朝焼けの境界線
午前5時半。
ハイヒールの音を引きずるように、歌舞伎町のコンビニに入る。
タバコとエナジードリンク2本。
いつもの組み合わせをカウンターに置いた。
「1030円です」
その声音に、差し出しかけた手がわずかに止まる。
——似てる気がした。
それだけのことなのに、記憶は勝手に輪郭を描き始める。
袋を受け取り店を出る。
白み始めた空気の中、レジ袋がかさりと鳴った。
坂道を登る。
足取りは重く、ヒールの音だけがやけに響く。
レジ袋の中で缶がぶつかる。
——もう、とっくに終わってる。
そういうことにした。
何年も連絡は来ないし、探す理由もない。
そして何より、待つほど若くもない。
だから……終わり。
何度も何度も、そうやって区切りをつけてきた。
朝が来て、仕事から帰ってきて、眠って、また夜に起きる。
ずっと同じだった。
変わることなんてない。
ビルの隙間に、朝が滲んでいる。
見上げる理由もないのに、癖みたいに空を見る。
——空って、どこにいても繋がってるんだよな。
少し笑いながら、そう言った声。
「……バカみたい」
小さく吐き捨てた声は、やけに乾ききっていた。
それなのに……視界が滲む。
何度も見てきたはずの朝焼けが、今日は妙に眩しい。
目を細める。
その先。
逆光の中に、ひとつの影が立っていた。
一歩、近づいてくる。
靴音だけが、迷いなく響いている。
それでも、目だけは逸らせなかった。
「……何、そんな顔してんだよ」
少しだけ息を含んだ声。
聞き間違えるはずのない声。
心臓が、遅れて強く打つ。
一歩分の距離で足が止まる。
ほんのわずかな沈黙。
「迎えに来たよ」
指からレジ袋が滑り落ちる。
「……ホント、どれだけ待たせんだよ……」
朝日は容赦なく二人を照らしていた。
逃げ場のない光の中で……
それでも——確かに現実だった。




