクルー全員が見た。これも現実だった。
ジェリーはこんなことを考えながら、ジョニーと共に森の中を歩いた。
そして、ようやく目の前が開けた。
湖面が見える。
「ここだ!」
ジョニーは機械を見ながら言った。
自分は今、この機械が指し示す場所に立っている。
後は、どうするのだ。
「どうしてらいいんだ! ズーラ!」
何をすればいいのか、困り果ててジョニーは、お大声を出した。
すると、突如、ジョニーの姿が消えた。
目の前で幽霊のように消えたジョニーを見て、ジェリーは信じられないような、顔をしていた。
「ここは何だ!」
「真っ暗だ」
「何も見えない」
ジョニーは真っ暗な、部屋の中に立っていた。
靴底から、今までいた場所とは、はっきりと違う感触が伝わってきた。
何か、硬いものの上に立っている。
風も感じない。
明らかに何かの中にいる。
ジョニーはSF映画のように、試してみた。
「ライト、オン」
すると、周りが少し明るくなった。
目が暗さに慣れると、
「こ、ここは・・・・・・・」
ジョニーの目の前には、宇宙船の操縦室が広がっていた。
「こ、これが5000万年前に滅びた人類の遺物なのか!」
ジョニーが驚いている間にも、次々と周りの装置が動き出した。
意味の分からない言葉が、それぞれの装置から発せられている。
「古代人の言語か?」
右手に持っている機械が、熱くなって赤い光を出している。
ジョニーが前を見ると、同じように赤い光を出している装置がある。その装置を目指してジョニーは歩いた。
ゆるい階段を降りて行き、その赤く光っている装置のそばに着くと、その装置は赤い光から、緑の光に変わった。
「言葉は何を言ってるか分からないし、一体どうすれば」
ジョニーは途方に暮れた。
そう思っていると、右手に持っている機械も、赤い光から緑色に変わった。
そして、いきなりだった。
ジョニーの頭の中に直接、テレパシーのようにビジュアルな映像と、声のようなものが大量に入ってきた。
それはこの古代船の情報だった。
操縦方法はもちろん、5000万年前に起こった出来事もジョニーの脳へ、直接、入っていった。
いつの間にか、気を失っていたのだろう。
ジョニーは倒れていた。
どれだけの時間が経ったのだろう。ジョニーは目を開き、しばらくの間、頭がボーっとしていた。
やっとのことで起き上がり、ゆっくりと周りを見ながら歩いた。
そして、ジョニーが操縦席らしい場所を見つけた。
座席に座ると、右手に持っていた装置を無意識に、同じ形をした、くぼみに入れた。
すると前方に映画館のような、大きなスクリーンが現れた。
スクリーンの光が周りを照らしている。
ここはまるで、高校の教室ほどの広さがある。
目の前にある装置には、不思議な文字が書かれている。不思議なことに、そう思うと装置の文字が次々と英語に変わっていった。
映し出されたスクリーンには、岩や小さな石、そして全体には土が映っている。
どうやら、この古代船は地中に埋もれているようだ。
そう思っていると、ジョニーの右にあるレーダーのような装置が、何かをとらえているたようだった。
意味不明な言葉を繰り返し発している。
まるで何かを、警告しているように聞こえる。
ジョニーが、
「くそ、何を言ってるか分からない!」
と思うと、意味不明な言葉が、明確な英語に変わった。
「警告、45億キロメートルに接近する物体有り」
同じことを繰り返し警告している。
これがズーラの言っていた、地球を侵略する宇宙人の宇宙船なのかと、
「今、どこだ」
とジョニーが聞くと、
「海王星付近を通常速度で移動中」
ジョニーの英語を理解して、コンピューターのようなものが、返事をしてきた。
「通常速度?」
ジョニーには、その意味が分からなかった。
「光速度以下の速度です」
コンピューターが言った。
スクリーンの左端にその様子が映し出されていた。
海王星の側を通り抜けていく、宇宙船が鮮明に見える。かなりの数だ。
それに大きそうだ。
海王星の大きさは知らないが、この画面にある海王星と比べると、その巨大さがよく分かる。こんな大きな物をこの古代船一隻だけで、全て破壊出来るのだろうか、しかし、破壊しなければならない。
ジョニーはこの様子を慌てもせず、冷静にスクリーンを見ていた。
まるで別人になったようだ。
いや、ジョニーはジョニーだ。
もう、覚悟を決めたからだ。
お驚くことも、逃げる事も決してしない。
地球を狙う敵から、地球を、家族を、守るとジョニーは決心した。
レーダー画面の中心に映っているのは、この古代船のようだ。
かない近い、まだ海王星付近にいるはずなのだが、
「未確認物体、接近中」
「未確認物体、接近中、10秒後に大気圏に入ります」
警告は続いた。
もしかしてと思い、ジョニーは、
「スクリーンに表示」
とジョニーが言うと、目に入った映像はさっきまで海王星付近にいた、宇宙船団の一隻だ。
間違いない。
一隻だけワープして来たのか、ジョニーは急がなければならないと思った。
地球が壊滅状態の今、宇宙人の攻撃目標はここニュージーランドだけだ。
ジョニーは自然に操縦桿をしっかり握ると、
「発進!」
と言った。
そして、古代船は5000万年の時を超えて、再び地上に姿を現そうとしていた。
第28章
ジェリーはジョニーが忽然と消えた後、どうしたらよいか分からなくて、その場に留まっていた。
「ゴーー、ゴーー」
地鳴りが鳴った。
ジェリーは、地震かと思った。
次の瞬間、立っていられないほど、地面が揺れ始めた。 湖面が激しく波立っている。
ジェリーの足元まで、水がやって来た。
視線を移すと、そこらじゅうから、水がしみ出ている。
ジェリーはこれはおかしい、ただの地震ではないと直感した。
「この島は沈むのか」
すると、湖の中央で泥水が吹き出してきた。
まるで火山の噴火のようだ。
そして更に、揺れが激しくなってきた。
もう、腰のあたりまで水に、つかってしまっている。
湖面からは泥の塊が、さかんに吹き出している。
とうとう、水はジェリーの胸まで上がってきた。
もう、これ以上はダメだ。
泳いで岸まで行こうと思った。
「ジョニーはどうなったんだ!」
「ジョニー!」
ジェリーは大声で叫んだ。
地面から足を離し、泳ぎ出したジェリーの背後から、大きな波がやって来た。
なんだ、この波はとジェリーは、後ろを振り返った。
すると、
「あれは何だ!」
ジェリーが目にしたのは、高層ビル程の高さがある、巨大な何かだった。
あまりの大きさに、ジェリーには何か分からなかった。
泳ぎながら方向を変えて、その巨大なものを見たが、その巨大さのため、ジェリーは全体を見ることは出来なかった。
目に入るのは、壁のようなものだけだった。
「ジェリー、来い!」
ジョニーの声が頭の中で聞こえた。
テレパシーだ。
すると、ジェリーの姿は湖面から消えた。
湖面に現れたのは、ジョニーが乗った、全長700メートルもある、巨大な古代船だった。
「ここはどこだ!」
ジェリーは、見たこともない部屋に立っていた。
ただ、思った。
「まるで映画の転送室だ!」
ジェリーは、ジョニーの乗っている古代船の中にいた。
転送されて来たのだ。
「ジェリー、こっちまで来てくれ」
ジョニーが呼んでいる。
今度は、テレパシーではなく、耳から聞こえた。
すると、これが侵略者に対抗する、兵器の中なのかとジェリーは思った。
ISSなど比較にならない巨大さだ。
「20階の操縦室だ。ジェリー」
ジェリーは右も左も分からない。
「どう、行くんだ、ジョニー」
ジェリーが困っていると、
「赤いラインが目印だ。エレベーターは音声に従う。20階まで来てくれ」
ジェリーは転送室から出ると、長い廊下に出た。
すると、床に赤いラインが光っていた。
そしてラインが示す方向に、向かって歩いた。
しばらく歩いてエレベーターの前に着くと、エレベーターのドアが自動で開いた。
階数のボタンがなかったので、仕方が無く、
「20階まで」
とジェリーが言うと、20階のランプが自動的についた。
25の数字が薄く見える。ジェリーはまるで、高層ビルだと、あまりの巨大さに驚いた。
20階まで上がり、再び赤いラインに沿って歩くと、操縦室と書かれたドアの前に着いた。
前に立つとドアが自動で開き、中から、
「ジェリー、よく来てくれた!」
前には大きなスクリーンがあり、ジョニーはその手前に立って、手を振っていた。
「ジョニー、これが5000万年前に絶滅した人類の遺物なのか、これが古代船なのか! これで宇宙人と戦うのか!」
ジェリーは、興奮気味で言った。
「そうだ。これがズーラの言っていた兵器だ」
ジョニーの返事を聞きながら、ジェリーは階段を降りていった。
「ジョニー、宇宙人がやって来たぞ!」
ジェリーは驚いた。
あまりにも突然過ぎたからだ。
「も、もう、来てるのか!」
ジェリーは次々と起こる、ありえない出来事に戸惑った。
「これを見ろ、この点が宇宙人の乗っている宇宙船だ」
ジョニーはレーダーのようなものを、指さして言った。
ジェリーは聞きたいことが山のようにあったが、もう、侵略者が来ているなら現実に対応するしかない。
ジェリーの、頭の切り替えは早かった。
「これが?」
ジェリーが聞くと、
「これは一隻だけだ」
そしてジョニーはレーダーを操作すると、別の画面が現れ、そこには無数の点が映っていた。
「これが宇宙人の船団だ。まだ、海王星付近にいる」
ジョニーは無数の点を指さして言った。
「海王星? こんなに多く!」
ジェリーにとっては、とても遠いところに、船団がいると思えた。
それに、ジェリーは敵の宇宙船が、ワープ出来ることを知らなかった。
ジェリーは、NASAの現役宇宙飛行士だ。ワープなんて空想の世界の話だ。
海王星は太陽系の中で一番遠い惑星だ。
このレーダーに映っている船団が、ワープによって、すぐに地球に来るとは思っていない。
「この船団もすぐにやって来る」
ジョニーが真剣な顔で言うと、
「太陽系のはしだろ、すぐには来ないさ」
ジェリーは軽く言ったが、
「ジェリー、よく聞いてくれ、ワープですぐにやって来る!」
ジョニーの言葉に、
「ワ、ワープ?」
ジェリーが不思議そうに言った。
「そうだ。今は光速以下で移動しているが、ワープで一瞬にして地球にやって来る」
ジョニーが言うと、
「そんな! まさか!」
ジェリーは、そんなバカなと、言いたかったのだろう。
しかし、ジョニーが言ってるから、受け入れるしかない。
5000万年前の宇宙船の中だ。ここでは何でもありだと、ジェリーは思った。
ジョニーは更に言った。
「この遺物もワープが出来る。いや、名前があるんだ。リジェネレート、宇宙空間を自由に飛ぶことの出来るスターシップだ。ジェリー、こっちに来てくれ」
ジョニーはそう言うと、隣の席に座るよう手招きした。
ジョニーが座ると、
「これを着けてくれ」
ジョニーはヘッドフォンのような物を、ジェリーに手渡した。
ジェリーがそれをかぶるのを見届けると、ジョニーは目の前にならんでいる、スイッチの一つを押した。
すると、ジェリーの両方の耳にあたっている部分が光りだした。
初めは、ジェリーは驚いた顔をしていたが、やがて両目を閉じた。
そしてオンラインのアクセスランプが、点いた。
ジェリーの脳に直接、この古代船の情報が、インプットされ始めたのだ。
ジョニーはその間、あることを考えていた。
それはニュージーランドにいる、ハルトのことだった。ハルトの助けが欲しかった。
宇宙人はもう、地球に来ている。じきに、ニュージーランドを襲うだろう。ジョニーはレーダーに映っている宇宙船を目で追った。
宇宙船はヨーローッパ上空にいた。




