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逃げて寝る

 二話になります。

 さて元いた原っぱに出たのはいいのだけれども。

 始まりの街には入れない。なら、先に進むしかない、という単純明快な思考の元、二番目の街――チーリィに歩を進める。

 道中は、先ほど巨人を目にしたためかものすごく気が楽だ。

 ポークマンとかスライムとかなんて、全然怖くないもんね。

 とか思いつつ、適当に攻撃をかわしながら歩いていると、いつの間にかポークメンとスライムスに囲まれていた。


 わんさかいる。


 それはもう大量にいる。

 ポークマンが十何体、スライムも同じく。

 とりあえずポークマンのラリアット攻撃をくぐると、背を向けて一直線にぼくは駆けだした!


          ☆☆☆


 僕はまだ、そのまま走っていた。

 心なしかモンスターの数が増えている気がする。というか気のせいじゃないや、増えてるよ倍に。


 それでも走る。戦う手段を持ち合わせていないからだ。


「誰か! 助けてください!」


 始まりの街から原っぱを真南に突っ切っていくと針葉樹が立ち並ぶ森がある。

 狭い獣道が主で、ここに逃げ込めばモンスターどもに囲まれる心配はないだろう。


 あと少しで森の入口だというところで……


 ずりゅっ

 思いっきりすっ転んだ。


 それはもう見事にすっ転んだ。

 僕の人生で一番綺麗に転んだといえる。

 踏み出した右足が柔らかい下草の上を滑り、顔面からスライディングしたのだ。


「~~~~ッ」


 鼻柱を強打したぼくは、声にならない悲鳴を上げた。

 その時だ。

 ぼくに声をかける人がいた。


「あの……、大丈、夫?」


 顔を上げると、そこに――っていまはそんな暇はなかった!

 そのプレイヤーの手を取ると、ぼくは駆け出した。


          ☆☆☆

 

「はぁ……はぁ……はぁ……、ん、はぁ」


 無我夢中で森を駆け抜けると、学校の教室くらいの広場に出た。

 ここはモンスター不侵入エリア、安全地帯だそうだ。フィールドが切り替わる際にチュートリアルでそう表示された。

 大の字になって寝転んでいるぼくと、膝に手をついて肩で息をしているもう一人。巻き込んじゃって、悪いことをしたなあ、という気持ちから声をかける。


「ん、ふぅー。……ごめんね、巻き込んだ上に無理やり走らせちゃって」


 まだ息が整っていないのか、向こうは返事を返さないので、言葉を続ける。


「ぼくはウィロウ。職業は一応、テイム系ライダーなんだけど。……しゃべれる?」

「いえ、……ふう、ふう、……大、……丈夫、で、す……」

「あー、辛いなら良いよ、待つ。悪いのはぼくだから」


 起こし掛けた上体を、再度柔らかな下草の上に投げ出す。

 そして目を瞑る。


 気持ち良い。


 あくまでシステムでしかないのだけれど、上空から差し込む太陽の光は暖かくて、時折髪を揺らす風は柔らかい。

 また、森で木がいっぱいあるからか、空気が適度に染めっており、空気が美味しく感じる。

 天国って何? と父に説明したら「天国……それはな、すごく気持ち良いところだ。父さんも、母さんとに出会う前はよく行ったものだよ。ただ、最近は法律が厳しくなって、めっきり見なくなったがなぁ」とのことだった。

 後日、父が言っていた天国とは大人のお店であったことが発覚して母さんがへそを曲げるという事件があったのだけど、それはまた別の話だ。

 

 でも、天国とは気持ちが良い場所、だとしたら、ここがきっとそうだ。


          ☆☆☆


「落ち着きました」

「そう、それは良かった」


 ぼくが柔らかい下草に頬を撫でられ、もうあと少しで眠気に誘われそうになった頃(約二分)、目の前のプレイヤーはやっと息が整ったようだった。

 やや薄ぼんやりする頭を振って、聞く。


「名前は?」

「えっと……、デンゲン、です」


 ふーん、と適当に相槌を返しておいた。

 デンゲンか。変な名前だ

          ☆☆☆(改訂終了。とりあえずここまで)



 ぼくは、モンスターに直接攻撃する手段が無い事を悟ると、敵の自滅を誘う戦い方は出来ないか、ということだけを考えるようになった。

 というわけで、早速魔王迷宮にて実験。(正式名称はリーストガリア魔王領)


 巨人を捕まえて検証。

 振りかぶった棍棒をスキル???を使ってかわし続けながら、股の下をくぐり抜ける。


 案の定、棍棒はぼくを追ってきて巨人のまたぐらに直撃するか、と思われたが当たらなかった。残念。


 なにかないか、とスキル???で攻撃をかわし続けてみる。


 三十発目くらいにやっと、巨人が動きを見せた。


 棍棒を大きく振りかぶったのだ。


 フルスイングのかまえ。


 巨人渾身の一撃であろうそれを、やはりスキル???を用いよける。


 すると、棍棒を振り切った勢いで巨人はバランスを崩し、コケた。


 HPバーをみると、微妙に減っている(三十分の一くらい)。


 わずかな勝機が見えた!


 しかし、ちまちまとしかHPが減っていかない。


 結局、巨人を倒すまでに膨大な時間と恐ろしく精神力を使い果たした。


 だって、絶対よけられるって分かってても、やっぱり怖いもん……!


 棍棒が目前まで迫り、それが体のギリギリをかすめ続ける。


 さすがに、スリルがどうのとかいえる次元を離脱している現実(リアル)に、ぼくの顔は引きつりっぱなし。 


 それはまあ仕方のないこととして脇においておくとして。


 その後ぼくは半日くらいかけて三体の巨人を倒し、原っぱに戻った。


 くう、と、腹がなったのだ。


 リアルに再現してるね、このあたり。


 と、ぼくは肩にかかる髪を払い上げながら思う。アバターも現実世界のぼくとまるっきり同じじゃん。


 すごいな、仮想現実世界。


 しかし、町に入れないぼくはどうやって食料を調達すればいいんだ?


 モンスター狩って肉剥ぎ取って焼いて食べる?


 いやいや、クラスの男子(リアルサバイバー。虫とかも食べるらしい)に確かそんなのがいたけど、ぼくはちょっと無理かな。


 他のプレイヤーに頼んで買ってきてもらおうか、とも考えたのだけれど、流石に初対面のプレイヤーにそんな事をいきなり言うのもちょっとな……。気が引けるというか。


 くう


「あの、すいません。ぼくのかわりに、町で何か食糧を買ってきてくれませんか?」


 腹の虫には逆らえなかった。


 通りかかったプレイヤーには怪訝な顔をされるが、お金は払うし、この棍棒(巨人が持っていたのを拾った)をあげるので、と言えば、快く引き受けてくれた。


 ぼくの容姿もあいまって、もしかしたらNPCノンプレイヤーキャラクターのクエストに思われたのかもしれない。(クラスの女子からは妖精さんみたい、と言う評価を頂戴している。これは、喜ぶべきか、否か……)


 数分その場で待機していると、すぐにそのプレイヤーは帰ってきた。


 手に持ったパンのようなものをこちらにわたしてきたので、ぼくも棍棒をあげる。


「ありがとうございます」

「いえいえどうも」


 青年プレイヤーはそのまま去っていったので、早速パンに齧りつく。


 思ったより大きいな、これ。

 

 口を大きく開いてもパンを上手く口に含めない。


 試行錯誤した結果、ちぎって食べる事にした。


 三センチくらいの大きさでちぎって、口に放り込む。


 うん、丁度良い大きさ。


 お腹がすいていたのもあって、たちまちの内にコッペパンほどの大きさのパンを食べ終える。満腹満腹♪ 


 しかし、見た目だけじゃなくて、声や口の大きさまで再現するのもなー。


 ぼくの口は小さい。


 でも、けっしておちょぼ口ではない。一般と比べて、小さいといったのである。


 ついでに身長もちっちゃい。150cmくらい。


 いつもは気にしている事なのだけど、このゲーム内においてはそれが役立ってるから複雑な気分……。


 さて、お腹もいっぱいになったし、もう一度魔王ダンジョンに行くまでに寝ようかな。


 依然街に入れないぼくは、当然のことながら寝ようと思えばフィールドで寝る事になる。


 寝ている間はとっても無防備な為、安全な場所を探さなければならない。


 なのでぼくは原っぱを突っ切って、その奥の森に入っていく。


 原っぱから森に入る。(移動先が上手くつながらないバグは街に入るときのみ作用……)


 そして、手ごろな大きさの木を見つけると、するすると登る。


 む。


 手の小ささまで再現されてる。


 おかげで、幹のほうの太い枝が握れない。


 腕で支えるようにして、体を持ち上げ樹の上にのぼる。


 先っぽの方の枝を折り、それを組みあわせてハンモックのようにして、ついでに下から見えないように葉も敷き詰める。


 裁縫や縫い物など、手先が器用であるぼくの得意分野である。


 ハンモックを作るくらい、簡単簡単。


 それに、勢いよく飛び込んでみる。


 おお、ふかふかだ。


 組み合わせた枝は、ちょっとやそっとでは折れそうにないので、これなら安心して眠れそうだ。


 後日発覚したが、木の先端の枝以外は、折れることの無い固定オブジェクト(木や石、家など動かない障害物のこと)だった。


 どうりで折れないわけですよ。


 ふわぁあ。


 横になると、急激に眠気がぼくを襲った。まぶたが重くなる。


「おやすみなさい」


 ぼくは誰に言うでもなくそうつぶやくと、眠気に身を任せるように、意識を手放した。


                                    Zzz………。

 書いてて凄く楽で、あと楽しいです

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