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第18話

その夜、茜音は実家に泊まった。


 久しぶりの自分の部屋。

 懐かしいはずの天井を見上げながら、目を閉じても、眠りは浅かった。

 身体は休んでいるのに、意識だけが静まらない。


 まだ空が白みきらない時間。

 茜音はベッドを抜け出し、そっとカーテンに手をかけた。


 窓の向こう、門扉の外の通りに――  一台の車が停まっている。


 見慣れた色。  見慣れた形。


 その横に、寄りかかるように立つ人影があった。


「……陸翔」


 小さく息が漏れる。

 その瞬間、視線が合った――ような気がして、茜音は反射的にカーテンを閉めた。


 胸が早鐘を打つ。  どうして、ここにいるの。  いつから。


 しばらくして、部屋のドアが控えめにノックされた。


「……茜音。起きてるか?」


 兄、啓介の声だった。


「はい。起きています」


 返事をすると、ドアがゆっくりと開く。

 茜音が窓際に立っているのを見て、啓介は短く息を吐いた。


「……実は、昨夜から陸翔が来ている」

「茜音は疲れて寝てるからと言って、何度か帰るように伝えたんだが……帰らずに、ずっといたらしい」


「……そう……」


 それ以上、言葉が出なかった。


「……支度をしたら、行きます」


「無理をしなくてもいいからな」


 啓介が出ていくと、部屋はまた静かになった。


 茜音はもう一度、カーテン越しに外を見た。

 陸翔は、まだそこにいた。


 深く息を吸い、吐く。  そして、玄関へ向かった。


 砂利を踏む音が、やけに大きく響く。  一歩ずつ、距離が縮まる。


「……陸翔」


 呼びかけそうになった名前を、喉の奥で止める。


 駆け寄りたい。  その衝動が、確かにあった。


 けれど同時に、胸の奥に沈んだ重みが、茜音の足を止める。


 陸翔が顔を上げた。


「茜音……」


 視線は逸らされなかった。  逃げも、取り繕いもない。


 そのまっすぐさが、かえって苦しい。


 ――だめ。


 分かっているのに、足が一歩、前に出そうになる。


「……心の整理が、できていないの」


 茜音は視線を落としたまま言った。


「まだ、話ができそうにないの」

「だから……今日は帰って」


「茜音――」


「……お願い」


 その声は、震えていた。


 陸翔が一歩踏み出し、茜音の腕を掴む。

 反射的に、その手を振り払った。


 次の瞬間、陸翔の身体が大きく揺れた。


「……っ」


 低く、押し殺したような声。

 陸翔は一瞬、身体を折るように前かがみになる。


「……え?」


 思わず、茜音が近づこうとしたとき――


「社長!」


 車の運転席から、秘書の田口が飛び出してきた。

 慌てて陸翔の身体を支える。


「奥様、社長は昨夜、足を怪我されています」


「……怪我?」


 茜音が田口を見ると、陸翔は小さく首を振った。


「大丈夫だ……心配ない」

「本当に、やましいことは何もなかった」

「信じてほしい、茜音」


 懇願するような眼差しに、心が揺らぐ。


 ――信じたい。

 その気持ちが、確かに胸にある。


「……少しだけ」

「少しだけ、時間をください」

「今は……何も考えられないの」


 深く頭を下げ、茜音は踵を返した。


 玄関のドアを閉める直前、  わずかな隙間から、もう一度だけ外を見る。


 田口に支えられ、  体重をかける足をかばうように立つ陸翔。


 不自然な立ち方。


 ――怪我。


 胸の奥に、昨夜の光景が重なった。


 あのとき、陸翔はベッドにいなかった。

 奈菜と絡み合っても、いなかった。


 まるで、  そこにいることを拒むように――

 陸翔は立ち尽くしていた。


ブックマークや評価をしてくださった皆さま、本当にありがとうございます。

気づくのが遅れてお礼が遅くなりました。

とても励みになっています。

PVが増えてきたのでR15を入れました。


まだ物語は続きますので、

これからも見守っていただけたら嬉しいです。

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