目的地
第24章
翌朝、ジョニーは無線機の声に起こされた。
「おーい、おーい」
これはハルトの声だ。
しかし、こんな遠くに電波が、届くはずがない。それに無線機の電源を入れた覚えもない。無線機を見ると、周波数はいつもの51.2MHzだ。
「おーいハルトか、こちらE5KRC303!」
ジョニーはハンドマイクを握って、応答した。
「了解、E5KRC303、こちらE5KRC301、ジョニー良く聞こえるぞ!」
ハルトだ、間違いない。
同時に、ジョニーの頭をよぎったのは、今まで経験したこと、ズーラの存在や、これから先、起こる未来のことを話すかどうか、迷った。
「心配してたんだぞ、こっちは大変なことになってるぞ!」
ハルトのいる、オークランドが、どういう状態になっているかは、大体、想像出来た。
テレビで、
「核戦争」
が始まったと、言ったからだ。
でも、ハルトに助けてもらいたい。
ハルトは頼りになる存在だ。
一緒に侵略者と、戦ってもらいたい。
この気持ちはどうにも、抑えることは出来なかった。
「ハルト、実は」
ジョニーは言葉につまった。
ハルトには自分と違って、結婚していて、奥さんのガルシア、それに息子や娘がいる。自分と同じで、老いたお母さんもいる。
命の保証もない、侵略者との戦いに、巻き込むことは出来ない。
もともと、自分に課せられた戦いだ。
「どうした、ジョニー」
ジョニーはすぐに、返事が出来なかった。
無線機からは、少しの雑音だけが鳴っていた。
ジョニーは迷った。
しかし、いづれにせよ、ハルトも侵略者の攻撃を、受けることになる。
タウポ湖に行って、ズーラの言う兵器を、見つけてからでも遅くない。
それから考えることにしよう。
急ぐことはない。
「ハルト、帰りが少し遅くなる」
今は、それしか言えない。
「何で遅くなるんだ、どうぞ」
「タウポ湖に行く」
ハルトに嘘はつきたくない。
「タウポ湖に行く? 遠いぞ!」
ジョニーは車のエンジンをかけた。
そして走り出した。
「ハルト、タウポ湖に行く必要があるんだ。どうぞ」
車が走り出しても無線は、安定して入っている。
「何でそんな遠い所に、今?」
ハルトの言う通りだ。
こんな時、早く家に帰らないのは、おかしい。しかし、ジョニーにはどうしても、やらなければならないことがある。
「どうしても、やることがあるんだ。どうぞ」
ジョニーは正直に言った。
「やることがあるって、どんなことだ」
ハルトの質問にはっきりと、答えることが出来ない。
実際、これからタウポ湖に行って、何が起こるのかも、分からないからだ。
「ハルト、詳しいことはタウポ湖に着いてから話す」
無線はまだ、安定して入っている。
多分、タウポ湖まで、届くだろうと思った。
「何をやるのか、よく分からないが、ジョニー、こんな時だ、気を付けて行けよ。タウボ湖に着いたら必ず呼べよ。どうぞ」
「わかった。ハルト、必ず呼ぶからな」
「了解、ジョニー、また後でな」
そしてジョニーは、無線機をつけたまま、そのまま5号線を走った。
タウポ湖まであと100キロだ。
ハルトの電波が、ここまで届いたのは多分、ズーラの張ったシールドのせいだろう。
オークランドを出発した時は、夜空に薄っすらとしか見えなかったシールドだが、今は明るくても、空全体が、緑色のベールで覆われているのが、はっきりと見える。きっと、電波がこれに反射して、ここまで飛んできたのだろう。
時間を見ると10時過ぎだ。まだ、朝食を食べていなかった。
ジョニーは車を道路の脇に止め、残りのパンを食べ、牛乳を飲んだ。そしていつも通り、タバコを取り出し、一服した。タバコを吸うと心が落ち着くのだ。
タバコの火を消すと、眠気に誘われ、うたた寝をした。うたた寝を始めてから10分程たつと、ふとしたはずみで、ジョニーはビクッとして、目を覚ました。
喉が渇いたので缶コーヒーを飲もうと、いつも助手席の後ろに、吊るしたままの、自動車用冷蔵庫に手を伸ばした。後ろを振り返る時に、軽いめまいを感じた。
その時、タウポ湖に浮かんでいる、島のイメージが見えた。
「これが目的地なのか」
ジョニーは、ナビの画面を見た。
ナビは相変わらず、ジョニーの自宅を、示したままだ。GPSの信号が、入ってこないからだ。試しにGPSの位置情報画面にしたが、地球の周りには、GPS衛星は1台も映っていない。世界中の核が爆発したのだ、何が起こっても、不思議なことではない。
ナビを操作して、タウポ湖を出した。タウポ湖まで、後、もう少しだ。縮尺を変えて、タウポ湖を大きくした。すると、タウポ湖に一つだけ、島がある。
「これだ、この島だ」
さっき見たイメージと同じだ。
更にその島を拡大したが、モトゥタイ島と、島の名前は分かったが、島の輪郭が広がるだけで、島の中には何もない。真っ白だ。多分、無人島だ。目測だが、岸から5キロ以上は離れている。
「泳いで行くのか? まさか・・・・・・・」
とにかく、この島に一番近い所を、目指すことにした。
その場所は1号線沿いにある、モトゥテレ湾という所だ。
ジョニーは再び走り出した。
1時間程走ると、レイク・タウポと、書かれた看板があった。看板の矢印方向にハンドルを切り、郊外を走るとタウポ湖が見えてきた。
ジョニーは車を止めた。
「ここがタウポ湖か」
エンジンを切り車を降りた。
まるで海のように見える。
大きな湖だ。
「この湖のどこかに、ズーラが言った兵器が、眠っているのか」
空の緑色のシールドが、湖面に映って美しい。
だが、美しいと思いながらも、あらためて、ここに来た目的を感じさせる。
ジョニーはタバコに火を付け、大きく吸い込んだ。風が心地いい。そして、オークランドにいる、家族のことを思った。
まさか、こんなことになると、は思ってなかった。
以前、鬱病で苦しんでいた時に、登っていた 山の、看板の言葉を、思い出させる。
「一寸先は闇」
まさに、言葉通りだ。
死を感じさせる言葉だ。
人は誰しもいつかは死ぬ運命にある。ただ、いつ死ぬかは誰も、分からないだけだ。
ジョニーは時間を見るために、携帯電話を車まで取りに行った。
そして携帯を広げると、
「12月24日!」
ジョニーは驚いた。
「あれからもう、2日も経つのか!」
携帯電話が手から離れ、地面に落ちた。
「今日が侵略の日だ!」
ジョニーは思わず、空を見上げた。
「まだだ、まだ、来ていない」
しかし、もう、あまり時間はない。
今日中に、宇宙人による侵略が始まる。
ジョニーは車に乗ると、走り出した。
人類が自滅する核戦争が、始まるのは今日だった。そして、宇宙人が、地球を侵略して来るのも、今日だ。
未来が2つに分かれていた。
ジョニーがその前に、地球上の全ての核物質を、爆発させたため、未来は核戦争を避け、宇宙人侵略の方向に向かった。
人類がお互いを殺し合い、絶滅するよりは、希望の持てる方向に、未来が流れたと考えるしかない。
希望はある。
ジョニーはこう思うしかないと、いずれにしても、24日は人類にとって、大きな転機だ。
それにしても、時間とは不思議なものだ。未来がいくつにも分かれている。良い、悪いは関係なしでだ。
そして今、人類が生き残れるかは、自分の手にゆだねられた。
もう、迷うことはない。
まずは、生き残ることだ。
「モトゥテレ湾まで後、数キロだ」
湖岸沿いに車を飛ばした。
見覚えのある建物を通り過ぎると、ジョニーは急ブレーキを踏んだ。
そして、そのまま真っ直ぐにバックした。
「これだ!」
イメージに現れた、建物だ。
平屋の古い家だ。
タウポ湖の前に、建っている。
白塗りで近くによると、この家の住人が、自分の手で塗ったようだ。むらが、あるからよく分かる。今は人が住んでいる、様子はない。前を見ると、島がよくみ見える。思ったより近そうだ。しかし、夏とはいえ、あの島まで、泳いで行くのはキツイだろう。溺れてしまっては、何もかも、おしまいだ。
ジョニーは、その家の、囲いの、隙間を覗いて見た。
「いいものがあるぞ」
目に入ったのは、野ざらしにされた、ウィンドサーフィンのボードだった。
「これなら、いける」
ジョニーは家の表に回って、ボードのある裏庭に入った。
人はいない。
周りを見渡して、汚れた大きめの、白いボードを片手で、担いで運び出した。
そしてボードを、浜に置くと、車に戻った。
リアのドアを開け、
「確か、このケースの中か?」
後ろに積みっぱなしの、ケースのバックルを外し、何かを探し始めた。
「あった」
手には昔、ウィンドサーフィンをやっていた時の、古いロープを持っていた。
車をロックし、キーを、後部タイヤの後ろに隠した。生きて戻って、来れるかどうか、分からない状態だったが、無意識にいつものように、キーを隠した。
「さぁ、行くぞ!」
ジョニーはボードを湖面に浮かべると、靴を脱いで、靴同士を互いの紐で、くくった。そして探し出したロープを使って、靴をボードのテール部分に、くくりつけた。
泳げるとはいえ、靴を履いたまま、ボードから落ちると溺れかねない。経験上、分かっていた。靴を履いたままでは泳げない。
ジョニーはボードの上に乗ると、ゆっくりと、パドリングを始めた。風はほとんど、吹いていない。ボードが長めなので、安定してパドルが出来る。ほとんど、疲れない。湖面の上を滑るように進んだ。目指すのは前に見えている、島だ。
パドルしながら湖面を見ると、水が澄んでいるのが、よく分かる。浜から、50メートル程しか離れていないが、湖面をちらっと見ると、濃いブルーに変わっていた。かなり深そうだ。それに、水もかなり、冷たくなってきている。
それでも、さすがに腕が疲れてきたので、漕ぐのをやめ、休憩をとった。風が吹いてないので、流される心配はない。休憩をとりながらも、少しずつ進んでいった。
島は目の前に見えたが、ナビで見た距離とはずいぶん違う。ふと、不安を感じた。
「たどり着けるだろうか」
後ろを見ると岸はもう、小さく見え、遥か彼方にあった。
パドルだけでここまで来たが、ウィンドサーフィンをやっていた時とは違う。
風の力を借りて、一気に数キロも進むことは出来ない。服を着たまま夢中で、ここまで来たが、不安を感じ始めた。
「せめてウェットを着ていたら」
ウェットスーツを着ていると、浮力の少ない淡水でも、浮かんでいられる。ウェットスーツ自身に、浮力があるからだ。反対に、服を着ていると、落ちた時、服が水を吸い、オモリになってしまって、体が沈んでしまう。海のように体の浮力だけでは浮いていられない。それが湖だ。
ジョニーは重くなった腕を、再び動かした。
「行かねば」
この思いだけで、重い腕を動かした。疲れ過ぎないようゆっくりと漕いだ。
第25章
前を見ないで漕いでいると、木の葉っぱが横を通り過ぎた。見上げると、そこには、
うっそうとした森が、目の前にあった。
「着いた!」
私は体を休めるため、全身の力をぬき、しばらく島のほとりに浮いていた。
5分程すると、私は再び漕ぎ始めた。
そしてやっとのことで、目的の島にたどり着いた。
しかし、島から木がせり出していて、上陸することが出来ない。思い切ってボードから降りたが、深過ぎて、足が届かない。仕方がないので、再びボードに乗って、島の周囲を回ることにした。
島の西の端に近づくと、足の届きそうな所がある。水面の色が、そこだけ、エメラルドグリーンになっている。水深が浅い証拠だ。そこまで漕いで行くと私は、ボードからゆっくりと降りた。
ごつごつとした岩の感触が、靴下を履いた足から、伝わってきた。ここだけ岩が、島つづきに張り出している。でも、森が行く手をさえぎっていた。ボードにくくっていた靴を履くと、覚悟を決めて、森に入って行った。
島の中心部へと自然に、足が向いた。
私は歩きながら考えた。
2017年12月24日には2つの、未来があった。一つは、世界中の誰しも、起こると思っていた、核戦争だ。ひとたび、国と国との、大規模な戦争が起こると、核兵器が使われるのは、目に見えている。そのための核だ。
そして私はもちろん、人類は自滅してしまう。
今まで人類は、戦争、あるいは戦争と名がつかなくても、人を平気で殺してきた。ひどいものになると、今まで、仲良くしていた隣の住人さえ、部族が違うという理由で、無残にも殺している。しかも、なんの後悔も残さずにだ。
こんなことを思うと、人類が自滅するのは、時間だけの問題だったのかも知れない。
もう一つの未来は、宇宙人による地球侵略だ。これは予想もしていない出来事だ。
私自身も、想像だに、しなかった事態だ。しかも、これによっても、人類は滅亡する。
いずれにしても、2017年12月24日は、人類が滅亡する日なのか、いや、違う。私が世界中の核を爆発させた今、もう、核戦争は絶対に起こらない。なぜなら、人類にはもう、核は存在せず、私が爆発させた全ての核によって、人類は、すでに瀕死状態だからだ。
ただ、ニュージーランドだけは、今もズーラによって、守られている。そして、私の行動一つで、人類絶滅の危機を、回避出来ると言う。
「いや、侵略者から守らなければ」
私も、私の家族も、侵略者によって無残に、殺されるのはごめんだ。
運命はすでに、宇宙人の侵略の方向に、向かっている。なんとか、ズーラの言う、兵器を見つけ出さねばならない。
私は、ぬかるんだ森を歩き続けた。
しばらくの間、ぬかるんだ土に、足をとられないよう、気を付けて歩いていると、森が途切れた。周りに、木が生えていない場所に出た。ふと、視線を移すと、円形になっている場所に、石の柱のようなものが、中心に立っているのが目に入った。
「何だろう」
と思って近づくと、足がぬかるみに取られ、前のめりに倒れてしまった。
ちょうど頭に石の柱が当たり、目から火花が散った。
痛いと思いながら、立ち上がると、いつの間にか左手に何か握っている。
頭をさすりながら、左手を見ると、泥まみれになった少し大きめの、まるで携帯電話のような物を、持っていた。
泥を落とすと、画面が出てきた。このサイズの携帯電話にしては、あまりにも軽過ぎる。プラスチックでも、金属でもない。まるで、鳥の羽で作られたように、軽い。
よく見ると、画面の少し上に何か、文字が書いてある。が、英語ではない。今まで、見たことのない文字だ。インターネットで、さまざまな国の文字を、見てきたが、こんなのは初めて見る。まるで太古の象形文字のようだ。
よく見ようと、汚れた画面を、手で、ぬぐっていると突然、画面がパッと光り私は驚いた。
すると、画面の上にあった不思議な文字は、消えていた。
その携帯電話のような物を見ていると、急に左目の視界が悪くなった。
びっくりして瞼のあたりに手をやると、血が付いている。倒れた時、石の柱で、頭のどこかを切ったようだ。
血は、それほど流れ出てこない。傷は大したことは、ないようだ。私は頭を、打った石の柱を見た。すると、不思議な事にその石の柱は青白く光ながら、地面に沈んで行った、そして、続いて地響きのような音が、聞こえたかと思うと、地面が揺れ始めた。
「地震か!」
揺れは上下に激しく揺れた。
立っていられなくなって、地面に手をついた。周りにある木が、大きく揺れている。揺れはしばらく続いた。
どのくらい揺れていたのだろう、激しい揺れはやっとおさまった。
揺れはおさまったが、何かが変だ。
島の空気と言うか、雰囲気が、ガラッと変わったのを感じる。
なんだか、ドキドキする。
何かが、始まりそうな気がする。
その場に立って、何かを待った。
しかし、
「何も起こらない」
何かが、起こるのを期待したが、何か起こる気配を今は、感じない。仕方なく私は、この場所を離れ、再び歩き出した。
うっそうと木が茂る森へと、入って行った。
ぬかるみに、また、足をとられないように、気を付けて歩いていると、地面が大きく、えぐれている所に出た。まるで何か、引きずった後のようだった。
それは、ずっと続いていた。私はその後を追って、また転ばないように歩いた。
大きな物が通ったように、地面がえぐられ、周りにある木は、なぎ倒されていた。その後をたどって、かなり歩いた。そして私は、島の反対側に出た。
そこには驚くべき物があった。




