1.1 大林誠
雨が、落ちてくる。
為すすべもなくアスファルトに叩きつけられた雨粒が四方に飛散する。まるで強固な意志を持って咲いた、季節はずれの蒲公英のように。
雨が、降りてくる。
八千メートルのはるか上空から、人を嘲笑うよう無慈悲に降り続ける。何百メートルの高層ビルも、雨雲には届きそうにない。
紺色の傘の下、彼は黒いYシャツの胸ポケットから煙草を取り出し、最後の一本を口にくわえた。だが、その煙草は火を着けられることなく、元の紺色の箱に仕舞われた。
「ったく……」
ライターを忘れた自分の間抜けさに、彼は小さく悪態をついた。
スニーカーが浸水するほどの豪雨だというのに、彼は秋葉原のメインストリートに出ていた。平日の昼間という時間帯と、消え去るにはまだ随分と時間がかかりそうな梅雨前線が、混雑した日には人の間を縫わないと進めないこの通りから多くの人を遠ざけていた。
今ここを歩いてる顔ぶれといえば、仕事のために嫌々ながらもここを通らなければならない社会人か、今日も熱心なサブカルチャー愛好家か、学校帰りの学生のどれかである。普段はよく見る外国人観光客や、髪の毛を蛍光色に染色した奇抜なパフォーマーの姿は周囲を見回しても見当たらない。ゲームセンターにたむろする学生服の集団を尻目に、彼は目的地に急いだ。
彼の向かう先は、この町がまだろくに開発されてない頃から店を構えている、老舗のラジオ屋である。買わなければいけないものがまだ半分ほど残っていたので、彼が湿った靴下を脱ぐのはまだ先のことになる。
『それでは、昭和八十六年七月十九日火曜日、三時のニュースをお伝えします』
平塚無線の店内では、今日も店長自慢の自作ラジオから、国営放送のニュースが誰に呼びかけるわけでもなく流れていた。店内には散らかった子供部屋のように乱雑に物が置かれており、ここから必要な物を一つだけ買うとなるとそれだけで重労働に値する。もっとも、ここの店長と常連客にはそんなことは朝飯前だが。
「よぉ了ちゃん、しばらく顔を見せないもんだから、てっきり廃業したもんだ思ったよ」
店の奥からラジオに紛れて店長のだみ声が聞こえてきた。彼の特徴的な声は、電波の悪い状態のAMラジオに聞こえなくもない。親しみと皮肉が同居したその台詞が自分に向けられたものだと、了一はすぐに気づいた。なにせ『了ちゃん』なんて子供じみた呼び方をするのは、小学校の頃の同級生を除けば、悪趣味なアロハシャツを着たこの髭面の店主だけだからである。
「辞めたくたって、客が辞めさせてくれないよ」
彼がこんな土砂降りの中買い物をする羽目になったのも、新規の仕事が立て続けに二件も依頼されたからである。手持ちの部品は一件目で使い尽くしてしまったので、二件目に備え早めに部品を用意することにしたのだ。
「ガワ屋は儲かっていいねぇ。こっちはお前さんみたいな大口の顧客がいなきゃ、とっくに路上に放り投げられてるよ」
「よく言うよな、そんな高そうな金のネックレスを首から提げておいて」
悪趣味なアロハシャツによく似合う、悪趣味な金のネックレスが光った、気がした。
「ところで俺は、あんたとおしゃべりに来たんじゃない。買いものに来たんだ。そういう訳でナカヤマのを二体分、スピカんとこを一体分。あと、念のためD&Fの分も一つもらっとくよ」
何年も通い詰めてるだけあって、煩わしい詳細な注文を一言で済ませられるのが了一にとっての一番の利点である。
「全部で五体分もか?いやいや了ちゃん、このままじゃあっと言う間に長者番付に載りそうだな。ちょっと待ってろ、すぐ持ってくる」
しかし一番の難点は、毎回店主に冷やかされることに違いないと、了一は店長の言葉を聞き流しながら確信した。
それでも人との交流の少ない自営業で飯を食っている了一には、ここの店主との世間話は数少ない外部との交流だった。テレビはおろか新聞さえ読まない了一にとっては、この店で流れる国営放送は貴重な情報源になっていた。
髭面の店主が店の奥に消えたので、了一は店内を流れるラジオのニュースに注意を向けた。
『続いて、昨日のサッカー日米親善試合、スピカカップについてお知らせします。前半15分、フォワードの……』
了一が興味のないサッカーの話題を聞いていると、店主が大量の電子部品を小分けに入れたビニール袋を右手から提げて帰ってきた。
「ほらよ、全部で八万五千円。あとこの間の晩飯代も入れて九万ってところかな」
「おい待て、三か月も前の事を掘り返すな」
財布から八万五千円を取り出し、店主にぶっきらぼうに差し出す。代金を確認すると髭面の店主は、すがるような表情、たかっているといった方がここでは正しいかもしれない、を浮かべた。
「そう言わないでくれよ、な?な?困ったときはお互い様だろ?」
この男は高頻度で金欠になるが、その理由はいたって単純である。
「行きつけのキャバクラに、新人でも入ったとか?」
「そうなんだよ!それがさ、ちょーっと田舎っぽいんだけど、俺好みの巨乳チャンでさ……っておーい了ちゃん、五千円払ってくれないのかよ?」
「悪いけど、あんたの性欲に払う金はないよ」
『今月相ついで三件発生したトラックの脱輪事故についてですが、販売元の……』
部品が入ったビニール袋を左手に持ち、国営放送が流れる古臭い店を後にした。
ビニール袋に雨が入らないように袋の口をきつく縛り、彼は次の目的地、行きつけの煙草屋に足を向けた。
平塚無線よりも古い歴史を誇るそれは、店舗も改装せずにJRの高架下で六十年近く営業している。雨が当たらない場所で傘を畳み、カウンターを覗き込んだ。
そこには、熱心に文庫本を読んでいる、中学校指定の深緑色のジャージを着た、ショートカットの少女がいた。
「こんにちは若葉ちゃん。学校はもう終わり?」
突然声をかけられたからだろうか、彼女は一瞬肩を震わせてから、驚いた表情でカウンターの前に立つ声の主を見た。そして、そこに立っているのが木崎了一だと気づくと、その表情は柔らく人懐っこい微笑みに変わった。
「こんにちは了一さん。今日はケイさんはご一緒じゃないんですか?」
ケイ、とは了一の店の従業員で彼と一緒に暮らしているロボットのことを指している。もとの体は無機質な灰色のブロックをつなぎ合わしたような物だったが、了一の手によってその姿は人間と同じものに変えられていた。
「随分と簡単に言ってくれるね……警察にでも見つかったら、しんどい事になるっていうのに」
「そういえば、法律で禁止されてるんでしたっけ?」
現在のこの国の法律では、外観や本体の機能を大きく改造されたロボットを私有地の外に出すことは、名目上は防犯上の理由で禁止されている。それは至極もっともな理由に聞こえるが、実際のところ、自分たちと同じ姿を持った隣人に対する嫌悪感や不安感から禁止されてると言い換えてもいいだろう。人間と同じ姿をした機械が堂々と街を歩く事を許せるほどには、この国も人もまだ優しくはないのだ。
「『でしたっけ?』じゃないよ全く……まぁあいつに会いたくなったら、いつでも家に来てくれよ。コーヒーぐらいなら出すからさ」
「そうですね。その時はおいしいお菓子、持ってきます」
了一は、彼女の笑顔が好きだった。無邪気なそれは、小学校の頃教室で飼育されていた小動物を連想させた。
「あぁ、あいつもきっと喜ぶよ。それはそうと、忘れるところだった」
彼にとって、この素直な少女との会話は、ここに来た本来の目的を忘れるぐらいには楽しい物だった。
「何を忘れてたんですか?」
若葉は、彼が何を忘れていたのか本当にわからない、と言わんばかりに首を小さくかしげた。彼と他愛もない話を交わす事は、彼がここにいる理由には十分すぎるのだから。
「ショートピース、七つ……いや、五つ。それと、ライター借りてもいい?
駅前から歩いて八分の距離にある、雑居ビルの三階の扉に『木崎工務店』と書かれた木製のプレートが掲げられていた。『工務店』と書かれてはいるが、文字通りに工事を請け負う仕事を行ってはいない。違法と合法の間を漂う仕事の危険対策の一つとして、この業種を騙っているだけである。
ポケットから安物の京都の土産のキーホルダーが付けられた鍵を取り出し、二つの鍵穴を上から順に解錠していく。ドアノブに手をかけその重い鉄の扉を開き、ただいま、とこの店唯一の従業員に向けて小さくつぶやいた。しかし、彼のその声は年代物の掃除機が立てる轟音に虚しくもかき消されてしまった。
「ただいまーっ」
ドアを閉めながら、意地になって声をさらに張り上げて言ってみた。それでも、彼の声は掃除機の音を止めさせるほどの大きさはなかった。
「たーだーっ、いーまーっ!」
意地と声を最大限まで張り上げた三度目の叫び声でようやく、掃除機のモーターが止まる音が聞こえてきた。そろそろ新しい掃除機を買い替える時期かもしれないな、と彼は思った。
カーペットに掃除機をかけていたケイが、顔だけ向けて、おかえりなさい、と面倒くさそうに答えた。
「たーだーっ、いーまーっ!」
掃除機の音はもう聞こえないのに、彼は先ほどと同じように意地と声を張り上げて答えた。
掃除機の轟音が、当てつけのように返ってきた。
「あのねぇ」
彼女の反応に呆れ果てた了一は、説教の一つでもしてやろうかと考えていた。彼は煙草屋で受け取った紙袋から煙草を一箱取り出し、ビニールの外袋を綺麗に取り去ると、それを丸めてジーパンのポケットにねじ込んだ。
掃除機の轟音が止む気配は今のところない。
先ほど開封したピースを箱から一本引き抜き、落ちないようにしっかりと口で咥えた。それから応接間の灰皿の横に置かれたライターを手に取り、くわえていた煙草の先端に火をつけた。灰色の煙を肺に詰め込んだどころで、彼の苛立ちは収まりはしなかったが。
そこでようやく、掃除機の電源が再び切られた。
「なぁケイ」
「リョーイチさん、私の服が臭くなるので外で吸ってください」
彼女の態度を注意しようかと考えていた了一だったが、逆に叱られる形となってしまったことに、彼はばつの悪い空気をこの部屋から感じていた。彼女の言い分は反論できないほどには正しい物だったので、了一は咥えた煙草から煙を吐き出しながら、雨が少しだけ入ってくるベランダに、苛立たしげな大股で歩き出した。その姿をケイは、昨日テレビで見た蒸気機関車みたいだなと不意に思ったが、掃除がまだ終わってないことを思い出し、再び掃除機をかけ始めた。
三階のベランダから見下ろす小さな路地からは、鞄を傘代わりにして地下鉄へと急いで走る、ダークグレーのスーツを着た若いサラリーマンが見えた。平凡なその姿は、有り得なかった自分の将来を見ているような錯覚に了一を陥らせた。
彼は思った。
あの時、もっと早くあの場所に行れば、この路地を走っているのは自分ではなかったのか。あの場所で、手を伸ばせたなら、違う道を選べたのだろうか。
激しい後悔と強い自責の念が了一の気分を沈ませた。
学生時代、誰かに語った彼の夢は、このビルのどこにも見当たらない。代わりに手に入れたものは何だろうかと辺りを見回す。夢をつかむはずだった彼の右手には、ただ両切りの紙巻きたばこがあるだけだった。
彼は睨むように雨雲を見上げる。止みそうもない雨に彼は憂鬱な気分に負けそうになったが、鼻をつく煙と部屋から聞こえてくる掃除機の轟音が、今の自分もそう捨てたもんじゃないだろ、と教えてくれた気がした。
半分ほど灰になった煙草を、彼はベランダにしばらく放置され灰皿代わりに使用されてるジンジャエールの缶の口に押し付け、頼まれた仕事をこなすため工房に改築した一番奥の部屋に向かった。
「うちのロボットを、人間にして欲しいんです」
五日前、大林誠と名乗る三十代半ばの会社員が、深刻な表情で木崎工務店店主の木崎了一に向かって言った。彼の左手の薬指には蛍光灯の光を反射する銀色の指輪がはめられていた。
「あのですね、別に俺はお伽話に出てくる魔法使いってわけじゃないんです。ただプラスチックの外装をシリコンの体に変える事で飯を食っているだけなんです」
小学生でもしないような勘違いをした大林の誤解を正すために、了一は懇切丁寧に説明した。
外装が強化プラスチックからシリコンに変わるだけであって、本質的にロボットは何一つ変わらないという事を。
外観を大きく変えることによって、私有地の外にロボットを連れ出せば逮捕される可能性が十分にあるという事を。
さらに、そのロボットの容姿を家族や友人、恋人に似せることは絶対に止めるべきだという事を。
「そうですね。誰かに似せたところでアリスはアリスであることに変わりはないんですから」
「理解が早くて助かります。ところでアリスというのはお宅のロボットのことですか?」
「えぇ、細かいところに気がつくいい子なんですが……」
大林は、アリスについての全てを言い尽くす前に言葉を詰まらせた。その表情や口調から、何かまた問題を抱えた客だろうと了一は確信した。そもそも百五十万円も支払って工作を依頼してくるのはそういう人間がよくいるからである。
「こんなこと私が言うのもなんですが大林さん。そのアリスが上手くあなたの生活に溶け込んでいるんだったら、高い金を払って人に似せる必要はないと思いますよ」
ケイが先ほど淹れたばかりのコーヒーを無言で二人の前に丁寧に置いた。了一はそれに当然のように口をつけ、対照的に大林は、どうも、と小さく礼を述べてから、ソーサーの上に置かれた砂糖とミルクをコーヒーの中に入れスプーンでかき混ぜ始めた。
「えぇ、私もそう思うんですが、実は……少し事情があるんです」
了一は半ば予想していた事態を素直に受け入れ、コーヒーを一口飲んで落ち着いてから、大林の事情について質問することを決意した。
「良かったら、話してもらえませんか?」
大林には、上司に勧められたお見合いの末結婚した妻と、二人の間に生まれた活発な小学生の一人娘がいた。絵に書いたような円満な家庭だったが、その幸せは長くは続かなかった。
三週間前、彼の妻が運転する軽自動車が大型トラックの脱輪事故に巻き込まれて大破、後部座席に座っていた娘は軽傷で済んだが妻は即死した。
それ以来、娘は自分の部屋にこもるようになり誰とも口を利かなくなったという。
「だから、どうにかして娘を明るくしようと思って、アリスを人間そっくりに変えることを思いついたんです。娘は彼女のことを姉のように慕っていましたから。あなたのことは、アリスを購入した時にメーカーの人から聞いていましたよ。この絵本にでてくるようなアリスを見れば、彼女も元気を取り戻してくれるはずです」
大林は鞄から、おおばやしさち、と大きくひらがなで名前の書かれた絵本をテーブルの上に乗せた。どこの図書館にもあるような有名な絵本で、大林の娘の宝物だということだ。了一も幼い時に読んだ記憶があるその絵本の主人公からロボットの名前をもらったらしい。
「大林さん、あなたの家庭の問題を解決するのはシリコン製の人形じゃなくて、あなた方自身じゃないんですか?」
ロボットが人間そっくりになって帰ってきたところで、家庭内のどんな問題が解決するだろうか。了一には、塞ぎこんだ少女の心を開くことはできないように思えた。
「わかってます。それでも、僕は娘のために何かをしてやりたいんです」
一言一言の重さから、大林の決意が固い事がわかった。
「その為だったら、百五十万円だって高くない、と思ってるんですね」
「それはもしかして皮肉ですか?」
大林が自嘲するように笑った。
「いえ、素直に立派だな、と感心したんですよ。言い方が悪かったですね。自分は独身で当然子供もいません。ですからあなたが少し遠い人に思えたのでそういう言い方になったのかもしれません」
了一はもう少し言葉を選ぶべきだったと反省し、素直に謝罪した。
「自分も結婚するまでそうでしたよ、自分の稼いだお金は自分のために使って当然、誰かのために大金なんて使えるはずがないって。それでも……」
大林は、顔を上に向け天井を仰いだ。そこにあるのはむき出しの蛍光灯だけだが、大林の眼には何が映っているのだろうか。
「それでも、妻と出会って娘が生まれて、二人の為なら自分の楽しみを削ることさえ苦じゃなくなりました。家族三人で生きていけるなら、ほかに何もいらないって、本気でそう思えるようになったんです」
自分の心境を告白する彼の目からは、一筋の涙が流れていた。
「それなのに、妻はもうどこにもいない。残された娘の為なら、僕は何だって惜しまないです。木崎さんは、親がなくとも子は育つ、という言葉を聞いたことがありますか?」
「ええ、それぐらいなら」
「この言葉はきっと正しいと思います。もし事故で僕と妻を亡くしていても、時がたてば娘は立派に生きていけるでしょう。さちだったら、新しい環境にだって、持ち前の好奇心と明るさで慣れてくれるでしょう。でも、逆はどうでしょう?子供を亡くした親は、立派に生きていけるでしょうか?」
強い意志の籠った大林の二つの眼が、了一の顔をしっかりととらえた。
その気迫に了一は圧倒されてしまった。彼は、娘のためにではなく、娘のために何かせずにはいられない自分のために、百五十万円もの大金を支払うのだろう。家族のために、という言葉に実感のわかない了一はそう解釈するほかなかった。
「わかりました、あなたの依頼を引き受けさせてもらいます。そこに突っ立ってるのと同じくらい人間にそっくりなロボットを、来週あなたにお渡ししましょう」
空になったコーヒーカップにお代りを注ぎに来た黒髪の女性が、ロボットだということに、大林は了一が指摘するまで全く気が付かなかった。
「で、ケイはどう思う?今の話」
大林が帰宅した後、了一は応接間のソファーに座り、ポケットから煙草を取り出してテーブルの上に置かれたマッチを使い煙草に火をつけた。彼は大林の事情について少し思うところがあったので、台所で食器を洗っているケイに依頼について意見を求めることにした。
「どう思ったって、やることは変わりないじゃないですか。それとも、その机の上のものをみすみす見逃すんですか?」
テーブルの灰皿の横には、謝礼と書かれた、前金の七十万円が入った茶封筒が置かれていた。ケイの言う通り、彼にはこの封筒を依頼人に返す気は少しもない。それどころか一週間後に入るであろう残りの百万円も、もう手に入れた気分でいた。
たった一週間、しかも実際に働くのはたったの二、三日で百五十万円を稼げる仕事はなかなかないだろうと彼はぼんやりと考えた。もっとも、彼の手元に残るのは部品代を除いた八十万円なのだが。
「そうじゃなくて……脱輪事故のニュースなんてやってたかな」
「普段時代劇の再放送ぐらいしかテレビを見ない人が最近のニュースについてよく語る気になんてなれますね。やってましたよ、そんなニュース。関東で三件起きて、全体で死者が二人も出たそうです。もっとも死亡事故はそのうちの……」
「さすが、テレビにへばりついている奴の言うことは違うな」
彼はケイの長話を聞かされるような気がしたので、嫌味で彼女のセリフを遮った。
台所から、皿が一枚割れる音がした。