表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
河図石語  作者: nats_show
相馬探険編
27/35

(二) 相馬美恵

 この町には千年の歴史があるという。

 小学校で習った「町」の歴史は、一応千数百年前から始まっていた。でもそれはあくまで考古学の領域だ。せいぜい理解できるのは、人類が私の生まれた場所に存在したという事実に過ぎなかった…のに、ここではそんな考古の時代に誰がいて何をしたなんて話ができる。

 どちらにしろ、生物学的にいえば同じヒトが生息していた。それなのに………。

 軽い劣等感と大きな好奇心を呼び起こさせるこの町は、もう一つ大きな特徴をもっている。それは、とてつもなく広いこと。

 ここが、私の生まれ育った「町」の十倍以上の人口だということを、もちろん数字では知っていた。それは簡単すぎて受験勉強にもならないぐらいの常識だ。だけど実際に引っ越して近所を歩いてみると、最初はぴんと来なかった。たぶん四月の半ばまでは、そんな感じだった気がする。我ながら細かい記憶だ。

 犬を連れた老人とすれ違いながら進んだ先に、十字路の交差点。信号で立ち止まって、ちらっと視線をずらした右手の道には、何軒かの店が見える。

 反対の道にもやはり並んでいる。

 信号が青になって、どちらにも曲がらずにまっすぐ進むその先にも店が並んでいる。そして次の信号でも、両側に店が並んでいる。

 …そういうことだった。

 そのうち終わるはずの町が終わらないから、だんだん息苦しくなる。十倍すごい町並みなんてないけれど、十倍の奥行きならあるから、いつか溺れてしまう。だからせっかく外に出たのにもう嫌になって、気分が落ち込み始めていた。今日はもう五月だから、立派な五月病患者だった。

 ……独りの探検は無理がある。せっかくの発見も、それだけでは価値がないから。

 発見したなら、誰かに報告しなきゃ。

 でも少なくとも、今日の自分にそんな相手はいなかった。寂しい……のかな。


 ちょっと頭がぼーっとして、逃げ道を探す私の眼に映ったのは、ありふれた本屋だった。ベタベタと宣伝の紙が貼られ、ぽつぽつと人が出入りしている。中には似たような年齢の人もいる。…制服の高校生もいる。

 わずか前まで高校生だった自分も、本屋には普通に通っていた。

 受験生だったから一応は問題集の棚を眺めて、それから雑誌をめくる。目についたスポーツ雑誌を二、三冊読んで、それから旅行ガイドのページをめくるのが日課だった。

 遠く離れたこの町の本屋でも、並んでいるのはほぼ同じような本だった。本棚のそびえる場所の空気も、けだるそうな店員の立ち姿も同じ。だからリハビリにはちょうど良さそうだ。

 手に取ったのは……、なぜかバドミントン雑誌。この表紙は見たことがあった。たぶんこれは月刊誌ですらなかった。どうせリハビリごっこなんだし、何だっていいや。


 中学では、なぜかバドミントン部だった。

 なぜか…、はないか。今のレミタンに比べればごくありふれた部活だ。小学生の頃、なんとなく親に連れられていった町の体育館で、何度か遊んでみたら楽しくなって、だから中学では入学と同時に迷わず選んだ。そして三年間、強くはなかったけれど続けることはできた。もっとも、それである意味満足してしまったから、高校で続けようとはまったく思わなかった。

 それにしても、昔から私はあっさり身の振り方を決めてしまう傾向がある。ということなんだろう。レミタンなんて………。

 ………。

 なんか赤面して、雑誌を閉じた。こんな雑誌でどうやって赤面するのか、聞かれても説明できそうにないから、早々に退散する。ちなみに雑誌の中身はほとんど読んだ記事ばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ