(四) 浜中準
君は知っているか?、責任という言葉を。
高校では国語のジュンと呼ばれた俺だから、さりげなく交わす会話はもちろん、物思いにふける頭の中ですら倒置法を駆使している。その非難の視線を浴びた庭っちは、肩をすぼめて申し訳なさそうな表情だ。俺の目力に恐れおののいているのだ。
「宮サマおはようございます」
「なんか言った!?」
「まぁ落ちつきなさい、お肌に悪い…」
「関係ないでしょバカ部長!」
まぁ聞いてくれ。
たとえばこんな豆知識。斜め四十五度から見た時に、人の顔は一番魅力的であるという。目の前の男はどうやら実践中のようだ。
だがベイベー、四十五度は無精ヒゲが目立つんだ。これは豆知識の豆知識、ライバルに差を付けるぜ。
そうして墓穴を掘りながら、部長が話す先は副部長と相場が決まっている。現に今もそうだ。なんだ、今日も部長はご苦労さんだぜ………じゃねぇだろ!
「庭っち!」
「おう、今日は秋葉系を狙ってんのか?」
「あ、あ…、秋葉系って何だ?」
「なんだ浜中はそんなことも知らんのか」
ふむふむ、正統派ならメガネ、ふけだらけの頭、でかいリュックサック、臭う服、くびれのないウエスト……と、いつの間にか奴の話術に乗せられていた。
出会い頭に意味不明な話題をふって、そのままごまかそうとする。庭っちの姑息な手である。結局、俺と秋葉系には何の共通点もなかった。毎朝六時に起きてでもシャワーを浴びるほどの男に何を言いやがるんだ。
「じゃあ乗りましょ、相馬さん」
「はい」
「素直だなぁ。宮サマの二年前を見るようだ」
「アンタの二年前を暴露してやるわ」
しかし反論は口にする前にうやむやとなり、俺はなぜか最後に改札を抜けてホームへ向かっていた。
なんだかその時俺の心には、春なのに秋風が吹いたようだった。俺は晴れ時々詩人だ。これだから生まれついての文学青年なんて呼ばれるんだぜ…。
……………。
大丈夫。
あなたなら大丈夫。
もういい加減に抜けだそうぜ。
これは倒置法じゃない。省略だ。




