第19話
茜音は、陸翔の車が見えなくなるのを確認してから、家の中へ戻った。
ダイニングテーブルには、家族全員が揃っていた。
その空気だけで、もう隠せないと分かる。
「……陸翔君は、なんだと?」
父が、静かに口を開いた。
「……ちゃんと、話を聞いてほしいって……」
それだけ告げると、自然と視線が落ちる。
家族全員が、茜音の次の言葉を待っていた。
「……ただ、もう少し時間が欲しいって伝えました」
「まだ……私が陸翔と向かい合ったとき、冷静に話を聞ける自信がなくて」
「冷静に話なんて、聞けるわけないわ」
春奈が、感情を隠さず口を挟む。
「茜音の気持ちは分かるが……」
父は一度、言葉を選んでから続けた。
「引き延ばしすぎると、余計に会いづらくなるぞ」
母も、小さく頷く。
「分かってる」
茜音は、はっきりと答えた。
「近いうちに、ちゃんと話をする」
「でも……今日は、一度ホテルを引き払ってきます」
「……家には、帰ってくるのよね?」
母が確かめるように尋ねる。
茜音は、小さく頷いた。
「うん。今日は帰ってくる」
「でも……もし良ければ」
言葉を区切ってから続ける。
「昨日、お義姉さんが言ってくれたみたいに……お義姉さんのマンションに移れたら、嬉しい」
「……居づらいのか?」
啓介の言葉に、首を横に振る。
「違う」
「本当に、一人で、ゆっくり考えたいだけ」
その言葉に、茜音以外の家族が顔を見合わせた。
「……春奈さん、悪いが、頼めるだろうか」
父の言葉に、春奈はゆっくりと頷く。
「はい。分かりました」
「ただ……大学卒業後ずっと空き部屋だったので、一度業者を入れさせてください」
「いいかな? 茜音ちゃん」
その問いかけに、茜音は静かに頷いた。
「……よろしくお願いします」




