(一) 庭田
山荘の夜は一時を過ぎた。
雨が激しく降つてゐる。
「いい天気で良かったねー」
「レミタンの晴れ男の異名をとる佐田…」
「相馬さんのおかげじゃない?」
うむ、あっさり嘘がばれてしまった。四月末のぽかぽか陽気、券売機前の雑踏もどことなく華やいでいる…と言ってはさすがに脚色が過ぎるけれど、ともかく今から最期のいとなみをするわけでもない私たちは、この町の代表駅で朝の待ち合わせである。
「私はどちらかといえば雨女でした…」
「ほら見ろ」
「アンタが威張るな!」
集合時刻を約十分ほど過ぎた現在。
すでに五人、つまり本日のメンバー全員が揃っているにも関わらず、予定の電車に乗らずに券売機前の雑踏にもまれている現在。
さて質問だ。
俺たちはなぜすぐに行動しなかったのだろうか?
「じゃあ全員揃ったから、まずは部長の挨拶」
「随分堅苦しいなぁ」
「何か言った!?」
「言ってません。えー、本日はわたくしめが寝坊したばかりに電車を一本遅らせ…」
イッツア盲点。トリック。とっくりのセーター…は無関係。俺様こそが待たれる側だったと、いったい誰が気づくだろうか。
………。
申し訳ない。今日の目覚ましは愛くるしい女性の声だった。いや、罵声と呼んでも差し支えない。宮サマは案外アニメ声だったりするが、別に何かのキャラを連想するわけでもない。全くどうでもいい。
「そんなわけで気を取り直して参りましょう」
「庭っち以外が、でしょ」
「ナオナオは悪い友だちの影響を受けてます」
幸い、俺の部屋は駅の近くだった。そして次の電車もすぐにやって来た。本日の目的地はここから一時間程度、多少予定が狂っても大したことはない。それが分かっているから遅刻したと言えなくもないが、口にすれば部長としての威厳は地に堕ちるであろう。
そんなものは最初からないけど。
まぁしかし旅は旅。貧乏学生にとっては片道千円でも楽じゃないのだ、どうせなら気分を高揚させなきゃ損だ。ハイになりましょう…。
「相馬さんって、高校までは何て呼ばれてたの? やっぱり美恵ちゃん?」
「ふっふっふ、教えてやろう実は…」
「アンタには聞いてない!」
乳首が青い人は元気だろうか。なんだか萎えるものを思い出してしまった。座席もロングシートで旅情のかけらもないし、だいいち俺と浜中は席すらないし。
「呼び捨てが…多かった気がします」
「本当に?」
「いや違う。実はキミたちに知られたくない過去があったのだ」
朝から元気な浜中は、実は早起きを得意とする特異な大学生。
……うむ。
言ってみたかっただけだ。
「どうせミエール星人とかでしょ」
「…………」
「当てちゃう博美もどうかと思うけど」
止まっているのに動いている、そんなシュールな一時間。シュッポ、シュッポ、電車の音じゃないけど俺たちは進む。進んでいく。進まされている。
受動態にすると現代思想っぽくなると言ってたのは古湊先生だった。どうだろう、今の自分は輝いているだろうか。




