(三) 浜中準
昨日、俺は髪を切った。
家の近くのなじみの店だ。椅子に座りさえすれば、何も言わずに望み通り………のはずだったが、気がつくとカリアゲくんだった。
ファックユー。
そもそも髪はなぜ伸びるのか。伸びなければ散髪に失敗することもなく、ハイエナのような連中に笑いの種を提供することもない。しかし実際には、髪が伸びなくなった時は俺がこの世から消える時だ。いや、俺がこの世から消えてもまだ、わずかには伸び続けるらしい。むごい話じゃないか。
「おはよう準ちゃん」
「うむ、おはようナオナオ」
「さすが準ちゃんは早いねー」
本日の天気は快晴の予定。予想気温も五月下旬並み。まばらな人混みの中で一人立つ俺は、八甲田山の誰かのように凛々しい目印だ。
そこに最初に現れたナオナオは、薄いカーディガンにスカートという「動きやすい服装」かどうかの境界線の格好で、少し遠慮気味にやってきた。
ナオナオは、佐多山のジュンの異名をとる俺様とさして変わらない距離なのに、下宿している軟弱者だ。俺様の姿を見るたびに、敗北者としての自分に気づかされるのだ。
「庭っちは間に合うと思う?」
「何を言うナオナオ、庭っちが信用できないとでも言うのか!?」
「…できるとでも?」
「うーむ」
敗北感を他者に転化しようとするナオナオの腹黒い策謀を、俺は一言で切り捨てた。俺は友を守ったのだ。愛の勇者だった。
そして三十分後、ブチ切れる宮サマの隣で俺は静かに怒りを抑えていた。奴は俺を裏切るのが趣味。乗せられてはいけないのだ…。




