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第6話

電話はすぐにつながった。


「はい」


 聞き慣れた声に、胸の奥がきゅっと縮む。


「お母さま……茜音です。

 今日、もしご予定がなければ、そちらに遊びに行きたいのですが……」


 一拍の間もなく、返事が返ってくる。


「今日は何の予定もないから大丈夫よ。  お父様も今日は家にいるわよ。

 待ってるから、いつでもいらっしゃい。

 どうせなら、こちらでお昼をいただきましょう」


 その声音は、いつも通り穏やかで、変わらない。


「……ありがとう」


 それ以上、言葉が続かなかった。

 電話を切ったあともしばらく、スマートフォンを握ったまま動けずにいた。


 母や父には、奈菜が現れてから、散々心配をかけてしまった。


 何度も、陸翔を諦めるように説得された。

 それでも、私は諦められなかった。


 愛していると言われた言葉にすがり、  優しさにすがりつき、

 何度も、自分を納得させようとした。


 今回の未来が、どうなるのかは分からない。


 また同じ結末が待っている可能性の方が、きっと高い。


 それでも。


 自分だけなら、受け入れられる。  どんな形で終わっても、構わない。


 でも――  家族だけは。


 父と母だけは。  兄だけは。


 何としても、助けたかった。


 そのために、今日、会っておきたかった。


 元気な母を。  変わらない父を。


 この目に、焼き付けておきたかった。


 スマートフォンをテーブルに置き、  茜音は立ち上がる。


 このままの顔で会いに行けば、  きっとすぐに気づかれてしまう。


 シャワーを浴び、熱い湯に肩まで浸かる。

 水音に紛れて、深く息を吐いた。


 鏡の前に立つと、目の下にははっきりとした影が残っている。

 隠そうとして、少しだけ化粧が濃くなった。


 それでもいい、と自分に言い聞かせる。


 バッグを持ち、玄関を出る。


 愛車に乗り込み、エンジンをかけると、  低く安定した音が響いた。


「……久しぶり。元気だった?」


 思わず、そんな言葉がこぼれる。


 ハンドルを握る手に、力を込める。


 今度こそ、間違えない。


 今度こそ、選ぶ。


 その想いと一緒に、  茜音はアクセルを踏んだ。

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