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河図石語  作者: nats_show
GW編
14/35

(二) 宮海博美

 ゴールデンウィークは憂鬱な一週間。たとえば、毎日が日曜日みたいな一人暮らしにとって、本物の日曜日が苦痛であるように。

 そんな私に、欲しかった予定を運んできたのはいつもの男二人だった。

 片方は最初の提案者、そしてもう一方は私の同類。同類の男は私の心の内を見透かすように、「もう人数に入れてある」と言った。私は一瞬ムッとしかけて、でも黙ってうなづいた。

 同類の心の内だって、私は知っている。

 その幽かな優越感が、時々は私を支えてくれる。


「この扉のガタガタ揺れる音がいいんだよ」

「へぇ」

「ほぉ」


 とまぁ、どうでもいい回想はなかったことにして。

 今日は「合宿」の日。

 「合宿」。提案者のバカ中準はそう言った。確かにそう言った。たぶんあのバカは一泊するつもりだった。


「いいかミエミエ、もうすぐ見えるのだがなぁ」

「美恵ちゃんはそれでいいの?」

「えーと、……あんまり良くないです」


 片道一時間の行き先は、直美の実家より近い。そもそもバカと一緒に佐田山ツアーなら、たっぷり二時間。その程度の距離感覚が分からないはずもないのに、真顔で泊まろうと言い出すバカの頭が、まるで理解できなかった。当然のように却下した。


「あれ、あれが古墳だ」

「あそこですか?」

「準ちゃんって詳しいね」


 そうして電車に乗って、既に三十分を過ぎた。

 くすんだ色合いの住宅地を抜け、川を二つ渡って、遮るもののない日射しが緑の景色を少しだけ霞ませている。私は流れ行く線路を糸のように辿りながら、ちょっとだけ後悔しはじめている。

 子供の頃の浜中準にとって、一時間もかかるそこは立派な旅行先だった。地元民だからこその感覚。そんなものを持ち合わせるはずもない私は、余所者なんだと自己主張しただけなのだ。


「美恵ちゃんは、もっと行きたいところもあったでしょ?」

「そういや、まだ引っ越して一ヶ月だよなぁ」

「いえ…、どこに行ったらいいかも分かりませんし…」

「ふぅむ」


 そんな物思いにふけっていたら、話題が変わったようだ。

 部長の「ふぅむ」が響く。それは危険な合図。

 壮大な無駄話の合図。


「まずは檀森寺だな」

「檀森寺?」

「この町の通を自認するなら外せない名所だ。まだ素人の相馬さんには分からないだろうが…」

「はぁ」


 過去の一瞬たりとも通だったことのない余所者の部長が、くだらない名所ばかり嬉々として語り続ける。そんな彼は……、確かに部長にふさわしいと思う。

 もちろん今日の行き先も相当にくだらない。提案者をさしおいて熱く語る部長を、私と直美はどんな目で見ているだろう。


「それで…」

「待て庭っち! 右に見えて来たぞ」

「何が?」

「県民の森だ!」


 並んで座る三人を観客に繰り広げられる、男二名の不毛なせめぎ合い。この空間で目を輝かせている相馬さんは、なるほど大型新人だ。

 だけど………、三人の中では一番目を輝かせてないのも相馬さん。

 だってね。

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