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河図石語  作者: nats_show
GW編
18/35

(六) 村上直美

 私には嫌いな言葉がある。

 その響きを耳にするたびに虫唾が走る。

 だから庭っちが最初に私を誘ってきた時、この旅に気乗りなどするはずがなかった。


「自分探しやってる人たちの聖地だな、あそこは」

「はぁ…」


 改札を抜けた先に立つ、派手な看板の群れ。パノラマ写真でも撮るかのように首を動かして、そして改めてため息をつく私。

 たとえば線路の向こうには、なだらかな山が続いていて、わりと緑も豊かなロケーション。だから気分はハイキング……なんて選択肢も今ならまだ可能。だけどレミタンが軽登山部じゃないことぐらい、残念ながら知っている。せっかくの緑に背を向けて、私たちは曲がりくねった路地に向かう。

 ―――ちょっと無理がある。必要以上に悲劇のヒロインになろうとする自分に嫌気がさして、もう一度ため息をつく。

 とりあえず分かったのは、かつて一度ここに来た、子供の頃の記憶が何も残っていないこと。曖昧なままに昨夜から重ねていた妄想は、もう要らないだろう。


「いい天気ねぇ、直美さん」

「うん」


 「まずは楽しめ!」という庭っちの口説き文句を思いだしては苦笑いしつつ、結局は言い訳ばかり用意する。いつも気の合う博美にまで「さん」付けされて、やっぱり私だけが取り残されている気がする。

 もちろんそれは、見透かされてるからなんだけど。


「今日は気遣い無用でしょ。どうせ案内はバカがやるし」

「案内すんだから今日は天才って呼んでやれ、なぁ相馬さん」

「え、えー…」

「可愛い後輩に無茶な振りしないで」


 心配性、といえば聞こえはいい。

 そこまで分かっているなら、なぜ責めないの?、と去年の今ごろの私は悩んでいた。


「ナオナオに可愛いって言われるとはさすが大型新人だ」

「何言ってんだ、相馬さんは可愛いだろ!」

「…………」


 まぁ私は今でも悩んではいるのだろう。大型新人と昔呼ばれた記憶までしっかり思い出したから、ついでに少し気分も晴れた。


「で、出発の挨拶は誰がするの?」

「俺はさっきやったし………、ここは副部長で」

「はいはい」


 既にポーズまで決めていた準ちゃんを無視するやり取りに、相馬さんがくすっと笑う。

 いつも一緒の三人だから繰り返されるお約束。四人目の私は時々ツッコミを入れ、そして五人目はなかなか定着しなかったけれど、相馬さんはあっさりその位置に座るのかも知れない。

 大型新人。

 その呼び名にどれほどの皮肉が込められていることか。


「まぁのんびり行きましょ。どうせ写真撮りまくり…」

「ガンガン撮れよ、副部長!」

「都合のいい時だけ副部長なのよねー」


 大学とは人生のカオスである。

 誰かにそんな名言を聞かされた。誰に聞かされたかは覚えてない。別に誰だってかまわない程度の名言だ。


「うむ、我々は探索に忙しいからな」

「じゃあ私も忙しいから無理だわ」

「む………」

「………いるじゃん、ほら」

「えー……、と」


 そしてここでは、何の変哲もないビルの中にちっぽけなカオスが充満している。

 そのカオスをとりあえず冷ややかに眺め、嘲笑を投げかける。無意識な私はとにかく嫌な人間だ。大勢に流されながら、正義の自分に安心するばかりの。


「ふっ、ナオナオだけはやめておくんだな」

「え?」

「またカメラ壊されるぞ」

「あれは庭っちが教えてくれないから…」


 でも正義の味方は時々傷つけられて、いつの間にかそれがちょっとだけ楽しくなっていく。博美に言わせればマゾ。去年たまたまカメラが壊れたことまで私のせいにされて、また笑う。

 えー……。

 たまたまじゃないって説もある。


「じゃあ行くぜ、宮サマたんけんたーい!」

「叫ぶな!」


 駅前の大きな地図で、これからの行き先を確認する。

 当たり前の儀式によって、目的地には十五分ほどで到着することが分かったけれど、もしも十五分で着いてしまったら、提案者の準ちゃんには非難が殺到することになる。

 レミタンの評価は、どれだけ寄り道出来るかで決まる。去年の夏、庭っちは偉そうにそう断言した。ならば見せてもらおうか、その実力を。

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