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短編作品集

朝焼けの境界線

作者: きら☆麿
掲載日:2026/06/14

 午前5時半。


 ハイヒールの音を引きずるように、歌舞伎町のコンビニに入る。


 タバコとエナジードリンク2本。


 いつもの組み合わせをカウンターに置いた。


「1030円です」


 その声音に、差し出しかけた手がわずかに止まる。


 ——似てる気がした。


 それだけのことなのに、記憶は勝手に輪郭を描き始める。


 袋を受け取り店を出る。


 白み始めた空気の中、レジ袋がかさりと鳴った。


 坂道を登る。


 足取りは重く、ヒールの音だけがやけに響く。


 レジ袋の中で缶がぶつかる。


 ——もう、とっくに終わってる。


 そういうことにした。


 何年も連絡は来ないし、探す理由もない。


 そして何より、待つほど若くもない。


 だから……終わり。


 何度も何度も、そうやって区切りをつけてきた。


 朝が来て、仕事から帰ってきて、眠って、また夜に起きる。


 ずっと同じだった。


 変わることなんてない。


 ビルの隙間に、朝が滲んでいる。


 見上げる理由もないのに、癖みたいに空を見る。


 ——空って、どこにいても繋がってるんだよな。


 少し笑いながら、そう言った声。


「……バカみたい」


 小さく吐き捨てた声は、やけに乾ききっていた。


 それなのに……視界が滲む。


 何度も見てきたはずの朝焼けが、今日は妙に眩しい。


 目を細める。


 その先。


 逆光の中に、ひとつの影が立っていた。


 一歩、近づいてくる。


 靴音だけが、迷いなく響いている。


 それでも、目だけは逸らせなかった。


「……何、そんな顔してんだよ」


 少しだけ息を含んだ声。


 聞き間違えるはずのない声。


 心臓が、遅れて強く打つ。


 一歩分の距離で足が止まる。


 ほんのわずかな沈黙。


「迎えに来たよ」


 指からレジ袋が滑り落ちる。


「……ホント、どれだけ待たせんだよ……」


 朝日は容赦なく二人を照らしていた。


 逃げ場のない光の中で……


 それでも——確かに現実だった。

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