(六) 浜中準
ついにこの時がやってきた。
俺たちはとうとうこの瞬間に立ち会ってしまった。
「長沼さんは?」
「さぁ…、別に何も連絡は聞いてない」
いつも見慣れた教室が亜空間と化す時がやってきた。
俺たちはとうとうこの瞬間に立ち会ってしまった。
「五十川さんは何時までだっけ?」
「えーと、五時半には抜けます」
居並ぶ勇者たちは、紅潮した顔で今か今かとその時を待っている。
そう、俺たちはとうとうこの瞬間に立ち会ってしまったのだ―――。
「五時半か。まだ終わってねぇだろうなー」
「そんなにかかんないわよ」
「庭っちは全然分かってねぇ!」
「はぁ?」
なんだこの緊張感のない会話は!
これから研究会が始まるというのに、なぜ部長自らだらけてるんだ! 許せねぇ、許せねぇ!
「で、ちゃんと持って来たでしょうね?」
「はぁ?」
「はぁ…じゃないでしょバカ」
これもいまいち緊張感のない発表者が、わけの分からないことを口にする。
なんだ、これも奥の手か。俺の怒りを分断する作戦か!?
「テキスト持ってない子のために、余分に持ってる人は……」
「……あ」
「うむ、サダジュンは忘れた、と」
「…………」
ああ!
ああ、俺は忘れていたさ!
俺の家にはなぜか文庫本が二冊あるが、一冊しか持って来てないさっ!
「結局自分のことしか考えてないのよねー」
「騒ぐ価値もねーようなことでギャーギャーうるせぇし」
「まぁまぁ。悪気はないんだから…」
「………」
ナオナオのフォローが空しい。
俺はいつになったら真のナイスガイになれるだろう。レミタンのヒーローになれるだろう。一気に熱は冷めていく。クール・ダウン。
………。
しかし、しかしだ!
一期一会という言葉を知っているか!?
俺たちが今こうやって当たり前のように集まって、宮サマの発表を聞くということが、どれほどの奇跡の積み重ねで成り立っているか、君たちは知っているのかっ!?
「えー、それでは時間を十五分ほど過ぎましたので、そろそろ始めたいと思います。今日は三回生の宮海博美さんの発表で、タイトルはシンプルに「『妖怪談義』概説」だそうです」
「シンプルで何か問題ある!?」
「宮海さんは二年前に本学にめでたく入学され、すぐに歴史民俗探検部へも入部されました。以来、レミタンの主力としてご活躍です。昨年の秋からは副部長…」
「そんな学会挨拶いらないから」
「チェっ、それでは宮海さん、よろしくお願いします」
「どこの世界に舌打ちする司会がいるのよ」
まぁいい。宴の始まりだ。俺はハイエナのように鋭い目で、まずは宮サマの誤字脱字を発見してやるのだ。ふっふっふ。
「………はぁ。えー、宮海です。今日は概説ですので、お手柔らかにお願いします。レジュメは全部で五枚です」




